研究成果のイメージ


研究結果

■ポイント

◎勤労者の活動量を実測して24時間の行動とメンタルヘルス(心理的ストレスと仕事への活力)の関連性を解明

◎休日ではなく、平日の過ごし方(時間の使い方)が勤労者のメンタルヘルスにとって重要

◎具体的には、統計学的予測*により、主に職場での座位行動や低強度身体活動*の時間を1日当たり60分減らして、睡眠に充てると、メンタルヘルスが不良になることが11-26%程度低くなる可能性が示された



画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/232230/LL_img_232230_1.png

研究成果のイメージ



■概要

従業員の健康づくりのために働き方改革や健康経営(R)※といった取組みが普及しつつありますが、1日をどのように過ごすとイキイキと働くことができるのでしょうか。公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所(本部:東京都新宿区、理事長:中熊 一仁)が行う明治安田ライフスタイル研究*(Meiji Yasuda Lifestyle Study:MYLSスタディ(R)※)では、勤労者の1日の座っている時間(座位行動)や体を動かしている時間(身体活動)を活動量計を使用して実測し、これらの活動や睡眠時間と心理的ストレスや仕事への活力との関連について検討しました。

その結果、統計学的予測により、日常生活での座位行動や低強度身体活動の時間を1日当たり60分減らして、睡眠に充てると、メンタルヘルスが不良になることが11-26%程度低くなる可能性が示されました。勤労者のメンタルヘルスを管理するうえで、残業時間や余暇での座っている時間(例:TV視聴やスマホ利用など)を見直し、睡眠を確保することが大切と思われます。



本研究の成果は、予防医学分野の国際学術雑誌Preventive Medicine Reportsに 2020年10月8日付で公開されました。



※ 健康経営は、特定非営利法人健康経営研究会の登録商標です。

※ MYLSスタディは、公益財団法人 明治安田厚生事業団の登録商標です。





■背景

勤労者は長時間労働や職場での人間関係などにより心理的ストレスを抱えやすいため、働き世代のメンタルヘルスを良好に保つための戦略を開発することが求められています。私たちの1日の行動は睡眠、座位行動(例:TV視聴や読書など)、身体活動から構成され、これらのすべての行動がメンタルヘルスに影響を与えることが、これまでの研究からわかっています。一方で、1日は24時間と決まっているため、ある行動時間(例:睡眠)を増やすには、別のある行動時間(例:座位行動や身体活動)を同じ時間だけ減らす必要があります。

従来の研究では、1日の行動時間のこうした特性(相互依存性)が十分に考慮されておらず、1日を通じてどのように過ごすと良好なメンタルヘルスを保つことができるのかについての現実的な方法はわかっていませんでした。そこで、本研究では勤労者を対象に、1日の睡眠、座位行動、及び身体活動とメンタルヘルスの横断的な関連性について、新しい統計手法を用いて相互依存性に適切に対応した解析を行いました。





■対象と方法

2017-18年にMYLSスタディに参加した勤労者1,095名を分析対象としました。研究参加者は腰に活動量計*を装着し、普段の生活における1日当たりの身体活動量や座位行動時間を測定しました。日常の睡眠時間は調査票により評価しました。メンタルヘルスの指標としては、心理的ストレス(K6調査票)とワーク・エンゲイジメント*(WE;UWES-9の活力に関する項目)を評価しました。そして、K6調査票の合計得点が5点以上の場合を「心理的ストレスあり」、WEに関する項目の得点が集団の中央値以下の場合を「仕事への活力が低い」と判断しました。

組成データ解析と呼ばれる統計手法により1日の行動時間が持つ相互依存性を考慮するとともに、年齢、性、BMI、配偶者の有無、教育年数、暮らし向き、喫煙・飲酒習慣、職種、雇用形態、残業時間との関係を統計学的に調整したうえで分析しました。





