AIがアルミニウム合金コーティングの「サビにくさの理由」を解明 芝浦工業大学、表面の粗さの役割が変わる現象を世界初発見
@Press 2026年09月17日 13:00:00
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本成果は2026年8月18日(火)、Nature Portfolioが発行するオープンアクセス誌『npj Materials Degradation』(オンライン)に掲載されました。
■研究成果のポイント
●4つの物理的特徴から耐食性を予測するAIモデルを構築
皮膜の厚さ(膜厚)・表面粗さ・結晶子サイズ・基板の欠陥密度という4つの物理的特徴(物理記述子)から、サビにくさ(孔食電位)を予測するAIモデルを構築。
●多重共線性を克服し、従来モデルを超える精度を達成
特徴どうしが強く相関して個別評価が難しかった問題(多重共線性)を克服し、従来の製造条件ベースのモデル(決定係数R2=0.557)を上回る予測精度(R2=0.670)を達成。
●「形態的レジームシフト」の発見
表面の凹凸(表面粗さ)が、膜厚およそ2,200 nmを境界として、「サビを防ぐ被覆効果」から「腐食因子の侵入経路」へと役割を変える現象を世界で初めて発見・実証。
●汎用的な材料設計指針の確立
製造装置に依存しない普遍的なコーティング設計指針として、次世代材料開発の加速に期待。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/630987/LL_img_630987_1.png
図1
図1 | AIによる防食メカニズム解明の全体像:
(a) 皮膜の断面観察やX線回折から、膜厚・表面粗さ・結晶子サイズ・基板欠陥密度という4つの物理的特徴を取得。
(b) これらをもとにAI(ランダムフォレスト)でサビにくさを予測し、SHAP解析で各要素の重要度を、ALE解析で要素間の相互作用を評価。
(c) 表面粗さが大きい領域において、膜厚約2,200 nmを境に表面粗さの役割が「サビを防ぐ被覆効果(高い耐食性:白)」から「腐食因子の侵入経路(低い耐食性:黒)」へ反転することを発見。
■研究の背景
アルミニウム合金は航空宇宙や自動車など幅広い産業で使われる軽量材料ですが、塩化物環境下などで局所的に進行する「孔食(点状のさび)」が耐久性の大きな課題です。石崎教授が独自開発した、水蒸気のみを用いた低環境負荷型の「蒸気コーティング法」により形成されるベーマイト皮膜は、環境対応型の有力な表面処理技術として注目されてきました。
しかし、皮膜の厚さ・粗さ・結晶性・基板の欠陥といった構造的特徴は製造過程で互いに強く連動(相関)するため、「どの要素が真にサビにくさを決めているのか」を個別に取り出して評価することは困難でした(多重共線性の課題)。また、同じ製造条件であっても装置の違い等で皮膜構造が変わることもあり、製造条件に依存しない、物理的根拠に基づく普遍的な材料設計指針の確立が求められていました。
■研究の内容
研究グループは、製造条件ではなく皮膜と基板そのものが持つ物理的特徴(物理記述子)をAIに学習させ、予測の根拠まで説明できる説明可能なAI(XAI)を組み合わせた解析手法を確立しました。
膜厚・表面粗さ・結晶子サイズ・基板欠陥密度の4つを指標とし、5種類の機械学習手法を「繰り返しネスト交差検証」で比較した結果、ランダムフォレスト(RF)が最も高い精度(R2=0.670)を示し、従来の製造条件のみを用いたモデル(R2=0.557)を上回りました。
表1 | 繰り返しネスト交差検証により評価された機械学習モデルの一般化性能
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/630987/LL_img_630987_5.png
表1
4つの物理記述子を用いたランダムフォレスト(RF)モデルが最も高い精度を示し、従来のプロセス条件モデルを上回ったことを示しています。
さらに、このモデルにSHAP解析とALE(Accumulated Local Effects)解析を適用し、複雑に絡み合った各要素の影響を独立して可視化しました。
1. 支配因子の特定(SHAP解析)
サビにくさを最も強く左右するのは表面粗さ、次いで膜厚であり、基板の欠陥密度や結晶子サイズよりも皮膜の形態的特徴が支配的であることがわかりました(図2)。
2. 役割の反転現象「形態的レジームシフト」(ALE解析)
表面粗さの効果は単一ではなく、膜厚との組み合わせによって変化することが判明しました。特に表面粗さが大きい皮膜において、膜が薄いうち(膜厚約2,200 nm未満)は粗さが被覆形成・保護的に働きますが、膜が厚くなると(約2,200 nm以上)、逆に欠陥を介した腐食因子の通り道(マイナスの効果)へと変化することを発見しました(図3・図4)。研究グループはこの役割の切り替わりを「形態的レジームシフト(Morphological Regime Shift)」と名付けました。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/630987/LL_img_630987_2.png
図2
図2 | 各要素の影響度(SHAP解析):
(a) 平均的な影響度のランキング。表面粗さが最も支配的で、次いで膜厚が大きく寄与。
(b) 各要素の値が予測に与える方向。表面粗さと膜厚は値が大きいほどサビにくさを高める一方、基板欠陥密度が高いほど低下させるなど、物理的に整合した関係を捉えています。
