(図1)「わすれなびと」運用の仕組

1.発表概要:

東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)神経内科 辻省次教授、岩田淳講師、エーザイ株式会社(以下、エーザイ)、株式会社ココカラファイン(以下、ココカラファイン)は、クラウド環境を活用し、認知症・軽度認知障害の患者さんとそのご家族に向けたICTコミュニケーションツール「わすれなびと」のパイロットスタディ(注1)を開始します。「わすれなびと」はエーザイ、ココカラファイン監修のもと、株式会社インターネットイニシアティブの協力を得て医療情報向けクラウドサービス(注2)上に電子@連絡帳(注3)をベースにして東大病院が開発した、認知症患者さん向けのICTによるコミュニケーション環境です。本パイロットスタディに参加登録いただいた患者さんとそのご家族にはタブレット型端末が貸与され、「わすれなびと」がインターネットを通じて提供する以下の機能をご自身の希望に応じて利用していただきます。

1)東大病院で実施された画像診断・認知機能検査・血液検査などの結果を、病院の外でも閲覧でき、過去のデータと比較することができます。

2)東大病院の主治医や薬剤師にメッセージを送ることにより、外来時間外でも対話できます。

3)ご自宅にココカラファイングループの薬剤師が訪問し、服薬を支援します。

4)タブレット型端末を起動した際に一定の頻度で表示されるアンケートに答えることで、日常の様子をより鮮明に記録でき、次回の外来診療の質の向上に役立てることができます。

このような機能により、患者さんやそのご家族は勿論のこと、主治医、薬剤師、並びに医療・介護施設のスタッフが、患者さんの認知症・軽度認知障害の進展や体調をより正確に把握し、関係者間のコミュニケーションの広がりから、治療や介護等の課題をより早期に解決することが期待されます。

「わすれなびと」の有効性は、パイロットスタディ終了時に参加者の意見を収集することなどによって評価されます。「わすれなびと」はひとりひとりの患者さんに最適な治療とケアを提供する個別化医療の実現を目指していきます。





2.発表者:辻省次(東京大学医学部附属病院 神経内科 教授)

      岩田淳(東京大学医学部附属病院 神経内科 講師)





3.発表のポイント:

◆クラウド環境を活用し、認知症・軽度認知障害の患者さんとそのご家族を対象としたICTコミュニケーションツール「わすれなびと」の予備的臨床研究となるパイロットスタディを開始します。

◆「わすれなびと」の登録者は、タブレット型端末を用いて東京大学医学部附属病院での検査結果を閲覧できるほか、外来受診時間外も主治医と対話でき、薬剤師による服薬支援や、次回の診療に向けた準備アンケートを活用できます。

◆「わすれなびと」は、ひとりひとりの患者さんに最適の治療とケアを提供する個別化医療の実現を目指すICTコミュニケーションツールとして進化していきます。





4.発表内容:

日本における認知症の人の数は、現状で462万人と推定されていますが、団塊の世代の高齢化に伴い、2030年までにその1.5倍まで増加する事が想定されています(2013年6月1日厚生労働省研究班発表)。認知症は脳機能の低下が原因で生じますが、ご本人の社会的、地域的な背景やご家族との関係などのさまざまな要素が複雑に関係して発症することから、個々人ごとに対応を調整することが重要な疾患群といえます。このため、認知症の診療を行う医師にとって、ご本人やそのご家族の日常を可能な限り正確に把握することは非常に重要です。一方、認知症のご本人やご家族には、認知症の病態変化を客観的に理解したいというニーズや、日々生じる介護上の問題点についてリアルタイムに専門家の意見を聞いて解決に結びつけたいというニーズがあります。また、認知症の症状は専門家でない人々に数値化して示すことが難しく、患者さん個々人ごとに症状の変化や対応方法が異なるため、マニュアル的な対応では限界があります。さらに、外来の受診には一定の間隔が空くため、検診結果の伝達や患者さんやそのご家族からの病状や服薬方法に関する質問をタイムリーにできないなどの課題がありました。これらのニーズに応え、課題を解決するべく、「わすれなびと」では医師・薬剤師をはじめとする医療従事者、認知症患者さん、そしてご家族がネットワークで密に繋がるICTコミュニケーションシステム作りをめざします(図1)。

参加者(50名)には、1年半のパイロットスタディの間、およそ半年ごとに東大病院で血液、画像、認知機能などの検査を受けていただきます。本システムを活用することで、次回の外来受診を待たずに検査結果を自宅のタブレット型端末で閲覧でき、さらに過去のデータと比較する事も出来ます。また、患者さんやそのご家族は、本システムを通じて医療従事者と双方向のコミュニケーションをとることが可能であり、認知症患者さんの介護の現場での問題のスムーズな解決が期待できます。さらに、参加者は希望に応じてココカラファイングループの薬剤師による服薬支援を受けることが可能であり、服薬状況については「わすれなびと」を介して医師と共有されます。タブレット型端末には、一定の頻度で患者さんに対する症状等に関する質問が表示され、これに回答することで、日常の様子を時系列の変化とともに記録できます。記録した情報は医師も把握できるため、次回の外来診療の際の問診に加え、診療の質の向上に役立てられます。



「わすれなびと」は、今後さらに増加が見込まれる認知症患者さんに対する治療、介護の質ならびに効率の双方を高めるための基盤として開発がすすめられています。東大病院、エーザイ、ココカラファインは本パイロットスタディの検証結果を受けICTコミュニケーションツールを通じた、ひとりひとりの患者さんに最適の治療とケアを提供する個別化医療の実現を目指していきます。

なお、本臨床研究「わすれなびと」は東京大学COI「自分で守る健康社会」拠点のサポートを受けて取り組まれています。





<「わすれなびと」のパイロットスタディ>

参加募集開始日:2016年6月17日

参加方法   :東大病院メモリークリニックでの受診の上、

        参加の可否につき主治医が判断いたします。

        【メモリークリニック】

         曜日…不定期木曜日、毎週金曜日の午前中

         予約方法…東大病院予約センター

              (電話:03-5800-8630/平日10時~17時)

              にて「メモリークリニック」を指定して予約。

              初診の際は紹介状が必要

              (当院の他科からの紹介を除く)。

参加希望の方・一般の方お問合せ先:

ココカラファイングループお客様相談センター 電話:0120-933-191





5.用語解説:

(注1)パイロットスタディ

研究の初期の段階で、少数の参加者を募ってその妥当性や、細かい修正が必要かどうかなどを調べるための予備的臨床研究。



(注2)医療情報向けクラウドサービス

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)が提供するクラウドサービスであるIIJ GIO上に構築され、厚生労働省、経済産業省、総務省の各種医療情報関連ガイドラインに対応しているクラウドサービス。



(注3)電子@連絡帳

名古屋大学医学部附属病院 先端医療・研究支援センターにより開発された多職種連携、医療、介護、家族をつなぐコミュニケーション環境。
情報提供元: @Press