週末は九州を中心に集中豪雨に見舞われました。中国やインド、豪州でも大雨が報じられています。被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

世界各国の大雨の衝撃的な映像は、クリーンエネルギーの議論を活発化させつつあります。しかし、今のところ、その供給能力はあまりに不十分で、心もとないレベルです。
そこで期待されている次世代技術が「核融合」です。マイクロソフトのビル・ゲイツはこれを「10のブレイクスルー技術」の一部に挙げています。太陽熱と同じ原理で、原子核同士を高速でぶつけ合う「核融合反応」でエネルギーを発生させるもので、太陽光を地上で拾い集めるのではなく、「太陽そのものをつくる」研究とも言われます。

「核」というと原子力発電を連想して危険な印象がありますが、原理は全く別です。原発は「核分裂」でエネルギーを出します。管理が難しいウランを原料とし、その過程で、高レベル放射性物質を排出します。一方、「核融合」は、水素の一種を原料とするので無尽蔵な上、映画Fukushima50的な制御不能も起こしません。原料グラム当たりのエネルギー生成量も原発の数倍です。 もちろん、火力発電のようにCO2を排出することもありません。欠点も様々ありますが、ESG分野ではトップクラスの”ムーンショット“(実現すれば莫大な効果のある)技術と言っていいでしょう。

それだけの技術なのにあまり話題にならないのは、実現化がまだ遠いとされているためです。35カ国の共同核融合プロジェクトITER(イーター)が2006年に始動しました。日本の技術は最先端で、今年、欧州と共同の実験装置を茨城県に設置し、この分野でナンバーワンの研究の舞台とされる予定です。しかし、実用化に至るには、あと30年程度かかるとされています。

となると、問題は資金です。日本では政府以外に資金の出し手が殆どいません。一方世界では、核融合関連のスタートアップが急増しており、昨年だけで新たに7社が設立されました。ビル・ゲイツやアマゾンのジェフ・ベゾスも核融合ベンチャーに出資しています。
そんな中、昨年末、中国が初の核融合研究装置をデビューさせ、今年にも試運転とも報じられています。またしても中国、おそるべしです。

日本は世界一の寿命を誇り、預金に眠る個人資産も世界有数です。考えようによっては長期の大規模プロジェクトへの投資資金は豊富です。せっかく、今のところ日本が最先端を走っている技術です。民間資金が生かせる仕組みを発達させ、後塵を拝した5Gの二の舞は何とか避けたいものです。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那
(出所:7/6配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)




<HH>

情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【アナリスト夜話】ESG分野の“ムーンショット”イノベーションへの期待(マネックス証券チーフ・アナリスト大槻奈那)