画像4: https://www.atpress.ne.jp/releases/630987/LL_img_630987_3.png
図3
図3 | 要素ごとの単独効果(1次元ALE解析)
各要素がサビにくさに与える個別の効果(青線:平均、グレー帯:95%信頼区間)。
(a) 表面粗さは約500 nmを超えると耐食性が急上昇します。
(b) 膜厚はおよそ2,200 nmを超えると急上昇し、約3,880 nmでピークに達した後に低下します。
(c) 基板の欠陥密度が増すと、耐性は急激に低下します。
(d) 結晶子サイズは約15 nmが最適です。
(e) 各要素を1つずつ除外した検証では、表面粗さを除いた場合にのみ精度が大きく低下し、最も不可欠な因子であることが確認されました。
画像5: https://www.atpress.ne.jp/releases/630987/LL_img_630987_4.png
図4
図4 | 要素の組み合わせによる相乗効果(2次元ALE解析)
2つの要素が組み合わさることで生じる相乗効果を示したヒートマップ(黄色:サビにくさを高める領域、紫色:低下させる領域)。
(a) 表面粗さ×結晶子サイズ:粗さが小さく結晶が微細な領域を除き、多くの領域でプラスに働きます。
(b) 表面粗さ×基板欠陥密度:極端な境界はなく、両者が穏やかに協調して影響します。
(c) 表面粗さ×膜厚:粗さが大きい領域では、膜が薄いうち(膜厚2,200 nm未満)はプラスに働き、厚くなるとマイナスへ反転します。膜厚と表面粗さの組み合わせで保護のしくみが大きく変わることを、定量的・視覚的に示しています。
■本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、複雑に絡み合った材料の構造的特徴と耐久性の関係を、データどうしの強い相関(多重共線性)に阻まれることなく、説明可能なAI(XAI)によって定量的に解読できることを実証した成果です。
1. プロセスに依存しない汎用的な材料設計
物理的特徴を基準とするため、製造装置や試作スケールが変わっても共通して使える品質評価・設計指針が確立されます。
2. 製造効率化と試作コストの大幅削減
AIが目指すべき膜厚と表面粗さの最適な組み合わせを具体的に提示するため、手探りの試作を大幅に減らし、開発期間とコストを低減できます。
3. 他分野・次世代材料への応用展開
本手法はアルミニウム合金に限らず、マグネシウム合金の耐食コーティング、全固体電池・燃料電池の界面劣化メカニズムの解明など、複雑な構造を持つ多様な機能性材料の開発への応用が期待されます。
■特記事項
本研究成果は、2026年8月18日(火)に、Nature Portfolioが発行するオープンアクセス誌 『npj Materials Degradation』(オンライン)に掲載されました。
タイトル:" Interpretable Machine Learning Reveals a Morphological
Regime Shift Governing Pitting Resistance in Steam-Coated
Boehmite Films "
著者名 :Kei MASUHARA, Yuki ATSUUMI, Kota FUKUHARA, Hikari OHUCHI,
Takahiro ISHIZAKI
DOI :10.1038/s41529-026-00862-0
なお、本研究は、JSTの研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP 産学共同(育成型),No. JPMJTR23RJ)の一環として行われました。
■参考URL
芝浦工業大学 石崎貴裕 研究室Webサイト
https://sites.google.com/shibaura-it.ac.jp/shibaura-ishizaki-lab/
■用語説明
●物理記述子(Physical Descriptors)
材料のプロセス条件(温度・時間等)ではなく、材料そのものが持つ物理的・構造的特徴(膜厚、表面粗さ、結晶子サイズ、欠陥密度など)を数値化した指標。
●多重共線性(Multicollinearity)
説明変数(特徴量)同士の間に強い相関関係が存在する状態。回帰分析などの統計モデルにおいて、個々の変数の影響度を正しく評価できなくなる原因となる。
●説明可能なAI(XAI / Explainable AI)
複雑な機械学習モデル(ブラックボックスモデル)の予測根拠や内部の判断理由を、人間が理解できる形で可視化・説明する技術。本研究ではSHAP(SHapley Additive exPlanations)やALE(Accumulated Local Effects)解析が用いられた。
●孔食電位(Epit)
金属表面の局所的な保護皮膜が破壊され、点状の腐食(孔食)が発生・進展し始める限界の電位。値が高いほど耐孔食性が優れていることを示す。
キーワード
アルミニウム合金 / 蒸気コーティング / 物理記述子 / 機械学習 / 説明可能なAI(XAI) / ランダムフォレスト / 耐食性・孔食 / 表面形態
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約10,000人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
情報提供元: @Press