2023年現在は、100年に一度の転換期といわれている。 自動運転が開発され、新型車には電気自動車も多くなってきた。 そんな環境のなか、旧車と呼ばれる年代のクルマを、新たな愛車として選ぶ方も多くいる。 今回は“ちょっとした”一言がきっかけで「R32 スカイライン GT-R」が初の愛車となったオーナーにお話をうかがった。 1.出会いは突然 最初の愛車がGT-Rに!?しかし本音は・・・ 前回、新たに日産N15パルサー VZ-Rを愛車にした、お父様の話を紹介した。 ●教えて旧車オーナーさん!今"N15 パルサー VZ-R"を買ったワケhttps://www.qsha-oh.com/historia/article/nissan-family-pulsar-vzr-n15/ 今回の主役は、R32 スカイラインGT-Rにお乗りになられている息子さんだ。 手に入れた経緯は、なかなかに興味深いものだった。 「このGT-Rは元々、父の知人が所有していたクルマだったんです。3年半程、寝かせていたクルマを手放すということで、紹介されました。」 最初の愛車がGT-Rとは、とても羨ましい話ではあるが、実は本音は違ったようで・・・ 「実は、当初欲しかったクルマはS15シルビア オーテックバージョンでした。中学生の頃、近所の中古車屋さんに置いてあった売り物を見に行ったりしていました。(笑)」 「当時ガラケーに、シルビア オーテックバージョンの中古車情報の程度や金額をメモするほど憧れて、恋枯れていました」 S15シルビア、そのなかでもメーカーがチューニングを施した、NAエンジン(SR20DE)を搭載するオーテックバージョン。 中学生のころに、S15シルビア オーテックバージョンへ憧れを抱くとは、なかなかに通な選択だ。 これも、日産フリークなお父様の影響を受けた結果なのかもしれない(笑)。 2.GT-Rの縁談に乗り気になれない、クルマ好きならではの“理由” その当時を振り返り、お父様から意外な言葉が出てきた。 「息子に最初この話をしたとき、そんなに乗り気ではなかったのは、すぐにわかりました」 「私がすでに同型のGT-Rに乗っているので、同じクルマに乗るのが嫌なのかな?と思っていました」 予想外の反応をされた息子さん。 ではその当時、実際にはどう思っていたのだろうか? 「たしかに、父親がすでに同じGT-Rに乗っていることも意識としてはありました。ただそれよりも、当時はGT-Rって『最終地点』なイメージを持っていたんです」 この『最終地点』が意味することは、クルマ好きならすぐに理解できることだろう。 世界に目をやれば、超ド級なスーパーカーは多くある。 ただ、日産フリークな家庭で育ったオーナーにとって『GT-R』は、日産のスポーツカーのなかでも特別な存在であることはよく分かる。 「GT-Rに乗っている人は、段階を経てGT-Rに到達するイメージがありました。それこそ、シルビアなどに乗って練習して、父親のようにステップアップしていってGT-Rと考えていました」 お父様がDR30スカイラインで腕を磨き、R32スカイラインGT-Rにステップアップされたのを間近で見て育っただけに、その思いが強くなったのだと想像に容易い。 「いきなりGT-Rに乗っていいのか?という思いがあるのと、“シルビアが好きだから”という理由で断りました」 ずっとモータースポーツを観戦していただけに、GT-Rの凄さを理解していたことと、シルビアへの思いからの考えだったようだ。 3.父親からの思いがけないアドバイスがきっかけに 息子さんの思いを聞いたうえで、お父様から現実的なアドバイスがあったそうだ。 「シルビアからステップアップしてGT-Rにいきたくても、いざGT-Rに乗りたくなったときに買える保証はないんだぞ」 それは、なかなかにストレートなアドバイスだった。 お話をうかがっているとき、筆者は思わず笑ってしまった。 ただ、この言葉がきっかけとなり、現実的に自分の状況を踏まえ、改めて考えたそうだ。 当時でもS15シルビアは人気車であり、生産終了から日が浅く、程度の良いものは新車同等、もしくはそれ以上の価格だった。 対するR32スカイラインは、すでに生産終了から年数が経過した“旧車”となっていた。 