日本甲状腺学会の「甲状腺微小乳頭癌取扱いのポジション・ペーパー作成」委員会(委員長:杉谷 巌(日本医科大学))は、甲状腺乳頭がんの過剰診断・過剰治療という課題解決のひとつの方法として、日本から提唱され、世界的にも受容されつつある微小乳頭がんの非手術経過観察という新しい取扱い方法について、広く現状を示し、啓発を図ることを目指し、システマティックレビューを行ってきました。このたび、その成果を「成人の甲状腺超低リスク乳頭がんの非手術経過観察についての見解」として発表しましたので、お知らせします。





【見解の要約】

最近、画像検査の精度の向上と頸部の検査を受ける機会が増加したことにより、小さな乳頭がんが偶然発見されることが増えています。腫瘍の大きさが1cm以下で、明らかな転移や浸潤を認めない乳頭がんを「超低リスク乳頭がん」と呼び、手術によって治療した後の生存率はきわめて良好です。しかし、熟練した甲状腺外科医が手術しても手術合併症がまれに認められます。

一方、超低リスク乳頭がんに対して非手術経過観察(診断時にすぐに手術を行わずに定期的に超音波検査で経過観察する方法)を行った報告によると、大多数の腫瘍はほとんど進行せず、少し進行したとしてもその時点で手術を行えば、その後の再発や生命への悪影響はないことが示されています。この方法は、手術合併症を回避できるため身体的な生活の質が優れる可能性があること、また、10年間の医療費が手術より安いことも報告されており、超低リスク乳頭がんの非手術経過観察は、安全で妥当な診療方針であるといえます。

ただし、非手術経過観察を行うにあたっては、いくつかの注意事項があります。



1) 腫瘍の大きさが1cm以下の乳頭がんがすべて非手術経過観察の適応となるわけではありません。転移や浸潤が明らかな場合はすぐに手術が必要です。

2) 非手術経過観察は経験豊富な医師や超音波検査技師が、腫瘍やリンパ節の状態の変化を正確に把握することができる体制の下で行われなければなりません。

3) 非手術経過観察は原則として生涯にわたり継続する必要があります。



超低リスク乳頭がんの治療方針の決定は、医師とよく相談して、それぞれの方法の利点と欠点を十分に理解し、ご自分に合った治療方針を選択することが重要です。

より詳細な解説は、 http://www.japanthyroid.jp の新着情報をご参照下さい。

情報提供元: @Press