また、建国70周年を記念した特集記事が、ロシアの主要紙(『Nezavisimaya Gazeta』(『ニェザヴィーシマヤ・ガゼータ』)、『Izvestiya』)(『イズベスチヤ』)や大衆向け政治雑誌(『Ogoniok』、『Expert』、『Profile』)に掲載された。科学雑誌『Russia in the APR』(『アジア太平洋地域におけるロシア』、ウラジオストク)と『Far Eastern Affairs』(『極東事情』、モスクワ)は、中国建国70周年を記念した増刊号を用意した。
ロシア国内では、中国建国70周年は概ね好意的な論調で取り上げられた。大多数の出版物は、国民生活のあらゆる分野における中国の著しい進歩に賛辞を送り、改革開放政策の成果やさまざまな領域での最先端科学・テクノロジーへの飛躍的な発展に言及した。とはいえ、中国が歩んできた真に厳しい道のりについての言及を省略したわけではない。イワン・ズエンコ氏(ウラジオストク、ロシア科学アカデミーアジア太平洋研究センター極東支部中国部門研究員)は「How China became great again(如何にして中国は大国に返り咲いたか)」と題する論文で中国の発展の軌跡を辿ったが、向こう見ずであった「大躍進政策」(3,600万人が餓死)、「文化大革命」、そして1989年の「天安門事件」の悲しい結末に言及することも忘れなかった。ズエンコ氏は、現在の中国指導部の政策は「国家主義で彩られている」と述べ、 同時に、トランプ米大統領が中国のやり方に異議を唱えたことで「中国政府による外交・国内政策の引き締め傾向が強まった」と主張した(※2より)。
ロシアの在中国通商代表だったセルゲイ・ツィプラコフ氏は、中国建国70周年を厳しく論評した。彼は、習近平国家主席が宣言した「新時代」の最初の2年間は「習氏の政治歴の中で最も厳しい」時期となったと述べている。経済情勢はいまだに「驚くほど不透明感が強く」、成長率も著しく低下している。また、中国外部の情勢も一層複雑になっている。ツィプラコフ氏は、「勿論、習近平は経験豊富な水先案内人だが、水面下に潜む多数の岩礁に衝突する危険性は、かつてないほど大きくなっている」と評した(モスクワ、2019年9月30日付の独立系新聞Nezavisimaya Gazeta掲載記事「70 years of China: a difficult change of eras(中国の70年間:時代の厳しい変化)」より)。
それにもかかわらず、両国間の軍事技術協力の明らかな規模拡大と深化に伴い、政治学者の間では、中国の対露関係が迎えようとしている新たな段階に関して、また、同盟関係が新たに樹立する可能性に関して議論が飛び交っている。ヴィクトル・ラリン氏(ロシア連邦極東大学教授、ウラジオストク)は、協調こそ「新時代のキーワード」と考えている。国際舞台での両国政府の活動だけでなく、各国内の開発戦略においても、協調はより緊密でより多面的なものに進化している。(ウラジオストク、『Russia in the Asia-Pacific Region』2019年第3号6頁および10頁より)
アレクサンドル・コロリョフ氏(豪ニューサウスウェールズ大学教授)は、国家間の軍事協力のレベルを決定する手法を提案した。大規模な軍事技術協力や定期的な合同軍事演習の実施を根拠として、中国とロシアは初期・中期段階の軍事協力の範囲を既に越え、2016年以降、次の段階への移行を開始していると結論づけることができる。コロリョフ氏は「技術的には、ロシアと中国はより緊密な軍事同盟を結ぶ用意ができており、その点を疑ってもほぼ正当化することはできない」と述べている。(ウラジオストク、『Russia in the Asia-Pacific Region』2019年第3号142頁および153~154頁より)
だが、アレクサンドル・フラムチヒン氏(ロシア政治・軍事分析研究所副所長)は別の見方をしている。同氏は、中国はここ数年「ロシアとの軍事・政治同盟に一定の関心を持っている」と指摘しながらも、「両国の軍事協力については偽のプロパガンダ的な要素が非常に強く」、この分野で「何らかの根本的な新形態が発展する可能性は低い」という見方を示した。(2019年9月20日付『Nezavisimaya Gazeta』付録記事「Independent military review(独立した立場からの軍事検証)」より)