図1:強直性脊椎炎の脊椎レントゲン写真


図2:脊椎関節炎の病態


図3:本治療用ペプチドワクチンの仕組み


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研究成果のポイント


◆強直性脊椎炎に代表される体軸性脊椎関節炎患者を対象に、インターロイキン(IL)-17A※1を標的とした治療ワクチン(FPP003)の医師主導治験(第2相試験)を開始
◆希少難病である強直性脊椎炎に対するペプチド治療ワクチン※2の橋渡し研究を2018年より開始
◆体軸性脊椎関節炎の新規治療選択肢となることが期待される


【概要】


大阪大学大学院医学系研究科の中神啓徳 寄附講座教授(健康発達医学)、公益財団法人日本生命済生会日本生命病院の辻成佳部長(リハビリテーション科)、森ノ宮医療大学大学院の冨田哲也教授(保健医療学)らの研究グループが開発したIL-17Aを標的としたペプチド治療ワクチン(FPP003)の医師主導治験を8月18日より開始しました(PMDAに治験届を提出)。
研究グループは、IL-17Aを標的としたペプチド治療ワクチン(FPP003)の開発を行ってきました。(2023年3月にプレスリリース:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230313_1)今回の医師主導治験は、2022年4月から実施した健常人を対象とした第1相試験の結果を受けて開始されるものです(第2相試験)。


希少難病である強直性脊椎炎は、病変部位では靭帯と骨との付着部位に炎症・骨化が起こり(図1)、疼痛、運動制限等がみられ、重症例では、体軸関節の強直をきたして日常生活能力の著しい低下をもたらします。FPP003は幅広い炎症性疾患に関与するタンパク質IL-17Aに対する抗体を誘導するペプチド治療ワクチンであり、強直性脊椎炎に代表される体軸性脊椎関節炎の新規治療選択肢となることが期待されます。
本治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「難治性疾患実用化研究事業」の研究開発課題「脊椎関節炎を標的としたIL-17Aワクチン(FPP003)の臨床応用」の支援の下、実施されます。
また、本治験で使用される治験薬は、同研究開発課題に研究分担機関として参加している株式会社ファンペップが提供します。


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図1:強直性脊椎炎の脊椎レントゲン写真


【研究の背景】


・強直性脊椎炎について
仙腸関節炎や脊椎炎による腰背部痛や臀部痛が初発症状となることが多いことが知られており、疼痛が運動により軽快し、安静や就寝により増悪する炎症性腰背部痛が特徴です。アキレス腱の付着部である踵部を始め、身体各所の靱帯付着部(関節周辺の骨性突出部など)の炎症徴候(疼痛、腫脹)がしばしば見られ、時に股、膝、肩など四肢の大関節の疼痛や運動制限も生じます。IL-17Aは、関節炎に特徴的な付着部炎において重要な役割を果たしていると考えられています(図2)。抗IL-17A抗体医薬品は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬に対し治療効果が認められており、本邦でも強直性脊椎炎、X線所見を伴わない体軸性脊椎関節炎に対しても複数の製剤が承認されています。


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図2:脊椎関節炎の病態


【研究の内容】


・ペプチド治療ワクチン(FPP003)について
FPP003は、IL-17Aに対する抗体を誘導するペプチド治療ワクチン(抗体誘導ペプチド)です。キャリアペプチドAJP001は自然免疫活性化作用とキャリアとしての機能を併せ持つ20アミノ酸からなる機能性ペプチドです。AJP001とB細胞エピトープを結合させた抗体誘導ペプチドは、樹状細胞に取り込まれて自然免疫活性化作用により樹状細胞を活性化し共刺激分子を発現させます。また、AJP001自身がヘルパーT細胞エピトープとしてヘルパーT細胞に提示され、ヘルパーT細胞を活性化します。AJP001とB細胞エピトープを結合させた抗体誘導ペプチドを取り込んだB細胞はAJP001を提示し、これを認識した活性化T細胞がB細胞を活性化し抗体産生を誘導します 。


