■気づけば遠い「13年」という年月 ▲トヨタポルテの初代型は2004年発売。発売から18年が経過し、すっかり「MODERN CLASSIC」の世代の仲間入りだ。 欧州のエンスージアストたちの間では90年代から00年代のクルマの愛好家が増え、現地の自動車雑誌では「MODERN CLASSIC」を掲げた専門誌や特集を見ることも少なくない。 内容を眺めるとケイマン(987)やランサーエボリューションⅨなど、2000年代後半にかけての車両にもフォーカスが当たる時代だ。 まだまだ最近だと思っていた00年代から13年が経過した。 「すでにiPhoneがある時代」と聞けばさほど昔には感じないが、「アナログ放送が停波していない」ことや「東京スカイツリーがまだ途中までしかできていない」と捉えると、令和がすでに4年目である事実を感じられる。 「13年」というキーワードを聞いて、古いクルマが大好きな読者様がつい意識させられるのは、自動車税の15%増税タイミングだったりしないだろうか。 ■まだ旧車ではない?将来に残るか今が正念場の旧車予備軍たち 今回紹介するトヨタ・ポルテは2007年車。 「街でまだまだ見かけるじゃないか」と言う声も聞こえてくるような気もするが、すでに新規登録から13年を軽く越えた車両だ。 旧車王ヒストリアの読者様ならば、「まだまだいけるぞ!」と強気にいえるかもしれないが、一般的なユーザーならば「そろそろ潮時…」と、感じてもおかしくない位の年代のクルマであると思う。 だからこそ、これらの車両たちが本当の旧車になるには今が正念場だと筆者は考える。 ちょうど13年前の2009年、日本でも欧州の国々に習い、自動車の買い替えを促す各種優遇政策の「スクラップ・インセンティブ」を導入した。 環境対応車への買い替えにおける減税や補助金と引き換えに、それまで所有していた車両を引き取り、スクラップにすると言うものだ。 2009年頃の新車ディーラーでは、工場脇にかなりの台数の旧型車が並べられていた。 その多くが中古車市場などに再度流通することなく、この世から姿を消していった。 今となっては自動車雑誌やイベントで注目される80年代、90年代車達もヤードの奥に随分と並んでいたことを忘れていない。 筆者もディーラーの方に許可をとって「せめて写真だけでも…」と、撮影させてもらったことを記憶している。 とはいえ、現在スクラップ・インセンティブが実行されているわけでもなければ、廃車によって優遇措置を受けられるわけでもない。 筆者が伝えたいのはそのクルマを役目を終えたとして捉えるか、それともこれから価値を帯びるクルマとして楽しむかで、随分未来が変わると感じているのだ。 ■気軽に味わうレンタカーという選択肢! そんな「旧車予備軍」の車両を気軽に楽しめたらいいな、と思い立った時にふと「どこかでレンタルできないだろうか」と考えた。 スポーツカーや趣味性の高いモデルならば専門のレンタカーショップなどでも借りることができるが、いざカジュアルなモデルを味わおうとすると、街中ではよくすれ違っても借りるとなるとハードルが少し高くなる。 筆者が行き着いたのはニコニコレンタカーだった。 比較的新しい車両に力を入れてリーズナブルに貸し出しを行っている同サービスだが、中古車をベースとしたレンタカーも多く、探せば店舗によって古い年式のモデルを借りることも可能である。 前置きが長くなってしまったが、そんな旧車予備軍のなかから今回はエポックメイキングな車両をレンタルしたく、この初代ポルテに触れてみることにした。 ■生活に根ざしたエポックメイキングなレイアウト ▲オーディオ、空調類だけでなくスライドドアのスイッチまでも中央に集約した操作系。配慮は運転者だけでない部分が設計思想に見え隠れする スライドドアを採用したモデルという点であれば、3代目アルトのスライドドアスリムやプジョーの1007が存在する。 両側スライドドア、もしくは助手席側のみヒンジドアとなっており今回紹介するポルテとは異なるレイアウトを採用している。 初代ポルテは運転席側にヒンジドアとリアハッチ、助手席側に大開口の電動スライドドアを備える3ドアハッチバックだ。 全長は現行ノートと同じく3990mmとコンパクトではあるものの、全高は1720mmとスーパーハイトワゴン系のダイハツタントより30mm低い程度で室内の広々感はかなりのものだ。 イタリア語で「扉」の意味を表すポルテの通り、とにかくその助手席ドアの印象は大きい。 インパネの真ん中にあるパワードアのボタンを長押しすれば、運転席からでも助手席からでもドアの開閉が可能だ(もちろん助手席ドアからでも可能である)。 ナビはトヨタ純正のDVD方式で、MDは長時間録音形式の「MDLP」に対応している。 ▲当時、トヨタのコンパクトカーの多くはまだエンジン始動までボタンで行えるスマートキーではなく、鍵の施錠のみが可能なスマートドアロックを採用。エンジン始動用の鍵と共にキーフォブを携行する必要があった ▲レイアウトだけでなく、それぞれのシートや物入れなどいたるところに工夫が見える。限られた空間をいかに有効活用できるかも日本車のお家芸といえよう 巨大なドアを開けると、シートスライド不要で助手席、リア席どちらにも乗り込むことが可能だ。 まず乗り込んで目につくのはその収納の多さだ。 カップホルダーや収納をできるだけドアやインパネ内に納め、左右座席へのウォークスルーが容易なレイアウトになっている。 撮影車はオプションの大容量センターコンソールが取り付けられていたが、標準状態ではフロント席からリア席への移動も余裕のある天井高のおかげで容易だ。 助手席は背面をパタンと前に倒しシートバックをテーブルにすることも可能だ。 このあたりは近年の軽自動車にも見られる装備ではあるが、ここまでしっかりしたシートを2000年代中盤から真剣に作り込んでいる点は流石である。 ■まったりした乗り味が魅力のワゴン...いや、ハッチバック!? 着座位置は高く、最近の軽ワゴンなどとも似た雰囲気だが、比較するとフロントウインドウの上端が寝ているためゆったりした居心地の良さがある。 ハイウェイクルーズやワインディングをキビキビと攻めたくなるタイプのクルマではないが、ミニバンなどともまた一味違うまったりとした乗り心地が魅力だ。 リアシートに移動してみよう。 シートのクッションがフロント席とは大きく異なり柔らかく沈み込むのが印象的だ。 フロント席が肘付きのちょっと良いオフィスチェアだとすれば、リア席はリビングのソファだ。 座り込んだ瞬間もっちりとした感触に心奪われる。 特に、運転席の後ろにドアがない分、リア席右側はカップホルダーや物入れスペースがかなり充実。 シートの周りになんでも揃っている雰囲気、どこかで見たことあるなと思ったら国際線のビジネスクラスのシートとなんだか似ているような気がするのだ(残念ながら筆者はビジネスクラスに乗ったことがないが)。 リア席はもっちりしているだけが芸ではない。 座面を跳ね上げれば大型の荷物がすっぽりと収まるようになっている。 背の高い折りたたみ式のベビーカーや小型の自転車なら収まってしまうと言うのがメーカーの触れ込みだ。 リア席もシートバックを前側に倒すことが可能で、助手席も同時に倒せば長尺物が余裕で入ってしまうのも魅力だ。 これらの機能は最近のハイトワゴンではできることも多いのだが、あくまで2004年に発売された3ドアハッチバックの話である。 搭載されるエンジンは1.3リッターの2NZ。 車両総重量は1090kgと、電動スライドドアを装備した乗用車としては意外と軽いような気もするが、全体的なまとまり含めてどっしりとした走りをもたらしている。 タイヤは175/70R14と程よいサイズ感で、足回りからはマイルドな感触が伝わってくる。 前方視界はすこぶる良好だが、後方視界にも不安は少なく「家族で乗りたいけど3列シートはちょっと長すぎて不安」という人にも候補に入れてほしくなる一台だ。 ■「ユニバーサルデザイン」の体現 数あるクルマの選択肢からどんなクルマを選ぶのか、ライフステージに合わせてさまざまであると思う。 そんななか、ポルテというクルマの存在は乗る人の生活を中心とした優しさを感じさせる。 90年代後半以降、ユニバーサルデザインを自動車作りにも反映させ、研究していたトヨタ自動車。 その活動は初代ラウムで結実し、以降幅広い車種に波及していく。 まさにポルテもそういった視点が盛り込まれた車両で、福祉車両のウェルキャブシリーズには助手席シートの仕様だけでもかなりの種類がある。 また、助手席シートだけに止まらず、運転席シートがそのまま自走式電動車椅子になるウェルドライブ「タイプI」なども設定されていた。 ■選べるうちに味わう00年台車の味 「移動」というニーズへと、細やかに対応しながら作られたポルテ。 気の置けない仲間とのんびりとした遠出を楽しんだり、子供一人目くらいまでのファミリーには今でも大変重宝されそうだ。 何より、この世代のクルマはとにかく今の相場価格がかなり安い。 今回はレンタカーでその良さを味わうことができたが、つい日常生活のなかでポルテの良さを知りたくなってしまう。 中古車でまだ色やグレードが選べるうちに、このエポックメイキングな00年代車を味わってみるのはいかがだろうか? [ライター・撮影/TUNA]
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