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〇高値警戒要因として、原油相場と中国情勢〇
北朝鮮危機と仏大統領選の二つの暗雲が遠のき、過度のリスク回避ポジションが巻き戻しの展開となっている。ただ、朝鮮半島情勢が落ち着いた訳でもなく、仏経済が好転する訳でもない。いずれ姿形を変えて現れて来る可能性を念頭に置きつつ、いわゆる「買戻しバネ」の強さを測る局面だ。暗雲が薄れて見れば、二つの靄が現れている。一つは4日に43.76ドル/バレルまで突っ込んだWTI原油相場。昨日は46.43ドルに持ち直しているが、一段安が続けば、インフレ観に影響し、米国の利上げシナリオに響く恐れがある。もう一つは昨日で5連敗となった中国・上海株。背後の中国経済不穏を反映している様であれば、穏やかでない。今のところ、靄は売り転換材料とは見ないが、コマメな利食いを誘い、高値警戒心理を招くと考えられる。
25日のOPEC(石油輸出国機構)会合を前に、産油国の口先介入が活発だ。価格水準は昨年11月末の減産合意前に戻り、協調減産効果が剥落した格好。産油国が望むとされる55ドル水準(イランの声明)には程遠いが、一段安を防ぐ狙いがある。協調減産は6月に期限を迎え、9カ月以上延長説が出ている。
下落の要因としては、ヘッジファンドの買い持ちポジションが減産合意水準の1億6300万バレルに減少している(2月には最高水準の4億バレル超)、在庫増につながっている米シェールオイル生産が資金にゆとりのある国際石油メジャーに移行し、価格下落→減産に結びつき難い、IS勢力が急速に縮小しており中東の安定がリビアやイラクなどの増産を招く可能性がある、頼みの中国の輸入が独立系・小規模製油所の輸入枠が満杯に近付き、少なくとも次の輸入枠割り当ての7月まで減少傾向を辿ると見られていること、など。原油安にはメリットもあるので、直ちに悪材料とは言えないが、欧米のインフレ観や米国の利上げシナリオに影響を与えるレベルになるか注視することになろう。開催中の温暖化対策会合と合わせ、エネルギー・環境関連株への影響も注目される。
上海株は昨年10月半ば以来の3000ポイント大台を意識した攻防(8日は24.42ポイント安の3078.61)。当局による保険会社などへの規制強化が要因で、人民元安を防ぐための資本規制強化から始まったモグラ叩き対策の一環と位置付けられる。厄介なのは、5日付ロイターが報道した「中国で社債発行が縮小、企業は信用収縮に直面も」に示された信用危機を孕んでいることだ。ロイターの推計で1-4月の中国国内債券発行額は約1320億ドル、前年同期の7960億ドルの1/5未満。今年1300億ドル、来年2480億ドルの借り換え需要を賄えないリスクがある。中国の銀行新規ローンは、1月2.03兆元、2月1.17兆元、3月1.02兆元と縮小している。米GS推計のデフォルト額は14年10億元、15年180億元、16年539億元。昨年10月以降、最上級格付け5年物社債の平均利回りは5%水準。クレジット市場が機能不全に陥っているとの見方が出ている。
4月中旬以降、金融当局はレバレッジ抑制強化を打ち出しており、ブルームバーグによると株式と債券の時価総額は少なくとも4530億ドル(約51兆円)失われたと言う。中国人民銀行は480億ドルの短期資金供給を行い、資産運用商品販売は3割減、不動産市場が鈍化し、金属相場が下落に転じた。危機レベルとは言えないが、秋の党幹部入れ替え、北朝鮮政策に絡めた米国の圧力などで、大規模な混乱に発展するリスクがある。日本政府の対中接近はより内情を探る狙いもあると見られ、足元の中国景気追い風認識には十分注意が必要だ。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/5/9号)
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