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図3:本治療用ペプチドワクチンの仕組み


・第1相試験の結果概要
第1相試験には健康成人20名が参加し、FPP003が16例 [低用量群(8例)、高用量群(8例)] に、プラセボが4例に二重盲検下で投与されました。FPP003の副作用は、主に注射部位疼痛などの注射部位に関連したものが確認されましたが、通常のワクチンの皮下接種時にも見られるものでした。FPP003の投与により低用量群と高用量群ともにIL-17Aに対する抗体価の上昇が確認され、最終投与後12週時まで持続する傾向を示しました。FPP003の投与による安全性が確認され、また十分な免疫原性を有することが考えられました。
・医師主導治験(第2相試験の概要)
研究区分:医師主導治験
研究課題名:体軸性脊椎関節炎患者に対するFPP003の安全性および免疫原性を評価する非盲検非対照試験(第IIa相試験)
目的:寛解状態にある体軸性脊椎関節炎患者に対するFPP003の安全性および免疫原性を評価する。また有効性評価項目を探索的に検討する。
研究デザイン:単施設、非盲検非対照
フェーズ:第IIa相
目標症例数:6症例


【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】


本研究成果により、ペプチドワクチンFPP003が希少難病である強直性脊椎炎に代表される脊椎関節炎の治療選択肢となることを期待しております。


【用語解説】


※1 インターロイキン(IL)-17A
IL-17Aは、炎症性サイトカインの1つであり、脊椎関節炎の病態形成に関与していると報告されており、この炎症性サイトカインIL-17Aのはたらきを抑える治療法が確立され、抗体医薬品が販売されております。
※2 ペプチド治療ワクチン
感染症ワクチンは、ウイルス全体や標的タンパク質(mRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン、組換えタンパク質及び不活性化ワクチン等)を抗原として用いて免疫を誘導するのに対し、ペプチドワクチンは、標的となるタンパク質のペプチド配列(エピトープ)を選択し、その部分に対する免疫を誘導するのが特徴です。また、標的を生体内の病気の原因となるタンパク質とすることで治療を目的とすることからペプチド治療ワクチンと記載しております。


【研究者コメント】


・大阪大学大学院医学系研究科 中神啓徳 寄附講座教授
ワクチンを感染症・がん以外の疾患治療へと応用し・実用化する新しい取り組みの一つとして、整形外科領域の先生との共同研究を実施し、希少難病である強直性脊椎炎を含む体軸性脊椎炎を標的疾患とした治験を進めることになりました。
中神啓徳寄附講座教授 研究者総覧URL  研究者総覧 - 大阪大学(https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0550ecffa3d531c9.html


・森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科 冨田哲也 教授
我々はIL-17Aを標的としたペプチド治療ワクチン(FPP003)の医師主導治験を開始します。今回の医師主導治験は、2022年4月から実施した健常人を対象とした第1相試験の結果を受けて開始されるものです。
希少難病である強直性脊椎炎は、腰椎などの体軸関節で靭帯と骨との付着部位に炎症・骨化が起こり、疼痛、運動制限等がみられ、重症例では、体軸関節の強直をきたして日常生活能力の著しい低下をもたらします。FPP003は幅広い炎症性疾患に関与するタンパク質IL-17Aに対する抗体を誘導するペプチド治療ワクチンであり、強直性脊椎炎に代表される体軸性脊椎関節炎の新規治療選択肢となることが期待されます。
冨田哲也教授 教員データベース(https://ken.morinomiya-u.ac.jp/mumhp/KgApp?kyoinId=ymiogygmggy


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【特記事項】


ファンペップは、2013年に大阪大学大学院医学系研究科の機能性ペプチドに関する研究成果を実用化する目的で設立された創薬系ベンチャーです。機能性ペプチド「AJP001」を強みとして展開する抗体誘導ペプチドプロジェクト(ペプチド治療ワクチン)と皮膚潰瘍治療薬「SR-0379」を中心に研究開発を進めており、患者様のQOL向上へ貢献する医薬品を開発することにより社会に貢献することを目指しております。


【SDGs目標】


3:すべての人に健康と福祉を/8:働きがいも経済成長も/9:産業と技術革新の基盤をつくろう




森ノ宮医療大学は、多岐にわたる医療系専門職養成学科を擁する関西最大級の医療系総合大学です。各学部・各学科・専攻科・大学院はそれぞれ高度な医学教育・研究を展開しており、また専門領域の垣根を超えた横断的医療教育プログラムにより魅力的な多職種連携チーム医療教育を実践していきます。
■看護学部:看護学科
■総合リハビリテーション学部:理学療法学科、作業療法学科、言語聴覚学科(2024年4月開設)
■医療技術学部:臨床検査学科、臨床工学科、診療放射線学科、鍼灸学科
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