【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察『香港特別行政区は、すでに「香港市」(1)【中国問題グローバル研究所】』(※2)の続きとなる。

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無言の抗議
この1年間、香港の反政府抗議活動を支持するメッセージを表現する、ポストイットで作られた「レノンウォール」が、香港各地の公共スペースや個人商店に出現した。 新法の施行を受け、一部の店はその撤去を急いでいる。 しかし、オンラインでもオフラインでも抗議スローガンは掲げられ続けている。無言のスローガンという形でだ。

ビジネスは続くが、いつもと違う
香港政府は、この法律によって普段どおりのビジネスが再開でき、香港の安定が回復すると繰り返し唱えており、実際、この法律を陰に陽に歓迎する企業もある。 新法が香港を終わらせると主張する人たちは、現時点では部分的にしか正しいとは言えない。 ビジネスの仕組みと日常の業務は、同法が導入される前と変わらず効率的に進めることができる。 これは特に、香港経済の中で最大かつ唯一の実質成長分野である金融部門に当てはまる。 中国国内市場が外国人投資家に真に開放され、中国企業が米国での上場は難しいと考えるようになるにつれて、香港は次々と行われている企業の新規上場や、香港証券取引所の取引システムを介して本土上場株への注文を転送する「コネクト」フレームワークによる出来高の増加によって恩恵を受けている。 同法が導入されてからの最初の6営業日には、コネクトフレームワークによる総取引高1,380億米ドルのうち、約90億米ドルが中国市場に流入した。 あらゆる懸念にもかかわらず、ビジネスは活況を呈している。

しかし、この新しい法律に居心地の良さを感じている個人も企業もいないはずだ。 ビジネスと政治を完全に分離できると考える人には、大企業キャセイパシフィックとHSBCの経験が警告となるだろう。 企業も究極的には香港で表現の自由の権利を持つ個人で構成されている。ならば、国家安全保障を脅かすものと定義されている平和的な抗議活動に従業員が参加した場合、企業はどう対応するのだろうか。 第43条に定められている前述の権限(※2)はすでにテクノロジー企業の背筋を凍らせており、すでに複数の企業が、法律の施行状況がもっと明確になるまで香港当局との情報共有を停止すると述べている。 人気のショートビデオアプリTikTokは、香港市場からの撤退と、銅鑼湾にあるオフィスの複数年賃貸契約の解消をすでに発表している。もっとも同社のオーナーである中国企業のバイトダンスは、TikTokアプリを事実上の中国版である「抖音」アプリに置き換えるだけかもしれないが。 これらの根底にある問題は、グレート・ファイアウォールが香港にも築かれるのか、ということである。 中国とまったく同じように露骨なやり方ではないが、香港では検閲が強化され始めており、その第一歩がすでに踏み出されている。

海外の反応
国家安全維持法の導入によって、米国、英国、オーストラリア、カナダはいずれも、中国に圧力をかけるため、あるいは少なくとも約束を破ると目に見える代償を払うことになると示すために、いくつかの措置を敢行している。 共同宣言の当事国である英国は、英国のBNO(英国海外市民)パスポートの資格を持つ香港の居住者を300万人まで英国に受け入れること、完全な市民権の取得が可能であることを約束した。 中国がBNO保有者の香港からの出国を認めるかどうかすら現段階では不明である。国家安全維持法が香港からの出国制限を規定しているためだ。 オーストラリアとカナダはいずれも香港との犯罪人引渡し条約を停止しているが、これは国家安全維持法が容疑者を中国に引き渡して中国の法律の下で裁判にかけることができると定めているためである。 米国は香港への貿易上の優遇措置を停止しており、香港政府の特定の個人に対して制裁を発動するか、もしくは香港ドルの米ドルペッグ制を標的にする可能性もある。 こうした制裁の脅威は香港のビジネス界の中心を直撃している。米国が制裁の対象として名指しした個人と取引を行っている銀行に罰則を適用しようとしているのだ。そうなれば、中国の大手銀行の一部や、さらには世界的な銀行までもが、ドル決済システムから切り捨てられることになり、世界的なビジネスを展開しているどの企業にとっても大きな影響が及ぶ可能性がある。 こうしたリスクは無視するわけにはいかない。なぜなら、中国が何百万人もの自国民を違法に拘束している新疆ウイグル自治区を担当する中国高官に対する制裁措置が発表されたばかりだからである。トランプ政権は、時に不安なほど予測がつかず、信頼できないこともあるが、こうした動きをしたときは完全に信用に値する。

国家安全維持法の第29条は、香港特別行政区や中国に対する制裁措置を支援した企業や個人は同法に基づき犯罪者とみなされると明確に定めている。 このため、銀行などの企業は、中国の法律に従うか、米国の法律に従うかの選択を迫られることになる。 香港では、企業はどちらの側につくかを決定しなければならないのだ。

「調和」
ひとつ確かなことがあるとすれば、香港の未来は過去とは大きく異なるものになるだろうということだ。 中国世界の大部分におけるリーダーでありトレンドセッターだった、あの開放的で活気に満ちた都市は、最悪の方向に変わっていくだろう。 香港は今後数年のうちに、1年続いた抗議運動や新型コロナウイルスの経済的影響からは立ち直るかもしれない。しかし香港を中国とは異なる特別なものにしていた多くのものは根こそぎ取り除かれるだろう。 香港は中国の特性と「調和」させられようとしている。 党に服従することが、成功を望む人々の第一の目標になるだろう。 ビジネスは続くだろう。いずれにしろ中国では、同様に政治的・社会的に厳しい制約の下で多くのビジネスが行われている。しかし、香港のグローバルな役割と地域的な役割は低下するだろう。 この新法は香港の人々を恐怖によって服従させることを意図したもので、多くの人に対しては効果があるだろう。しかし戦いと抵抗を続ける人もいるはずだ。 政府に抗議するために何百万人もの人々が再び街頭に繰り出すとは今は考えにくいが、香港の将来は非常に不透明なままである。 今後数週間から数カ月のうちに、中国共産党は香港がかえって本土を不安定化させる大きな影響力を持っていることに気づくかもしれない。しかし、それは香港を通じて行動を起こしている外国勢力によるものではなく、何百万人もの香港市民の夢と希望を押しつぶそうとしている中国共産党自身の失策と過剰な介入によりもたらされたものなのだ。

※1:https://grici.or.jp/
※2:https://grici.or.jp/1527

写真:「香港特別行政区は、すでに香港市である」( 出典:香港の抗議団体のテレグラムチャンネルに投稿された作成者不明の画像)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 香港特別行政区は、すでに「香港市」(2)【中国問題グローバル研究所】