かつては山頂? 海中洞窟に幻想的なハート
「ゲルマのハート」と検索すれば、鉱物のゲルマニウムなどでできたハート形ネックレスが見当たります。バレンタインデー向きですね。
でも沖縄好きのダイバーにとってゲルマのハートといえば、こちら。
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美(ちゅ)ら海に接し「日本で一番海に近い学校」と言われることも多い、沖縄県の座間味村立慶留間(げるま)小中学校の沖合にあります。暗い海中洞窟の光と影のラビリンスを抜け、特定の場所の特定の角度から見ると、光がハート形に見えてくる幻想的な風景です。
この時期になると各地でハート形の造形物が話題になるものの、ここはダイバーだけに許された幸せな場所です。
慶留間は、面積約1・2平方キロ、人口51人(2024年1月末現在)の小さな島です。 混同されがちですが、慶良間(けらま)島ではありません。
慶良間とは、沖縄本島から西に約40キロ離れた東シナ海に点在する島々の総称です。特定の島名や地名ではありません。座間味村役場の担当者によれば、島民たちは慶良間と呼ばず、本島の人たちが長らく言い習わしてきたものだといいます。
渡嘉敷島、座間味島、阿嘉島、慶留間島の有人4島など、1ヘクタール以上に限っても36の島があります。多島海の美しい景観とともに、世界中のダイバーが憧れるダイビングエリアです。
慶良間の島々は100万年以上前、沖縄本島とつながった大きな山脈の一部だったとされます。本島北部の黒色千枚岩や緑色片岩と同じ地質なのだとか。山原(やんばる)の山々がここまで延びていたわけです。植生から標高2000メートル級の高山だったとも考えられています。
その後の地殻変動で陸地が沈み、山稜(さんりょう)だった島々だけが残りました。現在は山脈の名残の切り立った断崖や、湾の多いリアス式海岸が連なっています。美しいしま模様を描く地層が露出している場所も多く見られます。
「ゲルマのハート」付近よりさらに西側沖合が、山脈の端だったとみられています。洞窟で観察すると、周囲の岩石は造礁サンゴが海中で作りだす石灰岩ではありませんでした。かつて山頂近くにあった穴やくぼみが水没し、波の浸食でこの形になったのでしょう。
地球の拍動をも感じさせてくれるハートなのです。(沖縄県座間味村で撮影)【三村政司】