【図1 日本列島のドジョウ属魚類】(a)形態的に異なる特徴がみられる「ジンダイドジョウ」の標本(標準体長119.1 mm、MIE-Fi1512)。(b)「ドジョウType I」の標本(標準体長92.7 mm、KUN-P59954)。(c)一般的なドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)の標本(標準体長96.3 mm、KUN-P59924)。



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【図1 日本列島のドジョウ属魚類】(a)形態的に異なる特徴がみられる「ジンダイドジョウ」の標本(標準体長119.1 mm、MIE-Fi1512)。(b)「ドジョウType I」の標本(標準体長92.7 mm、KUN-P59954)。(c)一般的なドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)の標本(標準体長96.3 mm、KUN-P59924)。



【本件のポイント】

・環境DNA※1 分析により、絶滅したと考えられていた淡水魚「ジンダイドジョウ」のかつての生息域を含む三重県伊賀市周辺の6地点から「ドジョウ属隠蔽種(Type I)」※2 ※3 のDNAを検出。

・検出した環境DNAを解析した結果、すべて「ドジョウType I」の日本海側クレード(遺伝的系統)と一致。両者が同じ分類群であるという形態解析に基づいた従来の仮説を遺伝学的に支持。

・過去に「ジンダイドジョウ」の採集記録がない近隣流域からも環境DNAを検出。今後の生息調査や保全につながる手がかりに。

【本件の概要】

近畿大学 農学部環境管理学科の北川忠生 教授、八嶋勇気 博士(現・琉球大学)、ならびに龍谷大学 生物多様性科学研究センターの伊藤玄 博士研究員、山中裕樹 センター長(同先端理工学部教授)を中心とする共同研究グループは、環境DNA分析により、絶滅したと考えられていた淡水魚「ジンダイドジョウ」の現存確認と正体解明を調査した研究成果を国際学術誌Scientific Reports(Springer Nature社)にて公表しました。

三重県伊賀市には、かつて「ジンダイドジョウ」と呼ばれる、一般的なドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)とは異なる特徴を持つ淡水魚が生息していました。しかし、個体数の減少などにより、2000年代の調査では確認されず、「ジンダイドジョウ」は絶滅したと考えられていました。

一方、近年の遺伝学的研究によって、日本列島には一般的なドジョウとは異なる「ドジョウType I」と呼ばれる希少な系統が存在することが明らかになっています。「ドジョウType I」は、古い時代に分化した遺存固有種(隠蔽種)としての特徴を有しています。2025年の先行研究では、三重県総合博物館に保存される「ジンダイドジョウ」9点の標本の形態解析から、「ジンダイドジョウはドジョウType Iと同じ分類群である」という仮説が提案されていました。

そこで本研究では、水中に残された生物由来のDNA(環境DNA)を用いて「ジンダイドジョウ」の現存確認と正体の解明を目的とした調査を行いました。伊賀市とその周辺33地点で採水し、「ドジョウType I」に特異的なDNAを探索した結果、6地点から環境DNAを検出。さらに塩基配列を解析したところ、すべてが「ドジョウType I」の日本海側クレードのサブクレードJ(福井県敦賀市や三方湖周辺から確認されている西限の遺伝的系統)に属することがわかりました。この結果は、従来の仮説を遺伝学的に支持するとともに、絶滅したと考えられていた系統が現在も伊賀市周辺に現存している可能性を示すものです。また、過去に「ジンダイドジョウ」の採集記録がなかった久米川および鞆田川流域でも環境DNAが検出されたことから、今後の詳細な調査・保全につながる手がかりが得られました。

【研究の背景】

・絶滅したと考えられていた「ジンダイドジョウ」

「ジンダイドジョウ」は、三重県伊賀市新堂地区の湿田など、ごく限られた地域に生息していた淡水魚です。一般的なドジョウと比べて大型で、特徴的な体色・斑紋を持つことから、以前から別の分類群である可能性が指摘されてきました。しかし、1940年代以降、乱獲や農薬の使用などによって個体数が減少し、一般的なドジョウとの交雑が進んだとされています。2000年代に行われた調査でも「ジンダイドジョウ」の特徴を持つ個体が確認されなかったことから、「ジンダイドジョウ」は絶滅したと考えられていました。

・「ジンダイドジョウ」の正体をめぐる仮説

2000年代以降の遺伝学的研究により、日本列島には一般的なドジョウとは遺伝的に異なる「ドジョウType I」の存在が明らかになりました。同系統は、主に本州中部から東部の限られた地域に分布していると考えられている希少な系統で、保全上の重要性が高い分類群とされています。

2025年には、三重県総合博物館に保存されている1950年代に採集された「ジンダイドジョウ」9点の標本を詳しく形態比較した研究から、「ジンダイドジョウはドジョウType Iと同じ分類群である」という仮説が示されました。しかし、ホルマリン固定された標本からDNAを解析することはできず、また伊賀市を含む淀川水系では、これまで「ドジョウType I」の分布が遺伝学的に確認されていませんでした。そこで本研究では、環境DNAを利用して、伊賀市周辺に「ドジョウType I」の遺伝的特徴を保持する集団が現在も生息している可能性を調査し、「ジンダイドジョウ」との関係を検証することとしました。

