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■アルバム全貌その音楽は、死にたい人へのバイブル。その音楽は狂気。月野恵梨香は常に怒りに燃えて、破壊しようともがいている。でもそれは、他者の破壊ではなく、怒りは常に自分に向けられている。世の中に合わない自分が悪いのか、それとも世界がおかしいのか。その答えを得るために、もがいて、書きためた言葉に音色をつけて、月野は自分をさらけ出している。音楽は伝えるための手段であって、音楽をすること自体が目的ではないのだ。月野の曲が音楽に聞こえない、心の叫びにしか聞こえない、という人は要注意。歌詞に同調し、闇の世界へといざなわれてしまうかもしれないからだ。『全国こころの患者協会』なるものがあったら、ほぼ間違いなく“有害CD”に指定されるだろう。でも、よおく曲を聴いてみてほしい。一曲一曲、そのどこかに必ず、暗闇に一筋の光が射しているのだ。それは月野自身が掴んでみたい光であり、心の悩みを抱えている人にも見つけてほしい、小さな光である。ポジティブなメッセージ、それが一つだからこそ、その光は闇の中で一等星のように輝き、希望への道しるべとなっている。心が病んだ人への処方箋。「月野さんの曲で助けられました!」という人が、今日もいるに違いない。
■再起可能/月野恵梨香」収録全曲解説
1.死んではいけないアレンジャーの吉田遊介氏と共同で作曲した、唯一の曲。「吉田さんがいなかったら今日の私はない」と月野が言い切るほど、月野は吉田氏に全幅の信頼を置いており、セッションのような感じで2人で曲を練り上げていったようだ。子供がピアノのお稽古をしているような場面から一転、暗黒の世界へ引きずり込まれる。呪文のように繰り返される言葉が逆説的に聴く人を追い込んでいく。〈誹謗中傷なんか一切気にならない! あたしはあたしなのさ! 他人の評価なんてあたしの人生に、何の影響も及ぼさないんだよ!〉。あっぱれだ月野! でも「自慢の娘じゃなくなったどうしよう」と、女子らしい一面も。親がどう思おうが関係ないとは、月野でも言えなかったのだ。月野も人の子だった。
2.生きる才能 月野の歌のうまさが良く出ている曲。この曲では歌唱にビブラートがほとんどないので、ストレートに歌詞が聴き手に入ってくる。生きようともがいている、パワフルな姿が歌声に投影されている。猫が大好きだという月野はある日、轢かれた猫を見て「ぶざまだ。まるで私みたいじゃないか」と思ったという。動物が大好きな月野は、道端で鳥や動物の亡き骸を見つけると心で抱きかかえ、そっと葬ってやることもあった。〈自分にも希望がない。でも希望がないからこそ、本当の希望はきっとあるんだ!〉。狼が奮い立って、叫んでいるような迫力。最後はエネルギーを振り絞って、自分の痛みに気づかないふりをして生きる自分を攻めている。〈社会に埋もれるな! 言いたいことを言えよ! やりたいことをやれよ!〉。マグマが噴き出し、天空へと突き抜ける瞬間、この楽曲は真っ赤に燃え上がる。
3.遡る暗さ高速道路を走りながら聴いていると、ついアクセルを踏みがちになってしまいそうな、カッ跳んだ曲。メロディーもアレンジも秀逸で、アレンジャー吉田氏の才気に満ちている。どの曲もそうなのだが、アレンジャーとしての一曲ごとの工夫が楽曲にインパクトを与えていて、歌い手・月野の個性を浮き立たせているのだ。以前、月野はある人に「月野さんの存在って、暗さが迸(ほとばし)っていますよね」と言われたという。月野は、自分は光り輝く、まぶしい歌手じゃない、輝いて人を照らす音楽家じゃないと思っていたという。だから、すごくしっくりくる言葉だったそうだ。それで『迸る暗さ』という、自分自身を言い当てられた言葉を題名にした。つまりこの曲もほかと同様、月野自身の心情そのもの。「死んだような長い時間は確かに生きてる一瞬のためにある」とは、〈人生での多くの苦しみの時間は、一瞬輝くためにあるのだから、苦しみを恐れずに一瞬だけでも輝いてほしい〉というメッセージなのだ。
4.再起可能これも高速道路を運転しながら聴く時は要注意。CDのタイトルになるのにふさわしく、月野の本質が詰まっている。存在が社会に認めてもらえなくて「もう立てない泣くしかできない」と嘆くことだってある。でも「そう思いながら全てを捨てたわけじゃなかった」「私、また立ちあがった」と、月野はあなたも奮い立たせている。〈何度叩きつけられても、どんなに踏みにじられても、立ちあがって雄叫びをあげ、拳を突き上げろ!〉と、月野が応援してくれているようだ。あなたが「助けて」と苦しげにつぶやいたら「よっしゃ!助けにいっちゃる!」と立ちあがる、ねじり鉢巻き姿で飛び出す月野が目に浮かぶ。『生きる才能』と共に、この曲もJOY SOUNDでカラオケになっているが、とにかく歌詞が詰まっているので、この曲は歌うのが特に難しい。カラオケで歌う時は息継ぎできる箇所を探して、そこに至るまでに十分に息を吐き切ること。息を吐き切れば次の瞬間、一気に大きく息を吸えるのだ。人体はそういう仕組みになっている。歌うのが難しいからこそ、歌い切った時はそう快なのだ!
