週末の土曜日は劇場版「鬼滅の刃」のTV初放映で盛り上がったようですが、その裏で放送された中国「鬼城」のNHK・BSの特集も素晴らしい力作でした。

「鬼城」とはゴーストタウンを意味し、デベロッパーが建設を中断したままのマンションや街並みを指します。特集では、鬼城の住人が自力で電気を通し、高層階までバケツで水を運びながら、逃げてしまった不動産会社や地方政府を相手に闘う様子を赤裸々に描いていました。

そんな中で浮上したのが中国大手不動産会社・恒大集団の債務問題です。先週23日の利払い日には、国内債については支払ったものの、外債の利払いは未済です。外債には30日間の利払い猶予期間があるのでこれを利用したと思われます。 利息額は90億円程度と大きくもなく、中国企業の今後の海外資金調達のためにも、結局10/23までに支払うと想定します。しかし、その後も恒大の他の債券の利払いは続き、来年には社債満期も来ます。既に数万人もの個人投資家と代物弁済を協議している理財商品の整理も難題です。既に政府はアドバイザーを採用していると報じられています。

ではどうなるのでしょうか。直近の事例としては、今年1月の海港集団(HNAグループ)の再生型倒産のケースがあります。今のところ、これに倣い、債務の整理を進めるというのがメインシナリオでしょう。ただ、HNAは総資産10兆円強(なぜか債権者の請求額はその後20兆円に膨張)。 今回はその3倍の33兆円で、日本の三井・三菱・住友の三大不動産会社が束になっても届かない規模です。しかもグループ組織図は、SECへの報告書で4ページにも亘る複雑さです。因みに、世界の事業会社の経営破綻(金融機関を除く)はワールドコムの11兆円が過去最大です。

恒大の状況が明らかになってしまった以上、他の大手不動産会社の資金調達も当然懸念されます。それでなくても、中国では、今年に入り、1日に1件ずつ不動産会社が倒産しているとされます。しかも、不動産デベロッパーは、冒頭のように個人のお金を数年に亘り預かるという、金融機関的な側面も若干持っています。 中国は、持ち家比率が高く、しかも、3割の人が2戸以上の住宅を持っているという統計もあり、国民生活への影響は必至です。仮に、中国のGDPの4割を占める個人消費が10%減退したら、GDPは4%落ち込み、年間成長の大半を相殺してしまいます。

恒大問題は、世界の市場に開かれていない点では第二のリーマンではありませんが、少なくとも中国の個人の生活への影響はリーマン級かそれ以上かもしれません。直ぐに「ショック」は起こさないとしても、世界経済や個別銘柄への影響はじわじわと来る可能性があります。そのマグニチュードはここからじっくり見極める必要があるのではと思います。


マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那
(出所:9/27配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【アナリスト夜話】恒大集団問題の本当のリスク(マネックス証券チーフ・アナリスト大槻奈那)