2020年3月2~6日にオーストリア・ウィーンで行われた第63会期国連麻薬委員会(CND)において、大麻及び大麻関連物質のWHO勧告に対する投票を延期しましたが、事前準備の段階で、各国がWHO勧告に対しての意見および賛成、反対、保留、どちらでもないという立場を表明しています。

日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)は、大麻及び大麻関連物質のWHO勧告に対する日本国政府の立場の資料を和訳し、20年5月6日にWEBサイトにて発表しました。その結果は、WHO勧告の個別の項目で、EU加盟国/米国を含む25カ国(※)と日本では異なる立場であることが明らかとなりました。

国連麻薬委員会(CND)で投票権のある国は、53カ国あり、そのうち16カ国が既に医療用大麻が合法化しています。

<勧告の内容と主要国と我が国の立場>

●大麻および大麻樹脂

勧告5.1:大麻及び大麻樹脂を1961年麻薬単一条約の附表IVから削除する。
EU加盟国/米国を含む25カ国:賛成
日本国          :保留

●ドロナビノール(Δ9-THC)

勧告5.2.1:ドロナビノール(Δ-9-THC)及びその立体異性体を1961年麻薬単一条約の附表Iに追加する。
勧告5.2.2:ドロナビノール(Δ-9-THC)とその立体異性体を1961年麻薬単一条約の附表Iに追加する勧告を委員会が採択することを条件に、1971年向精神薬条約の附表IIからドロナビノール(Δ-9-THC)とその立体異性体を削除する。
EU加盟国/米国を含む25カ国:賛成
日本国          :どちらでもない

●テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC異性体)

勧告5.3.1:ドロナビノール(Δ-9-THC)を1961年麻薬単一条約の附表Iに追加する勧告を委員会が採択したことを条件に、テトラヒドロカンナビノール(1971年向精神薬条約の附表Iに現在列記されている6つの異性体を指す)に1961年麻薬単一条約の附表Iを追加する。
勧告5.3.2:テトラヒドロカンナビノールを1961年麻薬単一条約の附表Iに追加する勧告を委員会が採択したことを条件に、テトラヒドロカンナビノール(1971年向精神薬条約の附表Iに現在列記されている六つの異性体を指す)を1971年向精神薬条約から削除する。
EU加盟国/米国を含む25カ国:賛成
日本国          :どちらでもない

●大麻エキスおよび大麻チンキ

勧告5.4:大麻エキス及び大麻チンキを1961年麻薬単一条約の附表Iから削除する。
EU加盟国/米国を含む25カ国:賛成
日本国          :どちらでもない

●カンナビジオール製剤

勧告5.5:1961年麻薬単一条約の附表Iに、「主たる成分がカンナビジオールで、Δ-9-THCが0.2%以下の製剤は国際的な統制を受けない。」という脚注を追加する。
EU加盟国/米国を含む25カ国:保留
日本国          :反対

●大麻およびドロナビノール(Δ-9-THC)の製剤

勧告5.6:化学合成または大麻由来の製剤として製造されたΔ-9THC(ドロナビノール)を含有する製剤であって、一つまたは二つ以上の成分を含む医薬製剤として配合しており、かつ、Δ-9-THCドロナビノール)が、容易に用いうる手段により又は公衆衛生に危険をもたらすような収量で医薬製剤を回収することができないものについて、1961年麻薬単一条約の附表IIIに追加する。
EU加盟国/米国を含む25カ国:反対
日本国          :反対


※EU加盟国:オーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ共和国、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、スペイン、スウェーデン、EU加盟国に賛同する他国:アルバニア、ボスニアヘルツェゴビナ、ジョージア、アイスランド、メキシコ、モルドバ共和国、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア、ウクライナ、ウルグアイ、米国の合計:25カ国




【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000214699&id=bodyimage1

<CND事務局メモとして公開された我が国の立場>

8.日本国政府は、附表調整の結果が十分に評価されるまで、附表調整の勧告に関する投票はCNDにより再度延期されるべきであると述べ、個々の附表調整の勧告について以下の点に留意した。

(a) 日本政府は、1961年条約の附表IVから大麻及び大麻樹脂を削除することについて、大麻の医療上の使用の有効性に関する科学的根拠が不十分であったこと、大麻の使用に対する国民の認識に影響を及ぼし、規制の緩和や公衆衛生上の危険をもたらす可能性があることから、明確な立場をとることができなかった。

(b) 日本政府は、加盟国による条約の規制措置の実施に関する新たな基準及びガイドラインが最初に策定される限り、1961年条約の附表Iへのドロナビノール及びTHC異性体の追加並びに1971年条約からのこれらの物質の削除を受け入れることを検討することができる。

(c) 1961年条約から「エキスとチンキ」が削除されたことについて、日本国政府は、勧告を受け入れることを検討することはできるが、まず、国際的な薬物統制条約の実施及び運用への影響を分析したい。

(d) 日本政府は、重大な懸念が残っているため、カンナビジオール製剤に関する脚注の挿入を受け入れることはできないと述べた。「preparations」という用語は非医療用製品にも適用されるため、法執行の能力を損なう可能性がある。さらに、この勧告にはTHCの管理を緩める可能性のあるリスクが含まれており、これは公衆衛生へのリスクを不注意に増大させる可能性がある。また、勧告のTHC0.2%閾値は、将来のCBD医薬品の研究と開発の障壁となる可能性がある。したがって、閾値は特定されるべきではなく、各締約国の薬事規制に委任されるべきである。WHOが大麻植物原料の総重量に占める乾燥重量の割合を示していることから、閾値についてはさらに明確化する必要がある。

(e) 現時点では、ドロナビノール製剤を1961年条約の附表IIIに追加することは、「製剤;preparation」及び「医薬製剤;pharmaceutical preparations」の用語が曖昧であることから、THCの乱用につながる可能性があるため、日本政府としては受け入れられなかった。

参考サイト
国連麻薬委員会(CND)の第63会期
https://www.unodc.org/unodc/en/commissions/CND/session/63_Session_2020/session-63-of-the-commission-on-narcotic-drugs.html

※他国の詳しい内容は、下記のWEBサイトにて日本語訳となったPDFファイルをご参照下さい。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103194


WHO/ECDDにおける大麻及び大麻関連物質の国際的な議論が活発になるつれて良質なレポートが多数発行されています。すべてのレポートを翻訳することはできませんが、少しでも多くの医療従事者の目に触れるよう取り組んでいきます。
※翻訳対象となったレポートの中身については本学会のなんらかの社会的立場を表明するものではありません。


日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会;International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2019年7月段階で、正会員(医療従事者、研究者)67名、賛助法人会員12名、 賛助個人会員23名、合計102名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/





配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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情報提供元: Dream News
記事名:「 大麻及び大麻関連物質のWHO勧告に対する日本国政府の立場の資料を和訳。EU加盟国及び米国等の25カ国と異なる立場を表明。