▲エンジンオイルはクルマの血液ともいえる、重要な消耗品である。 ■初めての旧車メンテDIYにふさわしいエンジンオイル交換 少しでも愛車のメンテナンスを自身の手で行いたいと思う旧車オーナーに、初めてのDIYとして挑戦していただきたいメンテナンスがあるとすれば、それはエンジンオイル交換だ。 エンジンオイル交換といえば、旧車のみならずもっとも身近なカーメンテナンスといってよいことであろう。 エンジンオイルは人間でいうところの血液によく例えられる。 クルマの心臓部分であるエンジンの寿命は、この血液たるエンジンオイルの状態によって大きく左右されるのは周知の事実だ。 現代のクルマほど加工精度がよくない旧車のエンジンではなおさらのことである。 熟練のメカニックやベテランの旧車オーナーがクルマ選びをする際に、ボンネットを開くことがあれば、まずはエンジンオイルのフィラーキャップ(注入口の蓋)を外すことであろう。 フィラーキャップ裏に付着したブローバイ汚れの状態や、フィラーからのぞけるエンジン内部のスラッジの具合、エンジンオイルからガソリン臭が漂っていないか? また、オイルレベルゲージを抜けば、オイルレベルのみならず、レベルゲージについたエンジンオイル焼けを見るなどして、前オーナーのオイル管理の状態を推察する。 エンジンオイルという傷みやすい消耗品を見れば、たったこれだけの情報からでも、前オーナーのクルマというメカとの向き合い方がわかるのだ。 メンテナンス費用を節約するためにDIYを志すオーナーも多いかと思われるが、ここではクルマというメカと向き合うためにDIYを行う次第である。 初めてメカと向き合うDIY、それにふさわしいのがエンジンオイル交換ではなかろうか。 今回から数回にわたって、このエンジンオイル交換に関する内容をお伝えしようと思う。 まず第一回目の今回はエンジンオイル選びについて、旧車ならではの注意点についてお話しをしていきたい。 なお、本題に入る前にあらかじめお断りしておくと、今回の記事は旧車のエンジンオイルについて若干詳しく掘り下げる内容ではあるが、すでに豊富な知識を持つベテランオーナーや評論家のための記事ではない。 初心者の方へ幅広い内容を、できるだけ分かりやすくお伝えするための記事であることをご承知おきいただければ幸いだ。 ■一筋縄ではいかない、旧車オイルの多種多様な選択肢 現代のクルマであれば、エンジンオイルは近所のホームセンターやカー用品店で簡単に入手することができる。 しかし、問題は旧車用のエンジンオイルだ。ホームセンターでは旧車用エンジンオイルの取り扱いなど、まず皆無である。 ただ、旧車といっても、ヒストリックカーと呼ばれる戦後~1970年代前半くらいまでのバルブカバーやオイルパンなどのガスケットにコルクや紙(本当にただの紙)が使用されているクルマ、1970年代末くらいまでのキャブレター式かつ触媒レスのクルマ、1980年以降のネオクラシックと呼ばれ、現代車に近い構造かつ大馬力・大トルクを誇るクルマ・・・。 さらには国産・欧州車・アメリカ車など、多種多様にカテゴライズできる。 これらに使うエンジンオイルを、単にひとくくりに「旧車用エンジンオイル」と呼んでしまっては少し乱暴ではなかろうか。 クルマの新旧に関係なく、オイル選びは車両の取扱説明書やサービスマニュアルの「指定の粘度」から検討することが基本である。 この「指定の粘度」を今日流通しているエンジンオイルのラインナップから選択するしかないのだが、注意点は、ただ「旧車用」と記されているからといって、それが正しい選択とはいい切れないかもしれない点になる。 ▲旧車用エンジンオイルといっても、初心者にはどれを選んでよいか分からないものである。 気に入っているオイルがラインアップ落ちすると、とても悲しいものだ。 ■旧車用エンジンオイルを「指定の粘度」と実際の硬さ「動粘度」で選ぶ 特に筆者が難しく感じるのは、旧車用として販売されている複数の「同じ粘度」のエンジンオイルを実際に比較検討すると、各オイルで異なる「動粘度」である場合が多いのだ。 例を述べれば~1970年代前半までのキャブレター式かつ触媒レスのクルマに多い、指定粘度「20W-50」やシングルグレードと呼ばれる「#30」や「#40」だ。 選択するエンジンオイルのブランドによって性格が異なるため、これらが指定されているクルマのエンジンオイル選びは少しシビアだ。 以下の表をご覧になっていただきたい。 