5.15『15』というタイトルの、その本当の意味はわからないが、大人でも子供でもない、一人称“僕”の揺れる想いがつづられている気がする。思春期に感じていた、まぎれもなくピュアな想いを、月野自身が思い出して書き留め、そこに静かな主旋律を乗せているのではないか。抽象的な曲調で比較的おだやかに主旋律が進むが、曲の最後に一瞬だけ、音階がメジャー(長調)になる箇所があるのだ。そこで「未来に僕はいますか?」と言葉を投げかけている。〈僕はいるのかなあ、それともいないのかな。それは僕にもわからないんだ。〉曲の最後に投げかけた、この一瞬の明るい旋律が、不安を抱えている子のまばゆい可能性を予感させてくれる。月野にしてはトゲトゲしさのない曲だが、だからこそ最後の一瞬で春雷に打たれた。きっと“僕”とは、人に言えない想いを抱えて学園生活を送っていた月野自身のことなのだ。最後の目覚まし時計のベルは、学校のチャイムの音……だったのかもしれない。
6.夜泣きバックはピアノの独奏。短調で奏でられるピアノのメロディーが美しい。作曲が嫌いで、いつもギリギリまでやらないという月野だが、この曲だけは夢の中で作れたという。ヴォーカリストとしての実力が、シンプルなアレンジの中で浮き立っている。キレキレのソプラノではないけれど、どこかかすれたような声や吐息が、切なさややりきれなさや、希望や未来を感じさせてくれる。歌詞は実際に月野がTwitterでつぶやいた言葉を組み合わせて作ったもの。〈生きている感覚がなく、まるで自分が存在していないみたい。〉それを「気がつけば私顔がない」と歌う月野は、この詞にかかる旋律の一部を借用和音を使って明るいものにした。その直後にも4小節だけ転調してキーを上げ、ここだけ明るい旋律に変えているのだが、音楽的にはこの変化は、予定調和を壊す素敵な“アクセント”であり、音階の美しさに心が同調する者にとっては“涙線の崩壊”を止められない“危険地帯”である。なかなかこんな、泣ける曲には出会えない。夜、一人で聴いていたら……月野恵梨香が僕を泣き虫にした。フィニッシュにたどり着く手前の間奏で、ピアノの旋律は転調して上がっていき、築いた音階を壊してラストを迎える。アレンジャー吉田遊介、ピアニスト畠中文子両氏の手腕もまた、見事である。
7.ひとりあそび曲の前半がアカペラ。CDの不良ではない。伴奏なしで歌っているのだ。途中からギターとエレキギターが入り、急に音の世界が広がる。力を抜き気味に歌っているので、エレキギターのつぶやくような音色にさえ、耳が敏感に反応する。〈私の人生は全部、ひとりあそびのようなもの。〉「生きてる意味などそんなもの考えても無駄だと人は言うけど 私はそれが知りたい」と月野は言う。〈生きる意味を探しているのに見つからない。それでも生きている意味がほしいから、行き詰ってしまう。人のために尽くしても、限りが見えない。誰のことも救えない。ただ、これだけは言える。もしも世界が一瞬の快楽でうごめいていたとしても、自分がいいと思ったことをやっていくよ。〉さて、月野がいいと思うことは一体どんなことなのか? 月野は最後に子守唄を歌うようにこう、ささやいた。〈あなたがこれからも、ずっと愛されますように。〉
