増長するイスラエルにくぎを刺す、イランの報復攻撃 背景に国内事情
イスラム教シーア派国家のイランが1日、敵対するイスラエルに対して180発以上の弾道ミサイルを発射した。中東全域を巻き込む紛争に拡大するリスクがありながら、なぜ攻撃に踏み切ったのか。中東情勢に詳しい慶応大の田中浩一郎教授に聞いた。
イランが4月にイスラエル本土をミサイルで攻撃して以降、テヘランでイスラム組織ハマスやイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者らが相次いで殺害された。この間、イランは抑制的な対応を取ってきたが、イスラエルの行動は止まらなかった。イランはイスラエルを抑止できておらず、今回の攻撃には増長するイスラエルにくぎを刺す意図があったと言える。
イランが報復攻撃にかじを切った背景の一つには、国内事情もあったと考える。7月末にハマスの最高指導者ハニヤ氏が殺害された後、最高指導者ハメネイ師は厳しい言葉でイスラエルへの報復を宣言した。
一方で、米欧から抑制的な対応を求められる中、イラン指導部としてはガザ停戦を実現して外交で成果を上げようと、報復から流れを変えた経緯がある。ただ交渉は実を結ばず、放置されている状況だ。国内では「抑制を働きかけたことがあだとなった」と指導部への不満の声も出ている。
今回のイランの攻撃は、市民の被害を出さないように市街地を標的から外すなどしている。事態がエスカレートするのを避けたい狙いがあるのは明白だ。
一方で、4月に在シリアのイラン大使館が空爆されたことに対する報復攻撃を行った時とは異なり、イスラエル本土に到達するまでに時間のかかる無人機(ドローン)は使用せず、十数分で到達する弾道ミサイルを使って攻撃能力を示した。相当数がイスラエルに着弾しており、防空網をかいくぐった可能性が高い。
イスラエルは米国の軍事力を背景に紛争を拡大させ、歯止めがかからなくなっている状況だ。今回のイランの攻撃に対するイスラエルの出方が注目される。【聞き手・松本紫帆】