ふるさと納税寄付額、66万円から30億円へ 群馬・千代田町の戦略
2024年度の群馬県千代田町のふるさと納税受け入れ額は30億9390万円となり、過去最高を更新した。今でこそ県内トップの水準だが、実は10年前の14年度、寄付はわずか6件にとどまり、額は66万5000円に過ぎなかった。後発だった町が取った戦略とは。
「当初は力を入れていなかった」。町まちづくり戦略室の担当者は、率直に語る。
ふるさと納税の制度は、08年の地方税法改正によって始まった。11年の東日本大震災で被災地支援の気運が高まったことから全国に浸透。やがて自治体間の競争が過熱して高額な返礼品が問題視され、総務省は19年、寄付額に占める返礼品の額を3割以下に抑えるよう定めた。
町が返礼品のPRに力を入れ始めたのは、ちょうど19年度だった。一番の目玉は、地元に工場があるサントリーのビール類。数ある返礼品の中でも、高いブランド力を誇り、20年度の受け入れ額は、2億7521万円にまで伸びた。
現在も、返礼品の申し込みの大半はビールが占める。だが、町の挑戦はここで終わらなかった。
どうすれば全国の自治体の中から、町を選んでもらえるのか。納税者の目に止まる機会を増やそうと、21年度、手続きを代行する中間事業者を見直した。掲載サイトが3から21に増え、寄付は18億4022万円と、一気に9倍に増えた。
町の特色を見直し、新たな返礼品の開発にも乗り出した。この頃、町で評判のレストランが閉店。食肉卸のビーフセンター小林牧場が手がける店で、ハンバーグが人気だった。「ぜひ返礼品に」と声をかけ、22年度から追加。「上州牛100%の手こねハンバーグ」としてPRした。これが当たった。
ハンバーグは、雑誌エッセの「ふるさとグランプリ2024」の肉・肉加工品部門で、金賞を受賞。実食した読者から「お肉の味が濃い」との声が上がり、生産者の努力などのエピソードも評価を得た。受賞によって雑誌に掲載されると、24年12月のハンバーグの申込件数は前年同月の倍以上となった。
米価格の高騰が続く今、強化したい返礼品はコメだ。関東平野が広がる町は、3割が田んぼ。そこで25年度は農家に直接働きかけ、町に1万2500円を寄付すればコメ5キロが届く返礼品として、6月から受け付けを始めるべく調整している。
県内の市町村では、ふるさと納税受け入れ額が低迷している。総務省によると、23年度の群馬県の受け入れ額は111億円で、全国32位。北関東3県の中で最も低かった。その中で、千代田町は3年連続で県内一となり、24年度もトップだったと見られる。
返礼品の是非や自治体間の格差など、制度の意義には賛否があるものの、手をこまねいていては税金が他の自治体に流れてしまう。後発だったものの「やり方次第で寄付額は伸ばせる」というのが町の担当者の実感だ。
全国から集めた寄付を活用し、町は高校生の医療費無料化や福祉タクシーの運行などを始めた。他の自治体からの問い合わせも、多く来るという。【山越峰一郎】