【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明氏の考察「現在の米中貿易交渉に関するいくつかの観点(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。

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中国の歴代の経験からすると、中国が豊かになり、褒められると、怠けて腐敗する。逆に圧迫され、支配され、包囲されると、抵抗する力が強くなり、創造力も強くなる。もともと世界の先進国が高度な技術を既に所有しており、中国がそれを導入し、移植し、吸収して利用しているだけなのに、それに対して、外部が中国を包囲して封鎖すると、逆に中国の創造力を刺激することになるであろう。


例えば、米国がファーウェイのチップを封鎖することは、客観的に鴻蒙OSの商業利用を後押しすることになった。米国がもし中国がGPSシステムを利用することを禁止すれば、中国の北斗衛星測位システムもすぐに実用化されるであろうと、私は信じている。


また、中国政府の経済・金融に対する集中管理は、実際に巨大な制度的優位性を持っていることがあげられる。ふたたび高速鉄道の例を挙げると、米国がもし技術と市場規模を有しても、州間高速道路を建設することは非常に困難である。連邦政府の各州に対する調整能力が弱く、調整に膨大なコストと時間がかかる。それに対して、中国の集中管理能力と調整能力は世界トップクラスである。広く批判されているが、個人的には、そのような政府が集中管理する体制だからこそ、中国の政治的な独立と経済の発展をもたらすことができる面もある。


実際に、政治体制に優劣はなく、どんな体制でも独自な長所と短所を持っている。ヘーゲルが言うように、「存在することは合理的である(理性的であるものこそ現実的であり、現実的なものこそ理性的である)」。世界各国の歴史や文化の伝承、経済発展の段階が異なるため、他の国は米国モデルに従って発展することも、もちろん、旧ソ連モデルに従って発展することもできない。

個人的に、中国のここ30年の経済発展における経験は、将来的に中国の道、あるいは中国モデルと呼ばれる理論に要約され、そして世界の多くの第三世界国家(全てではない)を分裂から統一へ、植民地から独立へ、貧困から裕福へ導くことができると思っている。そしてこの理論を提出できる人は、ノーベル経済学賞を受賞する可能性が高いであろう。


これまで二つあげてきた、米中貿易戦争の現状について指摘したい第三の点は、米中両国の政府は、ゼロサムゲームから脱却し、ウインウインの関係を築く必要があるということだ。両国の政府と学者もわかっているように、米中貿易戦争は共倒れでしかない。


それならばなぜ戦うことになるのか?


個人的には、長期的に見ると、最初(第1回目)の論考で述べたように、トゥキディデスの罠に基づいている。短期的に見ると、貿易戦争を仕掛けてきたのは、米国政府が政治的に即効性を求めすぎたためだと考えられる。さらに言うと、米国の選挙政治と一見正しく見えるが間違った推論によって引き起こされたことである。


トランプは選挙期間中から、雇用の増加を約束したが、彼は一方的に中国の輸出が米国の雇用を奪っていると思っており、中国製品の米国への輸出を制限すれば、米国は国内でこれらの製品を生産できるようになり、すなわちそれは自国の雇用を増やすことだと考えている。もしこの推論が成立していれば、貿易戦争は間もなく終わるであろう。


しかし実際には貿易戦争が米国に雇用をもたらすことはなく、逆に輸出に依存している一部の米国企業は、中国の対抗措置により、最終的に米国内の雇用が減少することになる。


このことから、推測の域を出ないが、私見では、米国内の有権者を喜ばすために、米中貿易戦争はトランプの中間選挙の前に緩和または終結すると考えている。もちろん、責任をもって言えるのは、貿易戦争が終わっても、トゥキディデスの罠ゆえに、その後の技術戦争、金融戦争は続くことだろう。


現時点で、中国は米中間の駆け引きにおいて、優位に立ってはいないが、米国に対して、中国は市場、完全な産業システム、集中管理という3つの優位性を持っている。中国経済には調整と改革が急務である部分もあるが、中国政府には香港の危機のような事件を適切に処理する政治力を持っており、国内の不合理な産業構成を調整する能力を持っており、そして地方債務と企業債務のリスクを解消する経済管理能力を持っていることを、私は信じている。端的に言えば、中国政府のリスクに対する耐性と制御能力は米国より高く、外圧によってイノベーション能力が徐々に高まっている。劉鶴副首相が言ったように、米中関係は極めて重要であり、経済貿易関係も、米中関係が安定するための重しと駆動力である。それは両国の関係のみならず、世界の平和と繁栄にも関係している。米中が戦うと、共倒れになり、勝者のいない戦いに終わる。


最後に、米国政府は手のひら返し、弱者いじめ、世界全員を敵に回すことをやめるように進言したい。長い間米国に追従してきた日本に対して、奴隷のように扱わないでほしい。米国に対して基本的な労働力を提供するメキシコ人に対して、むやみに排除し、封鎖しないでほしい。核兵器を軽く扱う北朝鮮の指導者を兄弟呼ばわりしないでほしい。そして米国のドローンを撃墜できる勇気のあるイランに対してとぼけないでくれ。さもなければ、このようなことが長く続くと、米国は大国としての品格と世界のリーダーとして地位を失うことになるであろう。

※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/

この評論は8月28日に執筆



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情報提供元: FISCO
記事名:「 現在の米中貿易交渉に関するいくつかの観点(2)【中国問題グローバル研究所】