図1. AIを活用して液状化リスクに備えた災害レジリエンスの高いスマートシティを実現


図2. 支持層の深度分布を示す3次元マップの作成例

芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・稲積真哉教授(地盤工学研究室)は、人工ニューラルネットワーク(ANN)※1やバギング法(ブートストラップ集計)※2を組み合わせたAI技術を活用した機械学習モデルによる地盤強度予測システムを開発しました。これにより、地盤の安定性や地震時の液状化のリスクを示す重要な指標である支持層※3の深さの予測精度が従来から20%向上しました。
日本のような地震が多発する地域における都市開発では、地盤の安定性を正確に予測し、地震発生時の液状化リスクを軽減することが重要となります。本研究ではAI技術を活用した機械学習モデルに、東京都世田谷区内433地点の地盤データを組み合わせ、従来よりも正確な支持層の分布を示す3次元マップの作成に成功しました。これにより、安定した建設現場を特定し、液状化リスクに備えた災害レジリエンスの高い都市開発が可能となります。
※この研究成果は、2024年10月8日付の「Smart Cities」誌に掲載されています。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/416493/LL_img_416493_1.png
図1. AIを活用して液状化リスクに備えた災害レジリエンスの高いスマートシティを実現

【ポイント】
●人工ニューラルネットワーク(ANN)やバギング法を組み合わせた機械学習モデルを開発
●地盤の安定性や地震時の液状化のリスクの指標となる支持層の深さを予測する精度が従来から20%向上
●予測精度を高めることで、災害レジリエンスの高いスマートシティの実現が可能


■研究の背景
液状化現象は地震発生時におけるインフラ被害の要因の一つといえ、2011年の東北地方太平洋沖地震では1,000戸、2024年の能登地震では6,700戸の家屋が被害を受けました。液状化の影響に強い都市を構築するには、土壌の状態を正確に評価することが必須ですが、従来の手動の土質試験法ではすべての土地を均一に評価することは困難でした。そこで、地質データを用いて土層の詳細な3Dマップを作成することで、地震時に土壌がどのように反応するかを予測するシステムを開発しました。そして今回、その予測精度の向上を目指し、AI技術を取り入れた機械学習モデルの開発に着手しました。


■研究の概要
標準貫入試験※4とミニラムサウンディング試験※5という、土の密度と基礎の必要条件を評価する2つの方法を用いて、東京都世田谷区内の433地点の地盤データを収集。これに緯経度や標高などの地理的データを組み合わせ、支持層の厚さと深度を予測します。集計したデータは、10箇所の支持層深度を予測する人工ニューラルネットワーク(ANN)に学習させ、実際の現場測定値と照らし合わせることで予測精度を評価しました。さらに、上記手法にバギング法を適用することで、予測精度が従来よりも20%向上しました。
この予測値を基に、世田谷区内の4カ所を中心に半径1km以内の支持層の分布を示す3次元マップを作成。このマップは、地盤の安定した土地を特定するための視覚的補助として機能し、液状化のリスクが高い地域をピンポイントで特定できるため、より適切なリスク評価が可能となります。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/416493/LL_img_416493_2.jpg
図2. 支持層の深度分布を示す3次元マップの作成例

■今後の展望
本研究のように、高精度の予測手法を確立することは、地盤工学における機械学習の大きな可能性を示すものといえます。このような予測モデルの改善を続け、先進的なAIモデルを地盤解析に組み込むことで、安全かつ効率的なインフラ計画が促進され、災害レジリエンスの高いスマートシティの実現が可能となります。今後は、地下水の影響を考慮して地盤条件を追加するほか、沿岸部と非沿岸部に特化したモデルを開発したりするなど、更なる精度向上を目指します。


■語句解説
※1 人工ニューラルネットワーク(ANN)
人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)の動作を模したコンピューティングシステム。機械学習の一種で、多層構造を持ち複雑なパターン認識に優れている。
※2 バギング法(ブートストラップ集計)
複数のモデルからの予測結果を組み合わせて、より精度の高い結果を得る「アンサンブル学習法」のうちの1つ。モデルを並列に組み合わせて、多数決をとる手法。
※3 支持層
構造物が不均一に沈下する(不同沈下)などの有害な変形が起きず、構造物を支えることに適した地盤。
※4 標準貫入試験
地盤を打撃することで、その強度を調べる試験。ボーリング調査の一種で、地盤の硬さ・軟らかさのほか、試料の採取、地盤の締まり具合などが判断できる。所定の試験深度まで試験孔を掘削し、63.5kgのハンマー(打撃装置)を760mmの高さから自由落下させ、サンプラーを試験孔底から150mm貫入させる。予備打ち後、再度、ハンマーを760mmの高さから自由落下させ、サンプラーを貫入させ、300mmの貫入に必要な打撃回数から地盤の強さを表す値(N値)を求める。
※5 ミニラムサウンディング試験
土中に金属棒を差し込み、その抵抗力を測定する動的貫入試験。重さ30kgのハンマーを35cmの高さから自動落下させ、直径36.6mmのコーンを地中に打ち込み、20cm貫入した時の打撃回数(Nmd値)とロッドを回転させるために必要なトルク(Mv)からN値を求める。


■論文情報
著者 :芝浦工業大学大学院理工学研究科 博士後期課程 Yuxin Cong
芝浦工業大学大学院理工学研究科 教授稲積 真哉
論文名:Building Safer Cities With AI: Machine Learning Model Enhances Urban Resilience Against Liquefaction
掲載誌:Smart Cities
DOI :10.3390/smartcities7050113


■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
情報提供元: @Press