上記は「20W-50」の同じ粘度で今日入手できるエンジンオイルのデータシートから代表性状をまとめたものだ。 他にも筆者が個人的に気になる「旧車用」エンジンオイルが複数あったが、残念ながらデータシートが公開されていなかった。 そこで今回は、比較的入手しやすく、かつデータシートが公開されているもので比較した。 いかがだろうか。 同じ粘度でも実際の「動粘度」がまったく異なることがわかる。 走り出し直後を想定したであろう油温40℃での動粘度の違いをみると、実際のフィーリングもだいぶ異なることが予想できる。 さらに述べると、これはあくまでも新油での話。 交換後のメカニカルノイズの大きさや、数千キロ走行後のフィーリングなどは実際に意識して使い込んでみないと何ともいえないものだ。 これがエンジンオイル選びの醍醐味であり悩みどころだ。 旧車ではこの辺りの違いをはっきりと体感できることが多い。 ではあえて、今日近所のホームセンターで入手できる一般的なエンジンオイルを旧車に入れるとどうなるであろうか。 実際にやってみるとわかるが、結果は何も起きない。 いや、今すぐは何も起きないというべきであろう(極端な場合はオイルが燃焼し、マフラーから白煙が出る場合もある)。 実物に触れてみるとわかるが、現代の一般的なエンジンオイルは旧車用のそれと比べるとシャバシャバとしており、反対に旧車用はドロドロとしているはずだ。 旧車はエンジン内部のピストンとシリンダーのクリアランス(すき間)が大きく、旧車用のエンジンオイルの粘度が高めなのも、このクリアランスを埋めるための密封性能が必要だからである。 また粘度の高いオイルは、ピストンとシリンダーのみならず、各部のすき間やクリアランスに充填することで部品の摩耗を防いでいるともいえる。 旧車に低粘度のエンジンオイルを使用すると、わかりやすい故障の原因にはならない。 しかし、継続して使用するとオイル消費が著しかったり、エンジンの寿命が短くなるというのが正しい答えではなかろうか。 なお、旧車にはこの密封性能が必要だが、反対にハイブリッドやアイドリングストップ車などの現代車では、むしろこれがあだとなる。 いわゆる昨今のエコカーのなかには、省燃費性能の向上のために各部の摩擦抵抗を減らすことを目的に「0W-16」など極端な低粘度のエンジンオイルを指定したクルマもある。 こういったクルマに旧車用のエンジンオイルなど入れようものなら、確実に抵抗となるので、その負担からギクシャクとした動きになることが予想される(さすがにやってみたことはないのであくまでも予想)。 なお、1980年代後半以降のいわゆるネオクラシックカーと呼ばれるクルマはそこまでシビアにならなくても良いと思われる。 さすがに現行エコカー用の「0W-16」や「0W-20」は不適だろうが、現行車よりかは少し硬めの「10W-30」や「10W-40」を選択すれば問題はないであろう。 これも先述の動粘度の話があるので、よく検討したいところではあるが、迷うようであれば取扱説明書およびサービスマニュアルの指定のオイル粘度のうち、高温側を一段階(10単位)例:5W-30 ⇒5W-40などで調整すればよい。 これならシリンダー内の気密保持と保護性能を両立できるはずだ。 いずれにせよ、目的に合わないエンジンオイルを安易に使用することがNGなのである。 ▲ペンシルバニア産のエンジンオイルが最良であった時代は、筆者が生まれたころの話ではなかろうか。余談だが表1の「粘度指数」とは粘度の温度変化が極めて小さいペンシルバニア系潤滑油を100とし、極めて大きいガルフ・コースト系のものを0として定められた規格で、値が大きい油ほど粘度変化が小さいとのこと(画像はイメージです) ■永遠の課題:旧車には「鉱物油」か「化学合成油」か ここで、都市伝説の如くよくいわれる、旧車に化学合成油はNGという説に持論を述べたい。 一般論として旧車には「化学合成油」は不向きだ。あながちこれは間違いではない。 先述の通り、ヒストリックカーと呼ばれる~1970年代くらいまでのクルマは、エンジンのバルブカバーやオイルパンにコルクや紙のガスケットが使用されていたり、シールやパッキンの耐久性が悪く、加工精度もまだまだ(というよりも削ったまま)のものが多い。 このようなエンジンに粒子の細かい化学合成油を入れると、各部からオイルにじみが発生する。 