これに対しアメリカはインドと、2002年に情報保護協定GSOMIA(General Security of Military Information Agreement)を、2016年に燃料や物品の相互融通を規定するLEMOA(Logistics Exchange Memorandum of agreement)を、そして2018年には相互の通信に係る協定であるCOMCASA(Communications Compatibility and Security Agreement)を締結、軍事協力関係を強化しつつある。しかしながら、米国からの武器輸出が本格化したのは、2015年以降であり、その内容もP-8哨戒機4機、AH-64攻撃ヘリ28機、チヌーク輸送ヘリ15機、対潜ヘリ24機、無人機(プレデター)2機などである。インド軍の主力装備が依然としてロシア製で占められている現状に変化はない。
S-400の導入は、政治的そして軍事的に米印関係に大きな影響を与える。 政治的な影響は、アメリカ国内法であるCAATSA(Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act )の適用に関する問題である。同法は、2017年7月に制定され、イラン、ロシア及び北朝鮮と取引を行う国に経済制裁を科すというものである。2020年12月には、トルコのS-400配備に対し制裁が発動されている。制裁対象となったのは、トルコ国防産業庁の長官を含む幹部であり、アメリカ管轄区域における資産の凍結などの制裁が科されている。アメリカとトルコはイスラム過激派組織ISIL対応におけるクルド人の取り扱いを巡り対立した経緯がある。アメリカのトルコに対する強硬姿勢は、この対立を背景にしていると指摘されているが、NATOの同盟国であるトルコへの制裁はNATOの結束に悪影響を与えるものである。
Indian Express紙によれば、二人の米上院議員がバイデン大統領に、インドに対する制裁を発動しないように要請する書簡を提出したと伝えている。現時点で、バイデン大統領がどのような決断を下すか伝えられていないが、制裁を発動しなかった場合、トルコへの対応との整合性が問われる。一方で、何らかの制裁を加えた場合、中国がこれにつけこみ、QUADの弱体化を図るであろうことは明白である。