年式を考えると流通量の減少、流通しているなかから良い程度を求めた場合、状況は厳しくなる一方と考えたそうだ。 そこからGT-Rを初の愛車として迎え入れることを決意したのをきっかけに、一気にモチベーションが上がることとなった。 教習所に通いながらアルバイトに励み、修理代を捻出していったとのこと。 このお話を聞いて、どこかの誰かと同じような境遇だと、思ってしまった。 「以前、初の愛車を手に入れた経緯をお聞きして、うちの息子と境遇が似ていると思いました(笑)」 と、筆者を見るお父様の表情は、満面の笑みであった(笑)。 4.初の愛車は課題が豊富 実際に手に入れたGT-Rはどうだったのだろうか? 「やはり3年半寝かしていたクルマということもあり、最初、エンジンをかける前に燃料系統を確認しました。やはりガソリンが腐っており、その腐り方も想像以上だったため、燃料ポンプを新品に、燃料タンクを中古の物に交換しました」 ガソリンも食品と同じく、古くなると腐ってしまうのだ。 長期間動かしていない場合、注意が必要な点でもある。 「エンジンをかけられる段階まで来て、いざエンジンをかけたものの、アイドリング不調で、まだまともに走れる状態ではありませんでした。そこで、点火系など順を追ってチェックしました。幸いなことに父親のGT-Rと同じ年式だったので、部品を入れ替えてチェックすることで、ダメな部品のトラブルシューティングができました」 修理と併せ、予防整備もおこなったとのこと。 交換した際、元々の部品は、お互いのクルマに使えるストックとなっているそうだ。 外観からも、チューニングを施しているのが見て分かった。 修理をする際に、併せておこなったのだろうか? 「今ついている社外のチューニングパーツは、前オーナー時代に交換されたものがほとんどです。ワンオーナーだったため、弄っている個所も分かっていました。あとからカスタムする必要が無い状態だったのは、結果的に良かった点ですね」 今回購入されたのは、ワンオーナーかつ、ご本人から直接譲り受けたので、詳細が分かっていたのは大きなアドバンテージだ。 5.素性を見極めて選んでもらいたい! これから旧車を手に入れようと思っている方へのアドバイスをうかがった。 「この年代のクルマを手にするなら、可能な限り素性の分かる車輌を選ぶことをお勧めしますね」 それは、お乗りのGT-Rで得た経験も背景にあるのかもしれない。 「私自身もそうだったのですが、やはり若い時って『エアロが付いていてカッコイイな!』『エンジン周りも弄ってあって良いな!!』と思ってしまうんですよね(笑)」 その気持ちは非常によく分かる。 どうしても“ノーマルとは違う”ことに憧れを抱いてしまうものだ。 「わからない弄り方をされていると、何か不具合が起きた時に原因が掴みづらくなってしまうんですよね」 実は筆者にも経験がある。 自身の愛車を手にしたときも、アイドリング不調が出ていた。 原因は、過去のオーナーが取り付けた社外部品の不調であった。 すでにカスタムされていることは魅力的に映るだろう。 しかし、長い目で見た際には、ノーマルの方が心配は減るものだ。 「特にスポーツカーは、ノーマルを探すのが難しいと思います。なので、ある程度詳しい人と一緒に現車を見に行くのが一番かと思いますね」 欲しいクルマを目の前にすると、誰もが正常な判断はできなくなる。 中立な、落ち着いた判断と目利きができる人に同行してもらうのは、大事なことだろう。 6.総括 いつかより今!時には踏み出す勢いが必要! 今回、お話をうかがい感じたことは、踏み出す勢いが大切だということ。 “いつか、あのクルマに乗りたい” そう思うことは、クルマ好きにとっては、日常的なことと思う。 今回お話をうかがっオーナーのように、キャリアアップして乗ることを目標にするクルマもあると思う。 ただ、タイミングが許すならば、一気に目標へ到達してしまうのも、旧車に乗るには必要な判断要素かもしれない。 今しか乗れない、今だから乗れる。 このことを考えて、旧車に乗るのもアリと感じた。 [ライター・画像 / お杉]
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