うまい・やすい・はやい。 筆者はこの言葉が嫌いではない。 デフレ文化がはびこる日本において、賛否両論があるワードであろうが、人間として生きるべく難易度低めに手に入れることができて、快適に物事を扱うことができるならばそれは人類の英知の賜物であろう。 クルマは人間を補助してくれるパートナーでもあり、めちゃくちゃに甘やかしてくれる存在でもある(やたらスパルタなクルマもいたりするが...)。 雨風を凌いで目的地まで安全に走ることができ、夏の暑い日に大量のペットボトルを買い込んで坂道を文句を言わずに登ってくれる。 旧車王ヒストリアというメディアで執筆するには、いささか趣味性に欠ける観点かもしれないが、日々の暮らしを豊かに彩ってくれる相棒はやはり自分のカーライフにおいて外せないものだ。 ここに「うまい・やすい・はやい」を意識し始めると、どんな感じになるだろうか。 ■これでいい...ではなく、これがいい! この9年で16台のクルマを購入し、そのすべてに愛情を注いできたつもりだ。 そのなかでも「これは好きだ!」と明確に思わざるを得ない存在がある。 それが自分にとってはダイハツの軽自動車であり、そのなかでも「タント」というトールワゴンに妙に惹かれてしまっている。 タントは初代モデルが2003年のデビューだ。 以前の記事にも執筆したが、トールタイプの軽ワゴンの風雲児であり優れた積載性や居住性は後続の軽自動車、ならびに日本のファミリーワゴンに大きな影響をもたらしたであろうことはさまざまなクルマの内装レイアウトを見ても明白だ。 室内長は2160mm、室内高は1355mmと、ベビーカーや自転車をそのまま載せられてしまう大きさなのだ。 日本のカントリーサイドへと足を運ぶと、山間部や公共交通機関が手を伸ばせない地域でもタントをはじめとするハイトワゴンの活躍ぶりを頻繁に見かける。 狭い道へと人と荷物をグングンと進むことができ、いわば社会インフラになりかけているといっても過言ではないように思える。 親子に“ぴったんと”という初代のキャッチフレーズが懐かしいが、日本に“ぴったんと”したクルマだ。 常々その存在には惹かれるものがあったのだが、実際に所有するとやはりその使いやすさに舌を巻くことになったのだ。 それまで所有していたアウディA4アバントを手離し、初代タントを購入したのは2022年の6月。 そこから約半年ほど所有して日常や業務で使用しつつ、下道で北海道1.5周と日本海側の東北地方を下道だけで移動したりした。 これまで所有したなかで自身の身体にもっともあったシートはシトロエン・C4のシートであったが、次点で初代タントがノミネートする。 その証拠は、毎日400km超を車中泊しながら3週間移動した実績に起因するものだが、実際に乗ってあまり緊張せず疲れない作りであると感じたのだ。 だから自分にとってタントはまず「実に“うまい”」クルマであるのだ。 まぐれだろうか、と思い他にも同年代で別ブランドの軽自動車を2台購入してみたのだが、残念ながらシートが身体に合わず今回改めて2代目のタント(L375)を購入する運びとなった。 ■うまい・やすい・はやい。三拍子揃った2代目タント 新たに自分のもとにやってきたのが2代目のタント(L375)だ。 見た目こそ初代からのキープコンセプトだが、その進化幅は小さくない。 車台はダイハツのAプラットフォームを採用。 エンジンは低速トルクにKF-VEエンジンを採用したことで初代と比べても出足が良い。 もちろんこの型だけ乗れば“古い軽自動車”の印象は拭えないかもしれないが、初代と比べれば「あれ?マイルドターボでもついたかな?」くらいにはトルクを感じるものだ。 CVTの相性は悪くなく、ストップアンドゴーが多い道での乗り味は喜びが大きい。 街中でリッター当たり15キロ以上は走るので、非常に経済的なこともメリットだ。 足回りは初代のタイヤ4本がどこにあるかを掴みやすい印象から、しなやかに動く足元といった感じに印象がシートの座面とも相まってグッとアップグレードされている。 ステアリングは一時期のコンパクトカーのようにものすごく軽いというわけではなく、不安定な雰囲気は感じさせない。 もちろん背が高い車体なので大きくロールはするが、予測を立てて安全な速度域で走るぶんには問題が無い。 内装に目を向けてみる。大きなセンターメーターが特徴的なタント。 ワイドに拡がるシンメトリーなインパネの造形と、大きなガラスエリアが軽自動車とは思えない解放感を感じさせる。 昔、ホンダのモビリオが登場した際、ユーロトラムをモチーフとしたデザインコンセプトだったが、同じくトラムのように大きくとった視界は当たり前のように景色が沢山見え、ドライブがそれだけでも豊かだと思える。 シフトレバーはインパネシフト。直観的に力を入れられるIパターンなので、夜間の駐車場での操作も非常にスムーズだ。 また、シフトレバーと同様にコンパクトにまとめられたオーディオやエアコンの操作類のお陰で初代タントよりもありとあらゆる隙間に収納スペースが増加。 