【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているテムール・ウマロフの考察を2回に渡ってお届けする。

ロシアが「アジア・シフト」政策を打ち出してから7年が経った今、地政学的な情勢は一方にロシアと中国、もう一方に米国が主導する西側という新たな二極化秩序が形成され始めている。ロシアと中国の二国間には多くの問題があるものの、「結束した西側」との対立があるため、両国は接近し、二国間の問題からは当面目をそらしている。しかし、だからといって両国関係に存在する問題がそのまま立ち消えになるわけではない。

中露関係の基盤
中国とロシアのパートナーシップ発展の根本に米国との対立があると見るのは単純過ぎるだろう。実際、中国とロシアには良好な関係を維持しなければならない基礎的な要素が存在する。

ロシアの中国専門家の1人であるアレクサンドル・ガブ−エフ氏が指摘するように、両国関係を支える柱が少なくとも3つある。国境の安定、2つの国体の経済的な両立、そして政治的な両立である。

第一に、中国とロシアは世界有数の長さの陸上国境を共有しており、その安定と安全を望んでいる。両国には国境の武力衝突の歴史もあり、領土紛争が解決したのは2000年代初頭になってからだ。

第2の柱は経済協力である。ロシアと中国の経済は補完的な構造にあり、接近は宿命のように見える。ロシアは世界最大の天然資源輸出国であり、中国はその最大の輸入国である。

第3の柱は、両国政権の権威主義的アプローチである。ロシアと中国はそれぞれ異なるタイプの専制的ハイブリッド体制で、西側の古典的な統治モデルとは相反している。

すなわち、これらの柱が友好関係を強化する客観的な理由である。そして西側との対立が、これに加えて両国を接近させるもう一つの柱の基部になりつつある。ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が最近会談したことは、この流れを裏付ける新たな動きの1つにすぎない。

7月16日は中露の二国間関係にとって重要な日である。20年前のこの日、ロシアのプーチン大統領と、当時の江沢民中国国家主席は、 善隣友好協力条約(※2)に調印した。この文書はその後の中露関係の発展を可能にした基盤となるものであり、その重要性は軽視できない。

2021年6月下旬、プーチン大統領と習近平国家主席はオンラインで会談(※3)し、形式的にはその必要はなかったものの、同条約を延長することで合意した。同条約の第25条は、「いずれの締約国も、本条約の期限が切れる1年前に他方の締約国に対し条約の終結を望む旨を書面で通告しない場合には、本条約は自動的にさらに5年間延長され、その後は本規定に従って効力が継続するものとする」と定めている。

しかし、これにそのまま従うことは、現在の中露パートナーシップの精神からみて物足りない。ロシアと中国は、両国の相互理解がいかに強いものであるかをあらためて世界に示す好機を逃すわけにはいかなかった。特に、プーチン大統領が6月にジュネーブでバイデン米大統領と対面の首脳会談を行ったばかりであることを考慮すればなおさらである。

成功そして課題
このオンライン会談で、プーチン大統領と習主席は両国がここ数十年で成し遂げた実績について話し合った。しかし、会談で何がどのように語られたかをよくみてみると、両国の関係が非対称であり、ロシアの方が中国をより強く必要としていることが分かる。

2人の指導者の発言を例にとってみよう。習主席の発言はわずか3分間だったが、プーチン大統領の発言は7分間以上に及び、中露の友好関係を裏付ける数多くの事例を挙げた。両首脳とも中国共産党創立100周年について言及したが、習主席は創立にソビエト連邦が果たした役割については触れなかった。理論上はソ連の法的な継承国であるロシアにとっては、そうした内容の発言を聞ければ満足したことだろう。

会談の重要な成果は両国の共同声明(※4)である。17ページに及ぶ声明(ロシア語)(※5)は、教育や観光から軍事協力に至るまで、両国関係の発展の主な方向性を全て示している。この文書からは、両国の関係の説明に中国が主導的役割を果たしていることがうかがえる。例えば、ロシアは習近平氏の理論から取り入れた「運命共同体」や「中露関係の新時代」といった中国側の概念を採用している。

このほか声明では、近年のロシアと中国の主な成果が強調されている。中国はロシアにとってアジア太平洋地域全体で最も緊密なパートナーとなった。政治レベルでは両国関係は歴史的なピークにある。

首脳同士の非常に良好な個人的な信頼関係は、現在の関係の推進力の一つである。ウラジーミル・プーチン氏と習近平氏は、互いを友人と呼び(※6)、誕生日を一緒に祝い(※7)、お互いに勲章のメダルを授与(※8)し合い、ウォッカをともに飲む(※9)。中国は、プーチン大統領が頻繁に訪問する国であり(これまでに16回訪問)、ロシアは習主席にとって訪問回数が最も多い国である(これまでに8回訪問)。2人の指導者はお互いをよく理解しており、ともに自らを力強い統治者として位置付け、それぞれの国の歴史に名を残そうという野心を持っている。

