コロナ禍で猫を飼い始めました。女の子が欲しくて、ネットを検索しまくり、ようやく5月に雌の仔猫を迎えることができました。以来、血統書と遺伝子情報は大切な記念として部屋に飾り、愛くるしい姿の動画を撮りまくる猫三昧の生活でした。

ところが、4か月ほど経った時、爪切りのために訪れた動物病院で衝撃の事実を告げられました。獣医さん曰く「この子は男の子です」…しかし、毎日のように目にしていた血統書も遺伝子情報も「雌」と記載されたので、一瞬、言われている意味がわかりませんでした。

このように人間の「目立つ情報に引きずられる」傾向は、「セイリアンス理論(salience =目立つもの)」とも呼ばれ、実証研究が活発に行われています。例えば、中国の証券会社に関する最近の研究によれば、2004年にこの会社のウェブサイトが変更され、投資銘柄の含み損益が見やすくなったところ、含み損のある株式の“損切り”が大幅に減ったとのこと。 損を実現できないという個人投資家の感情はこれまでも様々な形で議論されてきました。が、含み損を目の当たりにするとその傾向が強くなると現実のケースで示されたとは大変興味深いです。

私の猫の場合、“目立つ情報”はしょっちゅう見ていた血統書の「雌」という記載でした。それに引きずられ、それ以外の情報が目に入りませんでした。正しい認識のためには、見えにくい情報も、冷静にしっかり集めることが必要だと痛感しました。

その後、ペットショップに間違いを指摘したところ、「代金は全額お返ししますので、生体を返却してください」と言われました。マニュアルに則った対応でしょうし、雌の仔猫を飼い直せるので、経済合理性のある補償なのでしょう。しかし、既にでっぷりと大きくなり“映え”から遠のいた姿に深い愛情を抱いている者としては、「モノのように扱うとは…」と猛烈に憤慨してしまいました。…やはり人間は損得の「勘定」よりも「感情」の生き物ですね。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那
(出所:10/19配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【アナリスト夜話】家の猫が男の子だった件(マネックス証券チーフ・アナリスト大槻奈那)