花粉が舞う時期にお世話になる箱ティッシュや携帯電話のホルダーや充電器、折り畳み傘やマスクなどごっそり隠しておけるので、本来のデザインを邪魔しないことも収納力が高いハイトワゴン車がもつ高い性能の一つだと思っている。 内装のトリムに関していえば、初代の方がトリムの内張りにクロスなども多かったのだが、90°開くことができるファミリーカーのドア...ということを実用目線で考えると拭きとりやすくシンプルなドアトリムにも理由があるように思える(現行のLA650に試乗した際もそう感じた)。 シートアレンジにも一工夫あり、超ロングスライドする助手席シートはハイバッグ部分が前方へと倒れてテーブルスペースに。 キッズがいる家族には重宝する機能であろうが、パック寿司やピザを車内で楽しみたい独身男性にも素晴らしい。 また、フラットになるシートとピラーレスのドアはあまりにも相性がいい。もちろん積載のしやすさもいうことが無いが、ドアを解放しての昼寝は格別だ。 デイキャンプ道具なしでも居心地の良い空間が作れる。 こんな雰囲気をどこかで見たことがある。 きっとそれはかつての東京モーターショーのダイハツブースで味わった感覚に近い。 街中で大量に見るタントも、実はコンセプトカーで描いた未来の姿そのものなんじゃないだろうか。 ここまでエンジン特性と、インテリアの使い方について述べた。 エンジンの特性も、まさに“はやい”になるのだが、使いやすくて動作がスムーズ。 これもまた”はやくてうまい”部分といえるのではないだろうか。 ■このお値段で味わえる至福のカーライフ 購入時、走行距離は79000キロだった。 手元に来たときは内装の汚れが酷く、おそらくコンビニのカップコーヒーを盛大にこぼしたであろう凄惨な汚れがシートにまき散らされていた。 筆者はクルマを購入後、まず洗車をしながらよく観察する。 もちろん買ったばかりの愛車が嬉しい!という気持ちもあるのだが、傷などのダメージやモール類の劣化具合など自分でどのくらい修復が可能かを眺める。 内装に関しても同様だ。 今回は掃除機をかけつつ、カーペットリンサーで座席のクリーニングも施した。 清掃を行っているとスライドドアやシートレールの隙間からは夥しい砂埃が出てきてなんとなく砂利駐車場に停めていたのかな?と想像出できる。 樹脂類はアーマーオールとシリコンルブを使って磨き、ガラスの内拭きは薬局で買える100円の純水でふきあげると奇麗に仕上がるので筆者的に重宝している。 数時間かけて洗車を行うと、買った当初は汚かった車内も、それなりに気持ちよく過ごせる車内となった。 なにより、奇麗になると新車当時とまでは言わないまでも、クルマ本来のデザインやコンセプトが掴みやすくなる気もする。 エクステリアのデザインは直線基調で細部のデザイン以外は水平基調だった初代に比べ、ドア断面などに豊かな立体が追加され始めクルマとしての軽快さが追加されている。 左側のリアのドアは電動スライド、右後ろはヒンジと、変則的な構造である。 個人的には運転席を降りてサッと開けるこの方式は理想的なのだが、子供たちとコミュニケーションをとるママさんドライバーの為には、運転席で開閉リクエストをしてドア開閉の力を要せずに開くことができる電動スライドドアの方が好まれるかもしれない。タントも3代目以降はそういった方式をとっている。 また、外装を眺めてハッキリと異なるのはリアのクオーターウインドウの形状だ。 初代はスクエアな形状で見切りよく作られていたが、2代目は丸くとられて車内から感じる光も柔らかく感じる。 筆者は激安の軽自動車を足にするようになってから都心と郊外をクルマ移動する機会がグンと増えた。 それまで、首都高に乗りボンヤリと防音壁の向こうに延々と続いていくビル群や住宅の屋根を見ながら走っていた。 最近では殆ど首都高に乗らず、少し家を早く出て下道で行き来するようになった。 断捨離だとか、豊かすぎる生活をあえて手離したつもりは無い。自分にとって軽自動車のスピード感で移動することの心地よさがすっかりフィットしてしまったのだ。 それどころか、裏道へとスイスイ入れて荷物も沢山入る。 燃費に関してはA4アバントの倍だ。 ちなみに車体価格は車検が半年ついて12.9万円。 ナンバープレートなどの諸費用やオイル交換を含めても14万円でおつりがくる。 iPhone14proやロードバイクより安いこのクルマを“やすい”と言わずしてなんという。 実は欲しい軽自動車はまだ沢山あり、どんなクルマで何をしてみようという妄想は膨らむばかりだ。 このタントならば車中泊もしてみたいし、カメラ機材を積んで長距離の旅行にも出かけてみたい。 そう考えさせてくれる余裕が生まれたのも、キャパシティ的にも経済的にも懐の広い低年式軽自動車のお陰ではなかろうか。 “趣味車”と一括りにしてもさまざまな切り口があるが、ここで“うまい・はやい・やすい”を軸にしたクルマ選びから大きな喜びを得てみるのはいかがだろうか? そのうち「これでいい...」ではなく「これがいい!」に想いがどんどん膨らんでしまうかもしれない。 [ライター・撮影/TUNA]
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