また、化学合成油には種類があり、そのうちの一種PAO(ポリアルファオレフィン)はシールやパッキンを収縮させる性質を持ち、やはりこれもオイル漏れの原因となる。(余談だが、やはり化学合成油の一種であるエステルは逆にシールやパッキンを膨張させるため、一部オイル漏れ防止の添加剤にも使用される) このような経緯から、化学合成油が旧車に不向きだといわれる。 しかし、これはオイル漏れの観点のみで考えた場合の話だ。 鉱物油にはデメリットとして、エンジン内でスラッジとなりオイルラインの詰まりの原因になりやすい点や、酸化安定性が悪く、使用開始後に早い段階で性能が劣化してしまう点がある。 オイルの性能面を全体で見れば、化学合成油を使用するメリットは大いにある。 以下の表をご覧になっていただきたい。 化学合成油というとPAOやエステルに代表される、人工的に作り出されたハイエンドなオイル、すなわち「グループⅣ」や「グループV」が想像される。 今日「全合成油」という名で市場に広く一般的に出回っているのは「グループIII」オイルだ。 かんたんにいえば、鉱物油に含まれる不純物を水素と反応させて除去「水素化分解(ハイドロクラッキング)」して精製されたオイルだ。 ベースオイルは鉱物油であるが、化学合成油に近い性能を持つ。 問題は、このグループIIIオイルが旧車に使えるか否かだ。 個人的には動粘度などの仕様に注意を払えば、十分に使用できると考えている。 筆者はコストパフォーマンスから、エステルブレンドのグループIIIオイルを長年愛用しているが、まったく問題はない。 前述のデータシートをよく見て判断したい。 なお、1990年代以降のいわゆるネオクラシックカーであれば、オイル漏れ関係がしっかりと整備されていることを前提にPAO(グループⅣ)オイルは何ら問題なく使用できる。 鉱物油にこだわりたい場合は、グループII(高度精製鉱物油)をチェックするとよい。 「20W-50」やシングルグレードの「#30」「#40」のエンジンオイルにおいて、パッケージには鉱物油の表示のみであっても、ケンドルやRIZOILなどメーカーのホームページやデータシートを注意深く確認するとグループIIの記載があることが確認できる。 先述の【表1】をご覧になっていただくとわかるが、グループIIオイルは鉱物油ながら非常に高い粘度指数を持つオイルが多く、格上のグレードに迫る性能のエンジンオイルもあることが分かる。 なお、筆者はキャブレター車にはケンドルのエンジンオイルを愛用している。 余談であるが2023年1月現在、グループⅣやグループⅤなどの「100%化学合成油」は3,000円/Lを割ることはないだろうが、グループIIIの「全合成油」であれば1,000円/ℓ前後で手に入る。 近所のホームセンターやガソリンスタンドで購入できる少しグレードの高いオイルは、ほぼこのグループIIIのエンジンオイルであるといっても過言ではないことであろう。 問題はその表示方法だ。市販のオイル缶には、APIのグループ分類で表示されているものがほとんど見当たらない。 クルマ好きのオーナーであっても「全合成油 = 100%化学合成油」という認識をしてしまいそうな表示である。 繰り返すが「全合成油」として販売されるグループIIIのベースオイルは、あくまでも水素化分解処理済みの「鉱物油」である。 紛らわしいことこのうえない。 なお、この問題は北米で訴訟となっている。水素化分解処理された鉱物油(グループIII)をカストロール社が化学合成油として販売したため、モービル社より不当表示として訴えられたのだ。 結果はモービル社が敗訴しカストロール社の主張が認められた。 これ以後、モービル社も自社製品にグループIIIオイルを使用するようになったという経緯がある。 ▲化学合成油によるオイル漏れを心配するよりも、根本的にエンジンをオーバーホールした方が良い場合は多々存在する。オイル漏れを化学合成油だけのせいにしてはいけない ■触媒装着車への旧車用エンジンオイルや、亜鉛とリンを含んだ添加剤の使用について 触媒が装着されているクルマに旧車用エンジンオイルを使用する場合は注意をしたい。 もともとエンジンオイルには、亜鉛とリンをベースとした添加剤が摩耗防止剤として必ず含まれているが、旧車用エンジンオイルのなかには、この添加剤が配合されていることをセールスポイントにしているものが存在する。...
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