タイバーツの急落をきっかけに周辺各国に伝播したアジア通貨危機。発生から20年後の現在は金融市場がより高度に進化しているため、危機が再来した場合の対応には金融先進国である日中韓の連携が不可欠です。が、この3カ国は政治的な対立で関係が悪化しており、先行きには不安がつきまといます。


今年のゴールデンウィーク期間中、アジア地域のインフラ整備を支援するアジア開発銀行(ADB)の創設50年を記念した年次総会が横浜で開かれ、それに合わせ日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)を含めた財務相・中央銀行総裁会議が行われました。足元は米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ方針から新興国は通貨安に傾きやすく、状況次第では今後再び通貨危機に陥らないとも限りません。


20年前のアジア通貨危機は、1990年代の新興国ブームで経済的な発展を遂げたタイがまずターゲットになりました。好景気の終えんを見越した投資家が徐々に売り抜ける動きが広がり、そこへバーツは過大評価されていると判断したヘッジファンドが資金を一気に引き揚げ、他のアジア通貨も対象に空売りを仕掛けます。空売りの標的にされた各国通貨は政府が買い支えることもできず、変動相場制の導入を余儀なくされました。


アジア通貨危機の経緯を踏まえ、まず短期的な対応として、ASEAN+日中韓は諸国間で外貨準備が不足しないよう「チェンマイ・イニシアティブ」を締結しました。例えば、危機の際に当事国はドルを売り自国通貨を買い支えることで暴落を食い止める必要があり、各国間で協力してドルを融通し合えるシステムです。こうした取り組みもあってか、2008年のリーマン・ショックでは大規模な金融危機は回避されました。


アジアの金融問題に関する協力体制をより強固にするためには、「特に日中韓の3カ国の関係強化が重要」と専門家は指摘しています。しかし、今回の会合に中国の肖捷・財政相や易綱・中国人民銀行副総裁は欠席しました。北朝鮮問題などの地政学リスクが域内の課題として共有される一方、ASEAN側から提案された国際通貨基金(IMF)による融資枠拡大についての議論は煮詰まらなかったと報じられています。


日中韓の関係は現在、最悪といっていいかもしれません。中韓は、北朝鮮のミサイル攻撃への監視を名目とした高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備の問題、日韓は領土問題をはじめ日本大使館前の慰安婦像設置の問題でそれぞれ対立。また、日中は尖閣諸島問題や歴史認識の違いなど、修復困難な状況が続いています。


こうしたなか、ADBと中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)が連携してインフラ整備などを模索する動きも出てきました。両者の協調関係が地域の安定を生み、結果として通貨危機を回避するためにこれまで積み上げてきた取り組みをさらに発展させることが期待されます。

「吉池 威」




<MT>

情報提供元: FISCO
記事名:「 【フィスコ・コラム】アジア通貨危機の再来を防げるか