人民銀行によるテスト運用に歩調を合わせ、4大商業銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)においても、デジタルウォレットのテストがすでに実施されている。テスト運用における銀行それぞれのスマートフォンアプリの仕様を見る限り、デジタル人民元を使う上で専用のアプリからのみ利用するのでなく、デジタル人民元を利用者に実際に提供する銀行アプリの一部機能として組み込まれるようだ。実際、デジタル人民元は、スマートフォンを用いてアリペイ、ウィーチャットペイとほぼ同様の仕様で利用できるため、QRコード決済サービスを提供しているアプリにも容易に組み込むことができる。他方で、中銀デジタル通貨はアリペイ、ウィーチャットペイよりも高い信用力を持つため、デジタル人民元が発行されれば、ユーザーはアリペイ、ウィーチャットペイからデジタル人民元へと、デジタル通貨の利用をシフトさせていく可能性が十分にある。

例えば、中国建設銀行の利用規約によると、モバイルアプリのほか、物理的ウォレットとなる「ハードウォレット」も準備されている可能性が示されている。デジタル人民元のハードウエアウォレットは銀行の窓口などで、ユーザーの要求に応じて有効化される物理的な装置である。ハードウエアウォレットは、物理的なお金を保管する実際の財布と似ている。しかし、デジタル人民元のハードウエアウォレットは追跡可能であり、ウォレットを使用するにはIDや電話番号などの個人情報が必要となるため、匿名性という紙幣の特徴がないという違いがある。基本的な機能には、支払い、銀行口座への入出金、ウォレット間の取引などが含まれると規約に記されている。なお、ファーウェイは新機種にデジタル人民元向けのハードウォレットを搭載すると発表している。

中国建設銀行におけるデジタル人民元ウォレットは、4階層の権限構成で提供されるようだ。つまり、利用者が使えるデジタル人民元の額に制限が設けられる可能性がある。規約によると、例えばティア2(第2階層)のデジタル人民元ウォレットが保有できる金額は最大1万元(約1,500ドル、16万円弱)。1回の取引の上限は5,000元以下、1日および年間の累積支出額はそれぞれ1万元、30万元(約4万2,000ドル、約440万円)が限度となる。ティア3(第3階層)とティア4(第4階層)では、保有できる金額、1日および年間の累計支出額はより厳しくなることに加え、銀行口座への入金機能とクレジットカード返済機能がないなどの制限がある。他方、ティア1(第1階層)のウォレットに制限があるか否かは、現時点で規約に明記されていないようだ。

株式会社CAICA 孫 厳、鈴木伸
株式会社フィスコ 白幡玲美

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情報提供元: FISCO
記事名:「 準備が進むデジタル人民元、ハードウォレットも導入へ