8.知りもしないくせに最初はきちんとした旋律にのっとって歌っているのに、途中から月野の狂気がむき出しになる。女がここまで怒鳴るには、それなりの覚悟がいると思うのだが、どうやって作ったのか月野には明確な記憶がない。吉田氏とのタッグの中で生まれたものだが、退廃的に奏でられる、けたたましい電気楽器のきしみを打ち消すかのように、月野が叫んでいる。月野の感情の奥底に潜んだ、正直な気持ち、うっ積した感情を爆発させている。前衛的な作品に仕上がっており、全曲の中でも際立った個性を出しているが、本人としては軽いノリで作ったらしい。〈私の気持ちなんて、どうせ誰もわかってくれないじゃん!!〉このストレートな歌詞の意味が共感を呼び込むだろう。
9.アカ「さあ振り向いてももう出口はない」。なにか得体の知れない、不気味な世界の入口にいざなわれていく。その昔、忍者は精神統一するため「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」と唱えて印を結んだというが、この曲でも印が結ばれている!? なんだか忍者アニメの主題歌のようだが、「愛!性!能!血!非!身!理!気!意!個!死!生!憂!」と叫ぶと、逆に気持ちが高揚してきてしまう。全然落ち着けないよ! 月野は子供の頃、周りの大人達に「あなたは何でも白黒つける子」と、よく言われいて、それに反発して自分のトレードカラーを赤に決めた。白でも黒でもない赤。赤は血の色。「全ての弱さと無力に強すぎる程のアカを」。月野のたぎった血が、聴いているこちらの血まで熱くさせる。
10.BARK「BARK」とは名詞・動詞で、「犬のように吠える、大きな音を出す、度鳴る」という意味。サビのメロディーが、際立って切ない。後半は歌唱力全開で、詞と詞のあいだのブレス(息つぎ)の音が明確に聞こえ出す。それはまさにクライマックスへの序曲で、「私を信じて」という歌詞の「私」が、ただの「わ・た・し」に聞こえないように歌われている。心情を絞り出している、この歌い方が絶品なのだ。社交的に振る舞うことのできる人でも、誰とでも仲良くできる人でも、実は他人が理解できない闇を抱えていることもある。渾身の想いを込めて歌った、この曲の中にも、弱い彼女が自分をさらけ出している瞬間がある。だからこそ、この曲も愛おしい。
11.K 全曲の中で、この一曲だけアレンジとギターを担当したのが、広保宣(ひろやす・せん)氏。ジャズのようなドラムでスタートする。メロディーは月野が小学校1年生!の時に浮かんだものだそうで、どこまで天才なんだ!と思うのだが、月野は歌詞も一度決めてレコーディングすれば、あとは覚える作業をしなくても、絶対に忘れないのだという。そんなこと、普通できないよ! 曲の中で短調から長調に一瞬、転調するシーンがあるのだが、このアクセントも無意識の産物だそうだ。「僕は君が好きで」とは、YOUへのLOVEだけではなく、広く人間愛を表現した言葉。〈人が嘲笑するほどの理想を持って、美しい抵抗をしろ。でも色々な生活の中で、変わらざるを得ない自分がいる。そんな自分に失望し、己の心は壊れそうだ。〉最後は身もだえし、うごめくような声で、迷路に入り込んだ人の悲しみを表した。それにしても、題名の『K』とは一体、なんだろう?
