マイクロ流体デバイスの概要


動的再構成可能マイクロ流路の完成イメージ


実証実験用プロトタイプマイクロ流体デバイス


培養面積徐変による長期培養細胞の方法

芝浦工業大学(東京都港区/学長 村上雅人)機械工学科の二井信行准教授らは、細胞培養をする際、培養空間を複数の可動式ピンで構成することにより、細胞をある一定の位置に留めつつ、培養環境を制御できる、新しい可動式マイクロ流体デバイスを開発しました。これにより、細胞の位置を動かす、培養空間を自由に広げる、逆に狭めて細胞に圧力をかけるなど、従来は行えなかった分析が可能となります。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/129363/LL_img_129363_1.jpg

マイクロ流体デバイスの概要





細胞に圧力をかけるなどの操作は、機器がオーダーメイドで敷居が高く、行程ごとの取扱いが煩雑なものであったため、二井准教授らはかねてより1つの器具でさまざまな種類の培養・分析が行え、持ち運びができる細胞デバイスの研究をしていました。そこでこの度、細胞の流路を可動式のピンの複合体で作成することで、一つの器具に機能を集約することを可能にしました。細胞の増殖状況に合わせた流路幅の拡張だけでなく、幅を狭めて細胞に圧力をかけた際の変化が観測できるようになるなど、細胞に対する新たな実験が可能となります。

また、作業をより簡略化し扱いやすくすることで、今後細胞の可能性を探る研究、教育が進むことが期待されます。





【ポイント】

(1) 可動式ピンの配置を変えることで流路をさまざまな形に変更でき、

1デバイスで複数工程が扱えるなど、

従来のマイクロ流体デバイスにはない汎用性がある

(2) 従来の器具では難しかった、圧力や流れを変えた際の、

細胞のふるまいを探ることが可能である

(3) 細胞は流れや圧力によって育ち方が違うため、

可動式流路で生体内を再現した研究を進めることで、

再生医療の研究に貢献できる





【背景】

細胞培養技術は1970年代までにほぼ確立したといわれていますが、現在までその当時の培養方法が踏襲され、工学的な意味での最適化が進んでいませんでした。そこで、二井准教授らは細胞培養をより簡易に行うためのデバイスの開発に取り組み、工学的に細胞を取り扱う技術の研究を進めてきました。



今までは実験対象や工程に合わせた器具の設計が必要でしたが、本デバイスは、ピンを動かすことで細胞を閉じ込める、細胞の位置を動かす、個別に培養した複数種の細胞を共培養へ移行する、培養スペースを狭めて圧力をかけるなど、従来の器具では実施できなかった実験を複数工程同時かつ臨機応変に行えるため、今まで知られていなかった細胞の挙動の研究が進むことが期待されます。加えて、扱いが簡易なため、屋外にデバイスを持ち出して例えばPM2.5による細胞の反応観測といった環境計測、高校等での細胞培養実験といった教育分野での活用も望めます。



なお今回、本研究を論文発表したところ、可動式マイクロ流体デバイスの有用性が認められ、米国物理学協会(AIP)による定評ある国際誌「Biomicrofluidics(バイオ系ミクロ流体)」に論文が掲載されました。





【今後の展開】

ガスや粒子などを流路に導入することができ、また、腸のぜん動運動など、生体内の動きに近い環境を構築することもできるため、例えば医療ガスや腸内環境の研究に繋げていくなど、新たなマイクロ流体デバイスの可能性を探っていきます。





【参考】

論文情報 : M. Oono, K. Yamaguchi, A. Rasyid, A. Takano, M. Tanaka, N. Futai,

"Reconfigurable Microfluidic Device with Discretized Sidewall,"

Biomicrofluidics, vol. 11, 034103, May 2017.

論文リンク : http://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.4983148

研究室サイト: http://www.cd.mech.shibaura-it.ac.jp/

情報提供元: @Press