中東における火種の一つはイスラエルとイランの対立である。イスラエルは6月にナフタリ・ベネット氏が首相に、8月にはイランのイブラヒム・ライシ師が大統領に就任した。

新指導体制がイスラエル、イラン両国の外交をどの方向に導こうとしていくのか現状をみてみよう。

2021年9月30日、ロイターによると、イスラエルのヤイル・ラピド外相は、2020年10月の国交樹立以来、初めてバーレーンを訪問したと報じた。ラピド外相は首都マナマにおいて、ハマド・ビン・ハリーファ国王、サルマン・ビン・ハリーファ皇太子兼首相と会談し、医療やヘルスケア、スポーツ、環境保護に関する協力関係に署名し、マナマにイスラエル大使館を開設した。バーレーンとアラブ首長国連邦(UAE)は昨年米国の仲介でアブラハム合意と呼ばれる協定を締結し、イスラエルとの国交を正常化し、スーダンおよびモロッコもイスラエルとの国交正常化を果たしている。1993年のパレスチナ暫定自治原則宣言など受けて、パレスチナ解放機構が暫定自治政府を樹立して以降、イスラエルと外交関係を有していたのはエジプトとヨルダンの2カ国のみであった。

また、2021年9月28日、イスラエルのベネット首相は、就任後初めて、国連総会の一般討論演説で、イランは核開発において超えてはならない「全てのレッドライン」を超えたと強く非難した。ベネット首相は、「イランの核兵器開発は危機的状況にある」と指摘し、「イスラエルが真剣に核開発を止めようとすれば、イスラエル単独でも阻止する」と述べ、国際社会に対し、イランの核開発阻止の行動を強く呼びかけた。これに先立ち、ベネット首相は9月13日、就任後初めて、イスラエルの首班としては約10年ぶりにエジプトを公式訪問し、アブドルファッターフ・シーシー大統領と会談した。イスラエルの前首相ベンヤミン・ネタニヤフ氏は2011年以降エジプトを訪問していなかったが、両国は中東における米国の主要な同盟国であり、米国による軍事援助の最大の受益者で、緊密な関係を構築している。

イスラエルのメディアによると、両首脳は、パレスチナ自治区ガザを実行支配するイスラム原理主義組織ハマスとの対話の重要性や、エジプトやアメリカの停戦の努力に対する国際社会の支持の重要性を確認した。エジプトはイスラエルと1979年3月、ワシントンD.C.で平和条約に調印し、国交を結んだ最初のアラブの国である。今後、イスラエルは、対イランで共通利益があるアラブ諸国との関係強化を図っていくだろう。イスラエルの新首相となったベネット首相は、前政権同様にイランへの強硬姿勢を継続する姿勢を明らかにし、対イラン包囲網構築に努力していると言える。

これに対し、新聞報道等によると、2021年9月16日、17日タジキスタンの首都ドゥシャンベにおいて、第21回上海協力機構(SCO;2001年、中露と中央アジア4カ国=カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンが国境の安定、安全保障での協力を目的に上海で機構を設立し、2017年インドとパキスタンが加盟した)が首脳会議を開催し、2005年からオブザーバー参加だったイランの正式加盟の手続きを開始することで合意した。

中露側はユーラシア大陸での影響力拡大、機構としての国際的地位向上、さらには経済、安全保障上、アラブ諸国の圧力に対抗するという意図があるのだろう。会議ではアフガニスタン情勢や新型コロナウイルスコロナウイルス感染拡大防止に関わる協力についても話し合われた。8月に就任したライシ新イラン大統領は、首脳会議において米国を念頭に「国際秩序は多極化している。世界の平和と安定に対し覇権国家はテロと並ぶ脅威だ」と述べ、対決姿勢をあらわにしている。

イラン外務省のハティーブザーデ報道官は、9月30日、仏紙ル・モンドに対し、ウィーンでの核協議に必ず戻ると明言した。米国の制裁で疲弊したイラン経済を立て直すためにも、包括核合意への復帰を模索している表れだろう。また、ロイターは9月30日、欧州連合(EU)の外相にあたるボレル外交安全保障上級代表が、「包括核合意再建に向けた協議が、許容できる期間内に再開される」と述べたと伝えた。他方、米国のバイデン政権の中東外交に関する選挙公約は、「イランとの包括核合意復帰のための再交渉」であった。このため、米国政府は8月5日、ライシ大統領就任に際し、核合意復活に向けた協議に復帰するよう呼び掛けている。

新聞報道等によると、「国際協調を掲げた穏健派のロウハニ前大統領に代わり、ライシ大統領は反米の保守強硬派で、最高指導者ハメネイ師の信頼が厚く、米国への対抗姿勢を強調している。しかしながら疲弊した経済立て直しのため、米国の制裁解除に繋がる核合意への復帰も視野に入れた政策をとる可能性もある」とされている。今後イランは、中国との25カ年協定締結やロシアからの軍事援助などにより、中露との関係強化に突き進むのか、核合意復帰により米欧の民主主義陣営との協調を図っていくのか、注視していかなければならい。

茂木敏充外務大臣は、8月15日から24日まで、エジプト、イスラエル、ヨルダン、トルコ、イラン、カタールを訪問し、各国の首脳や外相等を表敬し、友好親善関係を確認した。
茂木外相は、イスラエルではより一層の外交関係強化、アフガニスタン情勢への対応および「自由で開かれたインド太平洋」への理解を求め、イランではコロナ対策およびワクチン供与、イランの早期の核合意復帰に向けての建設的取組の推進について協議したと報道されている。

わが国は、世界でも稀に、イスラエル、イラン両国とも強固な外交関係を維持し、経済、文化、学術の交流を進めている。今後、両国の敵対的な対立が激化する可能性も否定できないが、何らかの形で2国間の橋渡しをすることを、わが国の外交上の一つの目標にしていくべきであろう。


サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。

写真:AP/アフロ


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情報提供元: FISCO
記事名:「 イスラエル、イランの新指導者が進める外交の現状【実業之日本フォーラム】