雪印メグミルク株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:佐藤 雅俊)は、秋田県立大学との共同研究により、ヒトの腸内にすむ細菌の一種「 Phocaeicola dorei(フォカエイコラ・ドレイ。以下、P. dorei)※1」が2種類のD-アミノ酸※2を作り出すことを確認しました。D-アミノ酸は私たちの体内にも存在する成分で、チーズなどの発酵食品にも含まれています。近年では、腎臓や脳の働きとの関係が注目されています。さらに、この細菌からD-アミノ酸を作る酵素も新たに発見しました。今回の成果は、ヒトの腸内細菌がどのようにD-アミノ酸を作るのかを理解する手がかりとなります。また、腸内環境と健康がどのようにつながっているのかを解明する研究にも役立つことが期待されます。



【本研究のポイント】



・ヒト腸内細菌 P. dorei がD-アラニンおよびD-セリンを産生することを確認した

・従来とは異なる構造の酵素が、D-アミノ酸産生に関与する可能性を示した

・腸内細菌によるD-アミノ酸産生機構の理解を深める成果であり、健康との関係解明に向けた研究につながることが期待される



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図1.P. dorei JCM 13471TによるD-アラニンおよびD-セリン産生

P. dorei を培養したところ、未培養の液と比較して、培養液中のD-アラニンおよびD-セリン濃度が有意に増加しました。D-アラニンは約2倍、D-セリンは約3倍となり、P. dorei がD-アミノ酸を産生する能力を持つことが示されました。



本研究の背景と目的



P. dorei は、ヒト腸内における優勢菌種の一つです。近年、腸内細菌が産生するさまざまな物質と健康との関わりが注目されており、D-アミノ酸もその一つです。アミノ酸にはL型とD型が存在します。私たちの体を構成するタンパク質は主にL-アミノ酸からできているため、生体内ではL-アミノ酸が圧倒的に多く存在します。一方、D-アミノ酸はごく微量しか存在しないことから、長らくその生理的役割は十分に分かっていませんでした。しかし近年、分析技術の進歩により、D-アミノ酸が脳や腎臓などの機能に関与することが明らかになってきており、その供給源の一つとして腸内細菌が注目されています。しかし、ビフィズス菌や乳酸菌以外の腸内細菌におけるD-アミノ酸産生能や、その産生機構については、いまだ十分に解明されていません。そこで本研究では、P. dorei に着目し、D-アミノ酸産生の有無と、その産生に関わる酵素の特徴を明らかにすることを目的としました。



研究概要



日本人の便から分離されたP. dorei 基準株(JCM 13471T)を腸内環境に近い嫌気条件下で培養し、培養液中のD-アラニンおよびD-セリン濃度を測定しました。また、ゲノム情報を解析し、D-アミノ酸産生に関与する可能性のある酵素を特定したうえで、試験管内でその機能評価を実施しました。



結果



P. dorei を培養したところ、培養液中のD-アラニンおよびD-セリン濃度が有意に増加し、本菌がD-アミノ酸を産生する能力を持つことが示されました(図1)。また、ゲノム解析によって、従来知られているアミノ酸ラセマーゼ※3とは異なる構造を持つ新しいタイプの酵素を見出しました。この酵素は、主にアラニンに作用し、セリンにも作用することを試験管内で確認したことから、新規な構造を持つアラニンラセマーゼであることが判明しました。これにより、本酵素が P. dorei によるD-アラニンおよびD-セリン産生に関与している可能性が示されました。



考察



これまで P. dorei によるD-アミノ酸産生や、その産生に関わる仕組みは明らかになっていませんでした。本研究により、P. dorei がD-アラニンおよびD-セリンを産生することに加え、その産生に関与する可能性のある特徴的な酵素の存在が示されました。これらの知見は、腸内細菌による多様なD-アミノ酸産生機構の理解を深める成果と考えられます。



今後の展望



今後は、P. dorei をはじめとする腸内細菌が産生するD-アミノ酸の生理的役割や、腸内環境と健康との関係について研究を進めていきます。なお、本研究は基礎研究段階の成果であり、特定の食品や成分による疾病の予防・治療効果を示すものではありません。



論文情報



論文タイトル:An alanine racemase with a novel domain architecture: a chimeric enzyme with an N-terminal Mur ligase-like domain in Phocaeicola dorei and its distribution in the phyla Bacteroidota and Chloroflexota

(邦題)新しい構造を持つアラニンラセマーゼ:Phocaeicola dorei におけるキメラ型酵素とその分布

掲載誌名:BMC Microbiology

DOI:https://doi.org/10.1186/s12866-026-05424-7

著者・発表者(所属):Yuta Mutaguchi1, Takuya Tsukahara2, Shigeki Kada2

1 秋田県立大学、2 雪印メグミルク株式会社



用語説明



※1 Phocaeicola dorei

ヒトの腸内に存在することが知られている腸内細菌の一種です。旧分類では Bacteroides dorei と呼ばれていました。

※2 D-アミノ酸

アミノ酸には、分子構造の違いによりL型とD型があります。体をつくるたんぱく質は主にL-アミノ酸からできていますが、D-アミノ酸も体内に存在し、特にD-アラニンやD-セリンは脳や腎臓などの機能との関係が研究されています。

※3 アミノ酸ラセマーゼ

L-アミノ酸とD-アミノ酸を相互に変換する酵素で、アラニンラセマーゼやセリンラセマーゼはその一種です。

■本研究に関する秋田県立大学のニュースリリース

https://www.akita-pu.ac.jp/kenkyuseika/kenkyuseika2026/9434




情報提供元: @Press