研究結果の概要
図1. 現地でのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性
図2. メディアでのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性
公益財団法人 明治安田厚生事業団は、スポーツ観戦の頻度と様々な健康状態や生活習慣との長期的な関連を検討しました。この研究成果が、予防医学分野の国際学術誌「Preventive Medicine」に2024年10月20日付で早期公開されました。
<ポイント>
◎スポーツ実施が健康に良いというエビデンスは数多くありますが、スポーツ観戦の健康影響に関する研究はほとんど行われてきませんでした
◎私たちの研究では、世界で初めてスポーツ観戦の頻度と、様々な健康状態や生活習慣との長期的な関連について検討しました
◎分析の結果、現地観戦でもメディアでの観戦でも、スポーツ観戦頻度が多い人ほど、1年後のメンタルヘルスや生活習慣が良好であることがわかりました
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/417260/LL_img_417260_1.jpg
研究結果の概要
<概要>
公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所(本部:東京都新宿区、理事長:生井 俊夫)が行う明治安田ライフスタイル研究(Meiji Yasuda LifeStyle study:MYLSスタディ(R)※)*1では、スポーツ観戦の頻度と様々な健康状態や生活習慣との長期的な関連を検討しました。分析の結果、現地観戦でもテレビ等のメディアでの観戦でも、スポーツ観戦頻度が多い人ほど、1年後のメンタルヘルスや生活習慣が良好であることがわかりました。一方で、メディアでの観戦頻度が多い人ほど、高血圧や糖尿病などのリスクが高い傾向が見られました。メディアでの観戦による潜在的な健康リスクには注意が必要ですが、今回の研究から、スポーツを観ることで良好なメンタルヘルスや生活習慣が得られる可能性が示されました。
※MYLSスタディは、公益財団法人 明治安田厚生事業団の登録商標です。
<背景>
国民の約70%もの人が何らかのかたちで東京2020オリンピック・パラリンピックを観たといわれており(株式会社アイスタット調べ)、多くの人がアスリートの優れた技術や情熱に心を動かされ、スポーツ観戦に熱中しています。スポーツ観戦により爽快感を味わった、ストレス解消になった、という経験がある方も多いのではないでしょうか。
スポーツ実施が健康に好影響を与えることを検証したエビデンスは数多くあります。一方、「スポーツを観ること」の健康影響を調べたこれまでの研究は、横断研究*2や短期的な介入研究でした。そのため、“スポーツを観たから健康になった”のか、“健康だからスポーツを観ている”のかは不明であり、また観戦習慣を持つことで長期的にどのような健康影響があるのかはわかっていませんでした。そこで私たちは、スポーツ観戦の影響を包括的に理解するために、縦断的な研究デザインを用いて、スポーツ観戦の頻度と、20項目もの健康状態や生活習慣との長期的な関係性を検討しました。
<対象と方法>
本研究は2017~2019年度にMYLSスタディ(R)に参加した6,327人(勤労者4,851人を含む)を対象とした縦断研究*3です。現地あるいはメディアでのスポーツ観戦頻度は、質問票により調査しました。健康状態や生活習慣の指標として、生活習慣(食習慣、運動習慣など)、身体的健康(健康診断データ)、精神的健康(心理的ストレス、幸福感、ワーク・エンゲイジメント*4)など計20項目を調査しました。スポーツ観戦頻度と、健康状態や生活習慣の関連性を分析する際は、追跡を開始する1年前の年齢、性、配偶者の有無、世帯構成、教育歴、暮らし向き、職業、服薬状況、スポーツ観戦頻度、健康状態や生活習慣の影響を統計学的に調整しました。
<結果>
分析の結果、現地でのスポーツ観戦頻度が多い人ほど、1年後に心理的高ストレス状態や脂質異常症になるリスクが低く、生活習慣の改善に対して無関心になるリスクが低いことが明らかになりました(図1)。
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/417260/LL_img_417260_2.jpg
図1. 現地でのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性
また、メディアでのスポーツ観戦頻度が多い人ほど、1年後に身体活動不足や朝食欠食になるリスクが低く、幸福感が高いことが分かった一方で、高血圧や糖尿病、高BMIとなるリスクは高い可能性が示されました(図2)。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/417260/LL_img_417260_3.jpg
図2. メディアでのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性
また、勤労者では、現地やメディアでスポーツ観戦をしている人はしていない人と比較して、1年後のワーク・エンゲイジメントが高いことが分かりました。
<著者のコメント>
本研究では、世界で初めてスポーツ観戦の頻度と20項目もの健康状態や生活習慣との縦断的な関連を検討しました。その結果、現地観戦でもメディアでの観戦でも、スポーツを観ることで良好なメンタルヘルスや生活習慣が得られる可能性が示されました。一方で、メディアでの観戦には肥満や生活習慣病のリスクが潜んでいる可能性も示唆されました。
今回の結果から、スポーツを観て心が動かされたり、爽快感を味わったりすることが、メンタルヘルスに好影響を与える可能性が見出されました。さらに、スポーツ観戦が「自分も身体を動かそう」などという動機付けにつながり、健康への意識が高まった結果、生活習慣が整った可能性も推察されます。一方、メディアでのスポーツ観戦頻度が多い人の健康リスクが見出された点については、座ったままで飲食をしながらのスポーツ観戦、いわゆる「カウチポテト」の影響もあるかもしれません。今後はどのようなスポーツ観戦が、なぜ心身の健康に影響を与えるのかについて、より多角的に研究を継続していく予定です。
<発表論文>
掲載誌 : Preventive Medicine
論文タイトル: Association of watching sports games with subsequent
health and well-being among adults in Japan:
an outcome-wide longitudinal approach
著者 : Ryoko Kawakami*, Naruki Kitano*, Yuya Fujii,
Takashi Jindo, Yuko Kai, Takashi Arao(*共同筆頭著者)
DOI番号 : https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2024.108154
<用語解説>
1. 明治安田ライフスタイル研究:明治安田新宿健診センターを拠点として、運動や座りすぎを中心とした生活習慣が健康にあたえる影響の解明を目的に行われるコホート研究。
2. 横断研究:ある時点での生活習慣やその他の要因と、疾病などの健康状態を同時に調査する研究手法。原因と結果が逆転する可能性があり、因果関係の特定は困難。
3. 縦断研究:生活習慣などの潜在的な原因を調査した後で、その結果としての疾病などの健康状態を時間をかけて追跡調査し、因果関係を推定する研究手法。
4. ワーク・エンゲイジメント:仕事への活力や熱意など、仕事に対するポジティブな感情(心理状態)を指す。
<利益相反>
著者には開示すべき利益相反はありません。
<財源情報>
本研究はJSPS科研費(JP17K13238、JP19K11569、JP20K19701)の助成を受けて行われました。記して深謝します。
情報提供元: @Press