【研究成果】

①伊賀市と周辺33地点から「ドジョウType I」のDNAを探索

研究グループは2023年10月、伊賀市とその周辺の33地点において、環境DNAサンプルとして河川や水路から水を採取しました。「ドジョウType I」のDNAを特異的に検出する分析法を用いて調査した結果、33地点のうち6地点で陽性反応が得られました。そのうち3地点は、かつて「ジンダイドジョウ」が生息していた新堂地区でした。さらに、過去に「ジンダイドジョウ」の採集記録がない鞆田川流域の1地点、久米川流域の2地点からもDNAが検出されました。

②検出されたDNAは「ドジョウType I」の「サブクレードJ」に一致

検出されたDNAが「ドジョウType I」に由来するものかを確認するため、陽性となった6地点の8試料について、DNAの塩基配列を解析しました。その結果、すべての配列は「ドジョウType I」の配列と最も高い類似性を示しました。さらに、既知の「ドジョウType I」のDNA配列と比較したところ、今回検出されたDNAの遺伝的系統は、すべて日本海側クレードに属するサブクレードJ(福井県嶺南地方に分布)のハプロタイプ4)と一致しました。この結果は、複数の淡水魚の系統地理学的パターンと整合するものです。

伊賀市周辺で検出されたDNAが、「ドジョウType I」の特定の系統に属することが示されたことから、これまで形態的な特徴から提案されていた「ジンダイドジョウとドジョウType Iは同じ分類群である」という仮説を、遺伝学的な側面からも支持する結果となりました。

③「幻の魚」の現存と保全に向けた新たな手がかり

新堂地区では3地点から「ドジョウType I」の環境DNAが検出されました。この地域では、2000年代の捕獲調査で「ジンダイドジョウ」が確認されていませんでした。今回の結果から、「ジンダイドジョウ」に由来する系統、あるいはその遺伝的特徴を保持する集団が現在もこの地域に生息している可能性が示されました。

さらに、過去に「ジンダイドジョウ」の採集記録がない久米川流域などでも、環境DNAが検出されました。周辺にも「ジンダイドジョウ」の系統に由来する集団が生息している可能性があります。

一方、今回の調査だけでは、安定した個体群が存在するか、検出されたDNAが交雑のない遺伝的に純粋な在来個体に由来するかまでは判断できません。今後は、久米川流域を含む伊賀市および淀川水系を対象に、環境DNA調査と捕獲調査を組み合わせ、「ジンダイドジョウ」の現在の分布や個体群の遺伝的な状態を明らかにすることが求められます。

【発表論文】

タイトル:Environmental DNA supports persistence of the thought-to-be-extinct

     Japanese freshwater fish ‘Jindai Dojo’ and reveals its conspecificity

     with an Eastern Japanese relict species

和訳  :環境DNA分析が示す絶滅したと考えられていた

     日本産淡水魚「ジンダイドジョウ」の現存と東日本の遺存種との同種性

著者  :伊藤玄1・八嶋勇気2,3・大北祥太郎4・安田朝香5・山中裕樹1・北川忠生2(責任著者)

所属  :1 龍谷大学 生物多様性科学研究センター 2 近畿大学大学院 農学研究科

     3 琉球大学 熱帯生物圏研究センター 4 三重県伊賀市(在住)

     5 龍谷大学 先端理工学研究科

掲載先 :Scientific Reports(Springer Nature社)

リンク :https://doi.org/10.1038/s41598-026-68700-6(2026年8月28日に先行公開)

【研究の意義・今後の展開】

本研究は、過去の標本からDNAを取得できないなど、直接的な遺伝学的証拠を得ることが難しい希少な生物について、環境DNAから得られた情報と系統地理学の知見を組み合わせることで、その系統の存在や分類上の関係を推定できることを示しました。

また、絶滅したとされていた「ジンダイドジョウ」が現在も生息している可能性を示すことができたことも大きな意義があります。ただし、今回の結果だけでは純粋な在来個体群の生息を断定することはできません。今後は、今回DNAが検出された地点を中心に、環境DNAによる広域調査と捕獲調査を進め、実際の個体から遺伝情報を取得することで、「ジンダイドジョウ」の分布と個体群の遺伝的な状態を明らかにすることが重要です。

【用語解説】

※1 環境DNA

生物が水中などの環境中に放出したDNAのこと。糞や粘液などに含まれるDNAを水などから採取して分析することで、対象となる生物を直接捕獲しなくても、その生物が生息している可能性や分布を調べることができる。現在、希少種や生息密度の低い生物の調査にも活用されている。

※2 ドジョウ属隠蔽種(Type I)

日本列島に生息するドジョウ属魚類のうち、一般的なドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)とは遺伝的に異なる系統。現在の分布は本州中部から東部の一部地域に限られている。環境改変や生息地の分断、他のドジョウ類との交雑などの影響を受ける可能性があることから、保全上重要な系統とされている。

※3 隠蔽種

本来別種であるにもかかわらず、外見上はよく似ているため、同じ種と考えられていたもの。

※4 ハプロタイプ

同じ遺伝子領域における、塩基配列の異なる型のこと。ハプロタイプを比較することで、同じ種・系統内に存在する遺伝的な違いや、集団間の関係を調べることができる。

【関連リンク】

農学部 環境管理学科 教授 北川忠生(キタガワタダオ)

https://www.kindai.ac.jp/meikan/890-kitagawa-tadao.html

農学部

https://www.kindai.ac.jp/agriculture/




情報提供元: @Press