この個人的な関係が政府間の政治に加味される。ロシアは中国のミサイル発射探知システム構築を支援し、両国軍はソ連時代以来最大規模の合同軍事演習に参加、また両国の長距離爆撃機による共同パトロールも実施している。

政治面および戦略面の協力関係はこのように非常に緊密だとしても、経済面のパートナーシップはそれほど目を引くものではない。両国の年間貿易総額は過去最高に増えたものの、首脳らが過去数回にわたって発表した数字には遠く及ばない。2019年の貿易総額は1,107億ドルと過去最高を記録している(2020年はパンデミックにより1,077億ドルに減少)。しかし7年前には、2020年までに2,000億ドルに到達させる計画が立てられていた(※10)。現在、この計画は2024年までに延期されている。

両国の共同声明で投資分野の成果には言及がなかった。ロシア中央銀行のデータ(※11)によると、中国からロシアへの対外直接投資(FDI)は2014年以降あまり変化していない(20億〜30億ドル近辺で推移)。一方、中国商務省のデータ(※12)によると、2014年から2019年にかけて、中国からロシアへの直接投資残高は87億ドルから128億ドルに増加している。厳しい制裁下にあっても、ロシア経済は依然として西側諸国からの投資流入に依存しており、2021年初めの時点で、ドイツからのFDI残高は180億ドル、オランダからは380億ドル、英国から320億ドルとなっている。こうした数字には、オフショアの仕組みを反映していないロシアの統計上の問題もあり、実際には中国からの投資であっても公式の統計上はバハマやキプロスの投資とされているものがある。

中国によるロシアへの主要な投資を見ると、二国間の旗艦的なプロジェクトは、戦略的な配慮に基づいた政治による最高レベルの支援があることが明白である。そのほとんどはエネルギー分野に集中しており、中国石油天然気集団(CNPC)や、中国石油化工(シノペック)、シルクロード基金など国有の大組織によって行われている。これには例外もあるが、独立系の資金源から流入する投資額は、国が支援するものとは規模が比較にならない。

両国の企業間関係も問題だらけである。ロシアの企業は、中国の保護貿易政策のためにその製品の多くを中国に輸出することが認められておらず、中国市場への事業拡大にも難題(※13)がある。同じように、中国企業もロシア市場に参入する際、抵抗と怒りに直面する。例えば、パンデミックの前には、中国のライバル企業によるロシア人パイロットのヘッドハンティングに、ロシアの航空会社が激怒していた(※14)。ロシア企業の中には、中国企業との競争に耐えられない場合に政府に苦情を訴える者さえいる。テック業界(※15)やタクシー業界(※16)でそうした例があった。

ユーラシアの二大政治パートナーである両国間に存在する問題は、これだけにとどまらない。とはいえ、さまざまな問題があったとしても、ロシアと中国の接近を妨げるような大きな障害にはなっていないようだ。2014年のウクライナ危機や新型コロナのパンデミックのような地政学的な大事件でさえ、両国内のさまざまな動きや意欲を加速させるように働き、このユーラシアの二大国が相互に引き寄せ合うのを促した。

強まる国際社会での対立:新たな二極化世界における露中米の三角関係(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。


写真:代表撮影/新華社/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/wjdt_665385/2649_665393/t15771.shtml
(※3)http://en.kremlin.ru/events/president/news/65940
(※4)
http://static.kremlin.ru/media/events/files/en/Bo3RF3JzGDvMAPjHBQAuSemVPWTEvb3c.pdf
(※5)
http://static.kremlin.ru/media/events/files/ru/hkwONx0FSpUGgXPaRU3xUHRmkRneSXIR.pdf
(※6)https://www.bbc.com/news/world-europe-48537663
(※7)https://www.reuters.com/article/us-china-russia-xi-idUSKCN1TG05T
(※8)https://www.reuters.com/article/us-china-russia-idUSKCN1J41RO
(※9)
https://www.themoscowtimes.com/2018/09/12/putin-xi-make-pancakes-drink-vodka-together-vladivostok-a62853
(※10)https://ria.ru/20140519/1008316394.html
(※11)https://www.cbr.ru/statistics/macro_itm/svs/
(※12)http://images.mofcom.gov.cn/hzs/202010/20201029172027652.pdf
(※13)https://dodobrands.io/post/leaving-china/
(※14)
https://www.vedomosti.ru/business/articles/2018/05/11/769235-kitai-letchikov-so-mira
(※15)https://www.interfax.ru/amp/716731
(※16)
https://thebell.io/putinu-pozhalovalis-na-didi-v-rossii-namechaetsya-defitsit-soli-i-kak-tvorchestvo-meshaet-stareniyu



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情報提供元: FISCO
記事名:「 強まる国際社会での対立:新たな二極化世界における露中米の三角関係(1)【中国問題グローバル研究所】