香港で民主化を求めるデモが発生してから1年。街はかなり落ち着いてきたようですが、香港ドルはむしろリスクが高まっている印象です。

香港ドルは、世界的にも極めて特殊な通貨です。メジャー通貨とのペッグ(連動)制を取っている国や地域は、世界の通貨の6割以上を占めており、全く珍しくはありません。しかし、香港ほどの経済規模を持ち、かつ、経済的な依存先とは別の国と連動している通貨は例外的と言えるでしょう。しかも、連動先の米国と中国の間では、中国政府の「国家安全法」導入を機に緊張が高まっています。

もちろん、香港ドルは2047年まで「一国二制度」を維持するという方針や、為替政策を実行しないという香港基本法第112条などで守られています。現在の制度が簡単に崩れるとは思えません。

しかし、英ポンドから米ドルにペグ先が変わった1983年当時は、米国が最大の貿易相手国でしたし、中国人民元はマイナー通貨でした。そこから時代は大きく代わり、今や香港の貿易や輸出入とも約5割が中国本土とダントツです。米国の優遇措置停止で、中国の貿易比率は一層上昇するでしょう。独自の金融政策を取れないのがペッグ制の欠点ですから、相手国(米国) の景気動向との連動が低下すると、国内経済に無理が生じます。更に、中国人民元も、2016年のIMFのSDR採用で世界の基軸通貨の一員になりプレゼンスが向上しています。

こうした点から、遠い将来を見据えたら、香港ドルは中国人民元とのペッグの方が妥当と考える人は少なくありません。4年物以降の香港ドル先物は、現在の許容レンジ(1USD = HKD7.75~7.85)を若干上回る7.9近辺で取引されています(6/8午前7時時点)。ヘッジファンドが香港ドルペッグの廃止に賭けては負けてきた過去の経緯から、ドラスティックな見方は影を潜めていますが、市場はレンジの変更程度は意識しているようです。

遠い将来までを見据えれば、ゆっくりと、しかし確実に、香港ドルの米ドル離れは進むと考えるのが自然でしょう。香港で活動する日系企業の数は1,413社と中国以外ではトップです (2019年)。香港ドル問題は、日系企業への影響も含めて意識しておきたい問題です。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那
(出所:6/8配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【アナリスト夜話】香港ドルの米ドルペッグ制はいつまで続く(マネックス証券チーフ・アナリスト大槻奈那)