ゲスト
橋本欣典(チューリンガム株式会社 COO)
東京大学大学院経済学研究科金融システム専攻。日本取引所グループでは日本証券クリアリング機構にてクオンツとしてIRS、CDS、上場デリバティブ、現物株の証拠金アルゴリズムの高度化に従事。その後bitFlyerの経営戦略部にて、デリバティブ商品設計、仮想通貨AML 体制構築などに関わったのち、BUIDLにてリサーチャーとして交換業向けコンサルティング、アドレストラッキングツールのアルゴリズムを開発。また、Scaling Bitcoin 2019 にて論文を発表。

聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)


白井:暗号資産やブロックチェーンに興味をお持ちの方であれば、橋本欣典さんのお名前は知らなくても、「カナゴールド」というハンドルネームは皆さんよくご存じでしょう。ブロックチェーン企業「チューリンガム」の創業者のひとりで、COOをつとめている橋本さんは、ブロックチェーン界隈ではつとに有名な論客です。

2014年に東京大学大学院経済学研究科金融システム専攻を修了後、大学院を出られたあと新卒として株式会社日本証券クリアリング機構に入社され、1年目にして金利スワップ取引のモデリングを構築されたそうです。その後、暗号資産交換業大手のビットフライヤーを経て、ブロックチェーン企業のチューリンガムを創業されています。

金融工学とプログラミング、ブロックチェーンに深い知識をお持ちのうえ、金融市場の獰猛さを熟知されている稀有な存在です。趣味は数学とポーカーに加えて、社員やブロックチェーンエンジニアとサバイバルゲームで汗を流すことだそうです。

橋本:ご紹介ありがとうございます。きょうは対談ということで、改めてどうぞよろしくお願いします。

ブロックチェーン技術を応用したデジタルマネーの出現

白井:インターネットの普及によって、情報やコンテンツの限界費用がゼロになり、情報産業の破壊的創造をもたらしたのが「情報革命」ですが、ブロックチェーンの出現で引き起こされる破壊的創造は「価値革命」ではないかと考えています。

ブロックチェーンによって作り出されるトークン、たとえばビットコインが価値を持つことで、理論的には、極小の価値を世界のどこへでもほぼゼロコストで瞬時に移転できるようになりました。また、ブロックチェーンによるスマートコントラクトは、予め決められた契約の自動執行であり、トークンを使うことで相手の信用(カウンターパーティーリスク)にかかわらず価値の交換を可能にしています。第4次産業革命によって達成されるサイバーフィジカルシステム(現実社会のあらゆる情報を取得し、人工知能がそれを解析し、現実社会を操作することで社会の最適化を図る枠組み)においても、スマートコントラクトが活用されると考えられています。中国政府が進めるデジタル人民元もスマートコントラクトの実装を2021年7月に発表しました。

スマートコントラクトは、人間社会での価値の移転が高効率化されるだけでなく、管理者不在で分散管理された自律的なプログラム集合体組織をつくることが理論的には可能となります。実際に、数年前からDeFi(ディファイ=Decentralized Finance:分散型金融)と呼ばれるものが数多く誕生しており、すべてのソースコードがオープンであるため、手数料課金をはじめ、あらゆるトランザクションがステークホルダー全員に対して公正に運用されています。このブロックチェーン技術によって、現在の不透明なプライシングの金融業界や金融商品を代替することが期待されます。

現在、このような社会実装を見据えた試みが全世界的に進行しており、ブロックチェーン時代の幕開けと言っても過言ではありません。ブロックチェーンによるデジタル金融は、第4次産業革命に対応する金融市場と捉えることができます。金融市場の高度化による資本の有効活用で、過去の産業革命が推進してきた構図に近くなると思われます。

世界中で稼働している「中央集権」的な思想で構築されているシステムは、ブロックチェーンによって大きく変わりつつあります。ブロックチェーンは「P2P(ピア・トゥ・ピア、サーバを介さずに、端末同士で直接データファイルを共有することができる通信技術)で取引ができ、中央の管理者がいない通貨を支える台帳(分散型台帳)」として発表されました。すなわち、ネットワークに参加する世界中のコンピューターに過去データを記録し、相互に検証させることで正確性を保っている分散された台帳システムです。

これまでの中央集権的な思想によるシステムは、特定のサーバに存在する「台帳」にデータが管理されており、システム管理者がシステム全体を運営しているという集中管理方式でした。リスク回避のため、物理的距離が離れた複数のサーバにデータの複製をしたり、二重のシステムを構築したりするなど、莫大な費用をかけてデータの安全性が保持されてきました。

これと対極にある思想が「ブロックチェーン」です。こちらはオープンソースであり、商用、非商用の目的を問わずソースコード(プログラム)を利用、修正、頒布することが許容されています。データの保存や変更は世界中に分散化、分権化されているため、改竄耐性、高可用性、透明性、正確性、恒久性、低コストが特徴です。大量の取引処理が苦手で取引の処理スピードも遅いという問題も、技術的進化で改善してきました。

橋本:2008年にナカモトサトシと名乗る人物が論文を発表し、2009年から動き始めたビットコインが、ブロックチェーン、暗号資産などの流れの発端です。すぐに着目されたわけではありませんでしたが、いわゆる中央管理者がいない形でデジタルマネーを実現するという試みは非常に斬新でした。そのアイデアの革新性に惹かれた人たちがどんどん集まり、世の中に広がっていきました。

それと並行して、その流れを見たビジネスサイドの人たちは、単なる暗号資産、単なるビットコインではなく、ブロックチェーンと呼ばれる技術を応用することでさまざまなビジネスユースケースがあると想像しました。それを受けて、2016年から2017年にかけて、実際にいろいろなユースケースが考案されました。

昨今の潮流は、ブロックチェーンの技術そのものの応用のみならず、オリジナルのビットコインそのものをより広範に使っていこうというものです。ブロックチェーン技術の応用という流れが、昨今注目されているデジタル人民元につながっています。デジタル人民元がビットコインと似ているのは、ブロックチェーン技術を使ってデジタルマネーを実現しようという点です。ビットコインのブロックチェーンは特定の管理者がいない形でデジタルマネーを実現していますが、デジタル人民元は名前に「元」とついているように、実態としては、中国政府が管理します。

しかし、技術的には、LINE Payや、PayPayのように、中国政府の特定の場所に1台のサーバがあり、1カ所でデータが管理されているわけではありません。複数の、いわゆるノードと呼ばれるアプリケーションがいろいろな場所に散らばっており、これらがお互いに同期しあって、同じ残高の帳簿をシェアしあう。ある種の分散型データベースのようなものです。このデジタル人民元は、ビットコイン的な要素も兼ね備えた形で、半ば中央集権的に、半ば分散的に実現される。これが昨今のCBDC(中央銀行デジタル通貨)の流れです。いわゆる法定通貨をブロックチェーン的に、オフィシャルな電子マネーとして扱っているのです。

一方、オリジナルのビットコインの普及、例えばビットコインを使った決済サービスなどもますます広がっています。少し前にPayPalがビットコインの取扱いを始めましたし、もっと最近ではツイッター社がビットコインを使ったサービスを始めました。

「ビットコインとデジタル法定通貨の関係:アンチマネーロンダリングとプライバシーの狭間で(2)」に続く

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情報提供元: FISCO
記事名:「 ビットコインとデジタル法定通貨の関係:アンチマネーロンダリングとプライバシーの狭間で(1)【実業之日本フォーラム】