2. 研究方法について 院外呼吸器原性心停止に関わる情報は、総務省消防庁が電子データとして収集している救急蘇生統計(ウツタイン様式データ(※2))を利用しました。これは日本が世界に先駆けて国単位で2005年から情報収集を開始したもので、心肺機能が停止した症例がすべて登録されています。このデータが総務省消防庁から日本循環器学会に提供され、同学会の蘇生科学検討会が管理したものをJapanese Circulation Society with Resuscitation Science Study (JCS-ReSS) groupが活用しています。この研究では、院外心停止の中でも呼吸器系疾患が原因となる呼吸器原性心停止を選び出し、かつ発生した時点が明確になる一般人の目撃下で起こった症例(市民目撃例)に限定して分析しました。 匿名化処置が施された院外呼吸器原性心停止データには、発生場所に関する情報が都道府県単位までしかありません。そこで我々は都道府県庁所在地にある一般環境大気測定局で測定されたPM2.5濃度データを、PM2.5濃度の代表値として各都道府県の症例に割り当てました。本研究ではPM2.5の標準測定法と等しい値が得られると認定された「自動測定機」による測定が行われるようになった2011年4月から、総務省消防庁が提供された2016年12月までのデータを用いました。 統計分析には、年齢や性別といった短期間で変わることがない個人の特性に関わる要因の影響を無視できる研究デザインを用いた上で、日によって条件が変わる気象要因(気温、湿度)などを統計モデルの中で調整しました。そして47都道府県単位でPM2.5と院外呼吸器原性心停止との関連性を検討した後、その結果をメタ解析という方法で統合し日本全国におけるPM2.5の院外呼吸器原性心停止への影響を見積もりました。我々はPM2.5による曝露が院外心原性心停止発生と関係することは2020年に発表いたしましたが、同時期のデータを用いてPM2.5の影響によって発生する院外心原性と呼吸器原性心停止に違いがあるのかもあわせて検討しました。
3. 主な研究結果について 本研究では研究期間中に市民目撃があった院外呼吸器原性心停止として登録された21,383例を分析しました。全症例の平均年齢は80.6歳で、75歳以上が77.6%、男性が51.0%、また救急隊到着時に電気ショックが有効ではない心臓リズム(心静止や無脈性電気活動(※3))を示していた症例が95.6%を占めていました。 今回利用した47都道府県内47測定局で測定されたPM2.5の1日平均濃度を平均すると13.9μg/m3でした。都道府県単位で濃度を確認していくと、これまでの報告通り東日本よりも西日本の方で濃度が高くなる傾向がありました。 院外呼吸器原性心停止発生の前日から当日にかけてのPM2.5について、その関連性を分析したところ、PM2.5濃度が10μg/m3上昇すると院外呼吸器原性心停止が2.5%(95%信頼区間0.0~5.1%)増えるという結果でした。特に75歳以上、男性、そして寒い時期(11月~4月)と統計学的有意に関連していました。 今回の結果について、2020年に我々の研究グループが検討し、医学分野の学術誌「JAMA Network Open 2020;3(4):e203043 (doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.3043)」で発表しましたPM2.5と院外心原性心停止のデータと比較してみました。2011年4月から2016年12月までの全く同時期のデータで、院外心原性心停止として登録された症例は103,189例でした(院外心停止は呼吸器原性よりも心原性が多いことがわかります)。院外心原性心停止症例の平均年齢は75歳、75歳以上が61.2%、男性が60.9%、また救急隊到着時に電気ショックが有効ではない心臓リズム(心静止や無脈性電気活動(※3))を示していた症例が77.6%を占めていました(下表)。
7. 発表論文 【タイトル】 Fine particulate matter and out-of-hospital cardiac arrest of respiratory origin
【著者】 Sunao Kojima, Takehiro Michikawa, Kunihiko Matsui, Hisao Ogawa, Shin Yamazaki, Hiroshi Nitta, Akinori Takami, Kayo Ueda, Yoshio Tahara, Naohiro Yonemoto, Hiroshi Nonogi, Ken Nagao, Takanori Ikeda, Yoshio Kobayashi for the Japanese Circulation Society with Resuscitation Science Study (JCS-ReSS) Group