世界第2位のGDPを誇る中国。しかし、公表される経済指標について疑問を表明する機関も多く、その経済の実態はなかなかつかめない。

そこで、なぜ中国経済が崩壊の危機を迎えているのか、また経済崩壊のシナリオとはどのようなものかを明らかにすべく、全4回にわたって各トピックを提示、検証する。

本稿では、四つ目にあたる「外貨準備の減少」に関する考察をご紹介する(※)。

※一つ目の「経済成長モデル」、二つ目の「GDP」、三つ目の「不良債権の増大」は、別途「中国の危ない現状、(1)経済成長モデル【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」「中国の危ない現状、(2)GDP【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」「中国の危ない現状、(3)不良債権の増大」を参照

■世界最大規模を誇る中国の外貨準備だが使える資金は少ない

中国経済がGDPの成長率低下と不良債権の増大という局面を迎えるなかで、今後の生命線となるのは外貨準備といえる。中国人民銀行(中央銀行)によると2017年7月末の外貨準備高は3.08兆ドル(約348兆円)で、依然として世界最大規模を誇る。ただ、ピークである2014 年6月の3.99兆ドルからは大きく減少を続け、2011年以来の低水準となっている。

日本の外貨準備の状況は、2017年7月末時点で1.26兆ドル。中国との差は圧倒的に見える。ただし、日本の内訳が米国債、各国中央銀行への預金で95%が占められているのに対して、中国の外貨準備に占める米国債は1.1兆ドルと40%を下回る。

そもそも中国の外貨準備は、日本のそれとは性質が異なる。日本の外貨準備は為替介入などに充当できる資金であるが、中国では市中銀行の保有する外貨もカウントされているなど、実際に為替介入に充当できない資金も含まれていると推定されている。中国の外貨準備の過半以上がそのような状況にあると推定される以上、中国が為替介入へ確実に充当できる資金は米国債保有残高と考えておくべきだろう。その米国債保有残高は足もとで減少を続けており、予断を許さない状況となってきている。しかも、海外金融機関は中国から資金を引き上げている局面にあり、中国への対内投資額も大幅に減っている。

グローバル・フィナンシャル・インテグリティー(アメリカのシンクタンク)によれば、国外へ不正に流出した外貨準備は最低でも1兆ドル以上、最悪のケースで3.76兆ドルとも試算されている。

■そもそも年々減少傾向の中国の外貨準備

もとより中国人民銀行の発表だけをとってみても、2014年6月以降、外貨準備の前期比下落ペースは再度速まっている。2017年4月以降はやや回復を見せているものの、仮に直近2年の月間下落ペースであるマイナス0.69%が今後も続くと仮定すると、2018年夏頃にはIMF等が容認水準とする2.8兆ドル台となる見込みだ。

外貨準備が、このまま減少スパイラルを抜け出せないとなると、中国経済は大きな変換を余儀なくされることとなる。そして、いよいよ外貨準備が枯渇するという状況になれば、IMFへの支援要請、海外への外貨流出の封鎖などが現実のシナリオとなろう。いずれの場合でも、それに至る前に大幅な元安、それによる外貨建て負債のデフォルトなどが観測されることになろう。前者では様々な改革を強要されて名実ともに世界経済の一員になるが、後者の場合では鎖国に近い状況も想定される。


■フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ取締役 中村孝也
フィスコIR取締役COO 中川博貴
シークエッジグループ代表 白井一成(※)

※シークエッジグループはフィスコの主要株主であり、白井氏は会議が招聘した外部有識者。

【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の中国についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年春号の大特集「中国経済崩壊のシナリオ」に掲載されているものを一部抜粋した。




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情報提供元: FISCO
記事名:「 中国の危ない現状、(4)外貨準備の減少【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】