二国間以上の国が海上共同訓練を実施する場合、最もクリティカルとなるのが通信である。母国から遠く離れた洋上を行動する場合、通信衛星を介した通話やデータの交換が行われる。中国及びロシアはそれぞれ独自の通信衛星を運用している。送受信器や暗号も当然別であろう。このため、洋上における中露艦艇同士の通信は、同一周波数を用いた無線通信を使用せざるを得ない。無線通信も当然暗号をかける必要があるが、暗号は高度な秘密に属し、その共有は信頼関係だけでは実施できない。日米間には「軍事情報保護協定」のみならず各種協定が結ばれており、衛星を含め通信の共有がなされている。アメリカは、それぞれの国と各種協定を結んでおり、多国間訓練の場合は、アメリカの艦艇が中継する形で通信網を構築できる。例えばアメリカはインドと「軍事情報保護協定」、「補給品等の交換協定」に次いで、2018年に通信に関する協定、COMCASA(Communications Compatibility and Security Agreement)を締結している。中ロ間でこのような協定が締結されているか不明であるが、いくつか撮影されている合同部隊のそれぞれの艦艇の距離は、米国を中心とする多国間共同訓練における距離よりも明らかに広い。中国側指揮官が述べているような「実戦的訓練」というよりは、通信が届かない事による衝突等のおそれを避けるために、安全面を重視し、一定の距離をとらざるを得なかったのではないかと推定できる。