図1: 研究成果のまとめ(©田中 花音)




図3: オオサンショウウオと他の動物との骨組織の比較 (左:オオサンショウウオ、中央:現生両生類ファイアサラマンダー、右:絶滅両生類メトポサウルス)


 岡山理科大学生物地球学部の林昭次准教授、同大学卒業生の野田昌裕さん、石川世奈さん、広島市安佐動物公園の安西航博士、オオサンショウウオ生態保全教育文化研究所の田口勇輝所長、シュツットガルト州立自然史博物館(ドイツ)、及びボン大学(ドイツ)の研究チームは、オオサンショウウオの骨組織を解析した結果、コラーゲン線維の並びがそろっていないことが判明。この特徴は他の現生動物にはなく、絶滅した両生類や爬虫類の化石でしか確認されていないことから、研究グループは、「正しく“生きた化石”であることが骨組織からも証明された」とし、「古生物の適応進化を解明する上で、重要な手がかりになる」としています。
 本研究成果は、10月18日(金)に国際学術雑誌「Zoological Letters」に掲載されました。


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図1: 研究成果のまとめ(©田中 花音)


本研究のポイント


1)オオサンショウウオ類では骨組織中のコラーゲン線維の並びが揃っていないことが明らかになった。
2)この骨組織は他の現生動物では見られない、中生代の大型両生類や水棲爬虫類などと共通した特徴であった。
3)若年では不明瞭な成長線が性成熟を迎えると考えられる頃に明瞭になることから、骨組織標本から成長段階を推定できる可能性が示された。


発表内容


〈研究の概要〉
 オオサンショウウオ属は、現生の両生類の中でも非常に長寿であり、大きな体サイズをもつことが特徴です。またオオサンショウウオ科は現存する両生類の中でも古い歴史を持ち、その起源は中生代にまでさかのぼるため、化石種の生態や進化を解明する上で、非常に重要な比較対象とされています。
 しかしながら、オオサンショウウオは国の特別天然記念物に指定されているため、研究のための標本を確保することが困難です。通常は骨しか残らない化石種の生活史を探るためには、現生種の骨組織を詳細に調べる必要がありますが、オオサンショウウオでの研究例は限られていました。また同様の理由で、オオサンショウウオの成長様式や寿命に関しても未解明の部分が多く残っています。例えば保全活動において集団の年齢構成は重要な情報ですが、現在のところ野生個体の年齢を知る確かな方法はありません。
 そこで本研究では、広島市安佐動物公園の所有する日本産オオサンショウウオと、ドイツ・ケーニヒボン博物館のチュウゴクオオサンショウウオ(図2)の骨組織を解析し、成長パターンや性成熟と骨組織の特徴の関連性を明らかにすることで、絶滅した大型両生類などの古生物の生態や進化に関する新たな手がかりを発見することを目指しました。同時に、骨組織からオオサンショウウオの生態を理解するための情報がないかを調べました。
 その結果、オオサンショウウオは、大きな骨細胞を伴う特有の骨組織を持ち、骨組織中のコラーゲン線維の配向性が揃っていないことが明らかになりました(図3)。これは現生の他の動物では見られない、中生代の大型両生類や水棲爬虫類などと共通した特徴です。この結果は、オオサンショウウオがまさに生きた化石であり、古生物の適応進化を知る上で重要な存在であることを示しています。また、性成熟を迎えたと考えられる年齢の標本では、多くの両生類と同様に明瞭な成長線が確認されました(図4)。このことから、年齢が不明な骨組織標本からでも、その個体の成長段階を推定できる可能性があることも判明しました。
 今回の研究では、8個体のオオサンショウウオと2個体のチュウゴクオオサンショウウオの上腕骨と大腿骨を使用し、研磨薄片を作成して骨組織を観察しました。上腕骨と大腿骨は化石種において多く保存されており、これまで絶滅両生類や爬虫類の成長様式などの生態や生理を解明する際に最も使用されている部位です。
 また、本研究で使用したオオサンショウウオの標本のほとんどは、広島市安佐動物公園が1979年の繁殖成功から維持し続けてきた飼育下繁殖個体で、長年にわたって収集されたデータに基づいています。これにより、野外で採取された個体では困難である年齢や性成熟のタイミングと骨組織の変化の関連性を明らかにすることができました。同時に、動物園における希少種の繁殖や標本収集などの取り組みが、その種の基礎研究や生態系保全にも貢献しうることが改めて示されました。