■結果

分析の結果、メンタルヘルスと関連したのは平日における睡眠、座位行動、身体活動のバランスでした。具体的には、不良なメンタルヘルスと関連したのは、睡眠時間が短いこと、座位行動や低強度身体活動の時間が長いことでした。また、この結果を基に、これらの行動を変化させた場合のメンタルヘルスへの影響について統計的な予測を行った結果、座位行動や低強度身体活動を1日当たり60分減らし、その分を睡眠に充てると、メンタルヘルスが不良であることが11-26%程度低くなる可能性が示唆されました(下図)。なお、ここでの座位行動や低強度身体活動は職場でのものが大部分を占めていることから、本結果におけるこれらの行動は仕事に伴う行動を意味しているものと思われます。

一方、運動・スポーツなどの中高強度の身体活動の時間とメンタルヘルスの間には有意な関連はありませんでした。また、休日についても、メンタルヘルスとこれらの行動との明らかな関連はありませんでした。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/232230/LL_img_232230_2.png

研究結果





■著者のコメント

本研究では、日本で初めて“行動の相互依存性”を考慮したうえで、勤労者の24時間の行動とメンタルヘルスの関連性を調べました。その結果、勤労者のメンタルヘルスの管理には、平日に適切な睡眠時間を確保することの重要性が再確認されました。海外の研究では、座位行動を減らして運動(身体活動)を増やすことが良好なメンタルヘルスと関連すると報告されています。しかし、世界的に睡眠時間が短い者が多い日本*では、行動変容の優先度は睡眠が高いものと考えられます。企業経営者は長時間労働(残業)を、従業員は日常生活での座位行動(例:職場での座業、余暇時のTV視聴やPC利用など)をそれぞれ見直し、睡眠時間を充分確保するといった取組みが必要と考えられます。

なお、本研究の結果は、「1日の行動時間とメンタルヘルス」の因果関係を示すものではありません。また、対象者が首都圏のホワイトカラー勤労者であり、通勤などによる活動量が多い集団でした。したがって、本研究で得られた結果が活動量の少ない人や他の職種の人に当てはまるかについては、更なる検討が必要です。(筆頭著者:明治安田厚生事業団 体力医学研究所 北濃 成樹 研究員)





■発表論文

掲載誌 : Preventive Medicine Reports

論文タイトル: Compositional Data Analysis of 24-hour Movement Behaviors and Mental Health in Workers

著者 : Naruki Kitano, Yuko Kai, Takashi Jindo, Kenji Tsunoda, Takashi Arao

DOI番号 : https://doi.org/10.1016/j.pmedr.2020.101213





■用語解説

* 統計学的な予測:集団の1日当たりの平均睡眠時間を60分増やして、別の行動を60分減らした場合に、メンタルヘルスが不良である可能性がどのように変化するかを予測しています。したがって、個人がある行動の一部を別の行動に変更した際に、本結果と同じ結果が得られるとは必ずしも限りません。



* 低強度身体活動:1.6-2.9METsまでの強度の身体活動。ゆっくり歩行や家事などが含まれます。



* 明治安田ライフスタイル研究:明治安田新宿健診センターを拠点として、運動や座りすぎを中心とした生活習慣が健康にあたえる影響の解明を目的に行われている縦断(コホート)研究。



* 活動量計:3軸加速度計センサーを搭載し、日々の身体活動や座位行動を詳細に評価することができる機器。



* ワーク・エンゲイジメント:仕事に対するポジティブで充実した心理状態。仕事への活力、熱意、没頭度などから構成。



* Organization for Economic Co-operation and Development (OECD). Special focus: measuring leisure in OECD countries 19. https://www.oecd.org/berlin/42675407.pdf (2009).





■利益相反

著者には開示すべき利益相反はありません。





■財源情報

本研究はJSPS科研費JP17K13238とJP19K11569の助成を受けて行われました。記して深謝します。

情報提供元: @Press