◆NHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」を毎朝欠かさず観ている。時はリーマンショック直後、ヒロイン舞ちゃんの実家である東大阪のねじ工場も大ピンチを迎えている。そこに風来坊のお兄ちゃんが帰ってきて、父親に工場を売って商売をたためと言う。舞ちゃんは、「大事な工場売れて言われてもお父ちゃんは、売れへんと思う。働く人のため、このピンチ乗り越えようと思ってるねん」と諫めるが、お兄ちゃんは厳しい言葉を返す。「甘いな。利益のでん会社はつぶれるしかない」

◆町工場ではなく、れっきとした東証プライム上場企業でも、「利益」がでなくて「実質的に」つぶれているような会社はごまんとある。株式会社たるもの、単に黒字ならいいというわけではない。資本コストを上回る利益をだせない会社は純資産を棄損していく。そのような企業は事業を続けないで解散し、資産をすべて売り払って投資家におカネを返したほうがいい。それがPBR1倍=解散価値割れの意味だ。改めて調べてみて驚いた。年初の時点で、東証プライム市場の8割の企業がPBR1倍を下回っていた。

◆PBRが低いのは端的に言えばROEが低いからである。思い返せば2014年の政府の成長戦略、いわゆる「骨太の方針」で「欧米並みのROEの達成」が謳われたり、「伊藤レポート」が8%のROEを求める提案を出したりして以降、ようやく我が国でもROEに対する意識が高まった。一時は10%に達する年度もあったものの、結局のところ、上場企業全体としてROEは8~9%程度で横ばいだ。

◆昨今はESGをはじめ人的資本経営、パーパス、ウエルビーングなどの言葉が企業経営のキーワードとして盛んに使われている。もちろん、それらはみな大事なことではある。しかし、企業は慈善団体ではない。稼いでなんぼ、の世界だというのを忘れてはならない。社会課題の解決と利益追求は両立し得る。

◆報道によれば、東証自らが低PBR撲滅に向けて動き出すという。具体策は明らかになっていないが、方法はひとつしかない。プライム上場の条件にROEやROICなどの数値基準を設定することである。過度な株主第一主義になるとの批判は重々承知のうえだ。でも、そのくらいやらなければこの国の資本市場は活性化しない。ESG、人的資本経営、パーパス、ウエルビーング、いろいろあるが、企業は利益を稼いでこそなんぼである。その基本に立ち返ってこそ、我が国の株価は「舞いあがる」のだ。そう願う2023年の年頭である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:1/10配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【新潮流2.0】:舞いあがれ!(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)