12.過食症歌詞を読めば分かる通り、文字がギッシリ。息つく暇もない。息つく暇もなく食べ続け、「明日から逃げるために」食べて食べて食べまくる。〈ストレスで無意識に食べまくるように、自分は周りの誰かを傷つけまくってきたけれど、本当はみんなが「大好き」なんだ。〉「本当はあー生まれてこなけりゃあよかった」。でもそんな自分を「明日こそはやめられるあたしになれる」と、揺れる音程の中で宣言。感情を歌詞に刷り込み、決意を歌ににじませるが、食べ過ぎて息があがっているような歌い方が、切羽詰まったように聞こえる。
13.隠し場所、制服の下。月野は「暗い曲は嫌い」だという。つまり暗く聞こえる月野の曲にも、そこには彼女なりにポジティブなメッセージを1行は入れているので、彼女にとっては「暗いだけじゃないぞ。「明るい想いこそ本当に届いてほしい所なのだろう。それでも明らかにマイナーの旋律が多い月野の曲の中で、これは明確にメジャーを貫き通している。『隠し場所、制服の下』というのは、学生服姿の下に思春期の心を隠して生きている、自分自身を描いたタイトルなのだ。不平不満や愚痴を並べつつも、急に助けを請うような台詞が、耳に飛び込んでくる。「手を握って、私ならちゃんとここにいる!!」って、少女じゃないか。「嗚呼、やっぱり自分を選びますっっ!!!」とは〈自分の本当の気持ちを優先します〉ということ。手拍子も入って、なんだか人生の応援歌みたいだ。ラストの「ありがとう私、家族に愛されていた」とは〈この歌を聴いてくれている、みんなに私、愛されているんだ〉という、感謝の気持ちも込められたものだろう。最後ぐらい楽しい曲調で終わろうぜ。明日も生きなきゃならないんだから。
?ボーナストラックこれはまるで誰かが嗚咽して吐いた、懺悔(さんげ)の壺。苦しみを吐き出すブラックスボックスの中でうごめいている、苦しみ、うめき、絶望の声じゃないか。それを覗き込んで、曲をつけているのだ。月野が「自分のつらい心の叫びを声にして送って下さい」と呼びかけ、送られてきた声が使用されている。“他人の本性”という禁断の扉を開けた月野は、それを受け止めた。人前に立つ仕事をしている以上、本来なら人には弱みを見せられない立場の月野。だから自分の人生は自分で取りに行け!と、いつもみんなを鼓舞しているのだ。暗い夜でも、いつか必ず夜明けはくる。でも心が闇の時は、そんな言葉も嘘っぱちに聞こえるんだよなあ。だから13番目のあとにある曲はシークレット。これは開けてはいけない“パンドラの箱”なのだ。
(文:安西伸一=音楽ライター)
■月野恵梨香によるボーナストラック解説
ボーナストラックの叫びの声は「HAPPY BIRTHDAY」という曲です。私がツイッターで「死にたい」という気持ちや「苦しい」という気持ちを声にして送ってくださいと呼びかけました。思っていたよりもずっとたくさんの声が集まりました。痛みというものは目に見えません。これは私が「目に見えない痛みというものを何とかして見える、感じられる形にしたい」という想いからでした。
『再起可能』
2016年10月12日(水)
発売TH-010 (株式会社ローズクリエイト)
2,800円(税抜)
16Pブックレット仕様歌詞カード
※タワーレコード全店購入特典:アナザージャケットA
※他店舗購入特典:アナザージャケットB
[収録曲]
01.死んではいけない
02.生きる才能
03.迸る暗さ
04.再起可能
05.15
06.夜泣き
07.ひとりあそび
08.知りもしないくせに
09.アカ
10.BARK
11.K
12.過食症
13.隠し場所、制服の下。
→Amazon(視聴付き)予約はコチラ
http://www.amazon.co.jp/dp/B01IDFA4K4
→タワレコオンライン(視聴付き)予約はコチラ
http://tower.jp/item/4312742
「この女、人の心をえぐりやがる。」やくみつる(漫画家)
全楽曲を自ら書き、月野恵梨香の現在(いま)の全てを出し切った、再起を掛けた大作。レコーディングメンバーにに豪華プレイヤーを迎え、堂々完成!西山史晃(ROGUE)、KEN(SA)、広保宣(織田裕二バンド)、村井研次郎(cali≠gari)、土方幸徳(アニメ「けいおん! 」)、畠中文子(だんご三兄妹)ら多数参加。
月野恵梨香twitter
https://twitter.com/tsukinoelica
アルバムダイジェストムービー
https://youtu.be/mSjuiOfx3EU
◆レコ発ツアー開催決定◆
間々田優・中村ピアノ・月野恵梨香バンドツアー
<三原色パンデミック ~アイドル14歳の生きる才能~>
10/19(水) 東京・目黒鹿鳴館 17:00 OPEN/18:00 START
10/23(日) 大坂・道頓堀シュリンプ 14:00 OPEN/15:00 START
11/06(日) 山梨・甲府コンビクション 14:00 OPEN/15:00 START
12/22(木・祝前日) 東京・新宿club SCIENCE 16:30 OPEN/17:30 START
チケット(※全会場共通)前売り¥3,800/当日¥4,300(+1D)
【イープラス】
http://goo.gl/UjMJUp
【チケットぴあ(Pコード:303-022)】
本案件の全てのお問い合わせは株式会社ローズクリエイトまでお願いいたします。
株式会社ローズクリエイト
担当 鈴木
03-6380-2243