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図2: オオサンショウウオ(左)とチュウゴクオオサンショウウオ(右)
*チュウゴクオオサンショウウオの写真は安佐動物公園で飼育されているAndrias sligoi。チュウゴクオオサンショウウオは近年の研究で4種に分けられましたが、論文中で使用した標本の種は不明であり、写真とは異なる種の可能性もあります。


〈主要な研究結果〉
 ・オオサンショウウオの骨組織は、現在の両生類にはみられないコラーゲン線維の並び方を示している。
 ・オオサンショウウオの骨組織は、絶滅した両生類や爬虫類と類似しており、古生物の生態を復元する上で重要な知見を提供する可能性がある。
 ・性成熟を迎えると思われる頃に成長線が太く明瞭に発達し、今後、オオサンショウウオの生態解明に役立つ知見となり得る。
 ・オオサンショウウオの骨組織中の骨細胞は、現生の両生類の中で最大であり、この大きな骨細胞が大きな骨格を形成するための栄養供給に寄与している可能性がある。


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図3: オオサンショウウオと他の動物との骨組織の比較 (左:オオサンショウウオ、中央:現生両生類ファイアサラマンダー、右:絶滅両生類メトポサウルス)


*それぞれの写真の左に示しているのはコラーゲン線維の配列のイメージ
オオサンショウウオの骨組織はコラーゲン線維が揃っておらず、絶滅種と類似した特徴をもつ


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図4: オオサンショウウオの成長線(左:上腕骨、右:大腿骨の断面)


性成熟を迎えたと思われる頃になると成長線が明瞭になる(赤矢印)


論文の著者リスト


ニコル・クライン(Nicole Klein)
ボン大学・シュツットガルト州立自然史博物館(ドイツ)
ドロタ・コニェツコ=マイヤー(Dorota Konietzko-Meier)
ボン大学・シュツットガルト州立自然史博物館(ドイツ)
スディプタ・カリタ(Sudipta Kalita)
ボン大学(ドイツ) *2024年3月修了、現在デイトン大学大学院(アメリカ)
野田 昌裕(のだ まさひろ)
岡山理科大学 *2021年3月卒業、現在京都大学大学院
石川 世奈(いしかわ せな)
岡山理科大学 *2023年3月卒業、現在京都大学大学院
田口 勇輝(たぐち ゆうき)
広島市安佐動物公園 *現在、オオサンショウウオ生態保全教育文化研究所
安西 航(あんざい わたる)
広島市安佐動物公園 
林 昭次(はやし しょうじ)
岡山理科大学


論文情報


〈雑誌〉Zoological Letters
〈題名〉Unique bone histology of modern giant salamanders: a study on humeri and femora of Andrias spp.
〈著者〉Nicole Klein, Dorota Konietzko-Meier, Sudipta Kalita, Masahiro Noda, Sena Ishikawa, Yuki Taguchi, Wataru Anzai and Shoji Hayashi
〈DOI〉10.1186/s40851-024-00240-1
〈掲載URL〉https://zoologicalletters.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40851-024-00240-1


注意事項


〇復元画は田中 花音が作成し、著作権を有します。
 復元画の使用の際は「©田中 花音」をつけて下さい。


問い合わせ先


〈研究に関する問い合わせ〉
・岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 准教授 林 昭次(はやし しょうじ)
shoji-hayashi@ous.ac.jp
・広島市安佐動物公園 飼育・展示課
(082-838-1111, zoo@asazoo.jp
・オオサンショウウオ生態保全教育文化研究所 所長 田口 勇輝(たぐち ゆうき)
y.taguchi.jgs@gmail.com
〈報道に関する問い合わせ〉
・岡山理科大学 企画部 企画広報課 (086-256-8508 kikaku-koho@ous.ac.jp


岡山理科大学 : https://www.ous.ac.jp/


情報提供元: @Press