日本の技術が、世界のさまざまな課題を解決する力になる。そんな可能性を探るため、全国から集まった高専生たちが、国境を越えた学びに挑戦しました。


2026年8月31日から9月4日までの5日間、国立高等専門学校機構は、株式会社前川製作所の守谷工場で「KOSEN Global Camp in MAYEKAWA」を実施しました。日本人学生と外国人留学生ら計8名が参加し、冷凍・冷蔵技術を学びながら、タイやインド、ウガンダが抱える社会・産業課題の解決策を英語で考え、発表しました。


機械の仕組みを知るだけでなく、その技術を必要とする人々の暮らしや社会に目を向けること。そこには、教室での学習だけでは得られない発見があります。学生たちは5日間で何を学び、どのような答えを導き出したのでしょうか。世界を舞台にした若き技術者たちの挑戦と、その成長を支える取り組みを紹介します。


世界で活躍する技術者を育てる「KOSEN Global Camp」とは



「KOSEN Global Camp」は、国立高等専門学校機構が2023年度から実施している国際教育プログラムです。日本の高専生と外国人学生が、英語を使いながら一つの課題に向き合い、互いの知識や考え方を持ち寄って解決策を探ります。単に語学力を磨くだけでなく、異なる文化や価値観を持つ仲間と協力し、世界で活躍できる技術者を育てることを目指しています。


これまでに全国20の高専が開催校となり、延べ800名以上の学生が参加してきました。2026年度は全国6高専で実施され、年度内には累計参加者が1,000名を超える見込みです。こうした継続的な取り組みからは、専門技術の習得にとどまらず、国際的な視野を持つ人材を育てようとする姿勢がうかがえます。


今回の舞台となったのは、産業用の冷凍・冷蔵技術などを手がける株式会社前川製作所の守谷工場です。プログラムでは「Global Technical Marketing Challenge」をテーマに掲げ、全国から集まった8名の学生が国境を越えたチームを編成しました。工場での研修や実習を通じて技術への理解を深め、その知識を各国の社会・産業課題の解決にどう生かせるかを考えていきます。


特徴的なのは、技術を学ぶだけでなく、その価値を必要とする人に伝える視点も重視していることです。どれほど優れた技術でも、現地の課題に合った使い方を考え、相手に伝えられなければ十分に役立てることはできません。技術と人、そして国と国をつなぐ力を育むことも、このプログラムの大切な役割といえるでしょう。


工場で技術を体感 前川製作所で学んだ実践の3日間



8月31日、5日間にわたるプログラムがスタートしました。初日は国立高等専門学校機構の中島英治理事長からのメッセージに続き、オリエンテーションや交流活動を実施。参加学生たちは自己紹介や事前学習の成果共有を通じて互いの理解を深め、これから一緒に課題に取り組む仲間としての関係を築いていきました。国や文化、学んできた環境が異なる学生同士にとって、まず相手を知ることも大切な学びの一つです。



9月1日と2日は、前川製作所の守谷工場内にある「マエカワアカデミー」で本格的な研修が行われました。学生たちは、冷凍・冷蔵技術を支える仕組みについて講義で学んだ後、実際の機械を使った実習や製品・工場見学に参加。コンプレッサーと呼ばれる圧縮機の分解実習にも取り組み、機械の内部構造や働きについて理解を深めました。



研修では英語による授業も行われ、学生たちからは活発な質問が寄せられました。教科書で学んだ知識を実際の設備と結びつけながら、技術が産業の現場でどのように活用されているのかを知る機会となりました。普段の授業とは異なる環境で、企業が培ってきた技術に直接触れられることも、今回のプログラムならではの魅力です。



初日の交流から始まり、工場での講義や実習へ。学生たちはこの3日間で、仲間との協力関係を育みながら、最終発表に向けた知識を積み重ねました。ここで得た学びが、後半のプログラムでは世界各国の社会課題を考えるための土台となっていきます。


学んだ技術を世界へ 3か国の社会課題に挑んだ最終発表



プログラムも後半に入り、9月3日は最終発表に向けた準備が進められました。学生たちは、それまでに学んだ技術をどのように社会の課題解決につなげるかを考え、英語でのプレゼンテーション資料を作成。また、前川製作所で海外勤務を経験した社員による講話も行われ、異なる文化の中で働く難しさや、海外で事業を展開する際の考え方について学びました。


さらに、海外での営業経験を持つ社員から発表資料の作り方などについて助言を受け、提案内容をより具体的なものへと磨き上げていきました。優れた技術を持っているだけでは、世界の課題を解決することはできません。その技術がなぜ必要なのか、どのような価値を生み出せるのかを相手に伝えることも、技術者に求められる大切な力です。



そして迎えた9月4日の最終発表。学生たちは留学生の出身国・地域が抱える課題を取り上げ、前川製作所で学んだ冷凍・冷蔵技術などを活用した解決策を提案しました。テーマとなったのは、タイのデータセンターにおける電力消費の増大、インドの冷蔵倉庫におけるエネルギー効率の改善、ウガンダの水産物流で発生する食品ロスの削減という、3つの社会・産業課題です。


電力の効率的な利用から食品ロスの削減まで、向き合う課題は国によってさまざまです。日本で学んだ技術を、それぞれの国の事情に合わせてどう役立てるか。学生たちにとって今回の発表は、技術を知識として身につけるだけでなく、世界の現場で生かす方法を考える貴重な経験となりました。


技術だけではない、国境を越えた学びと学生たちの成長



5日間のプログラムを通じて、学生たちが得たものは冷凍・冷蔵技術の知識だけではありません。異なる文化や価値観を持つ仲間と協力する経験や、海外で働く技術者の生の声に触れたことも、大きな学びとなったようです。参加者から寄せられた感想には、今回の経験が将来への視野を広げるきっかけになったことがうかがえます。


仙台高専の電気電子系に所属する専攻科2年の学生は、海外勤務を経験した社員との交流が最も印象に残ったと振り返っています。現地の人々との関わり方や、試行錯誤しながら仕事を進めてきた経験を直接聞けたことが刺激になったようです。また、英語でのコミュニケーションに自信がついたことにも触れ、今後は国際的なコミュニティに積極的に参加し、さまざまな背景を持つ人々と交流していきたいという思いを語っています。


一方、鶴岡高専で機械系を学ぶ本科3年の留学生は、自国に役立つ冷凍技術を学ぶために参加しました。しかし、実際のプログラムでは工学の知識に加え、技術を社会に届けるためのマーケティングについても学ぶことができたといいます。高専の普段の授業では得られない学びが数多くあったことを振り返り、参加を迷っている学生にも挑戦を勧めています。


海外で働く技術者との交流に刺激を受けた学生もいれば、工学とマーケティングのつながりに新たな発見を得た学生もいました。同じプログラムに参加していても、心に残った経験はそれぞれ異なります。学生たちが持ち帰った気づきは、これからの学びや進路を考えるうえでも、大切な財産となっていくのではないでしょうか。


世界の課題に向き合う、次世代の技術者たちへ


日本の技術を学び、その可能性を世界の課題解決につなげていく。今回の「KOSEN Global Camp in MAYEKAWA」は、学生たちが技術者としての視野を広げるとともに、国境を越えて協力することの大切さを学ぶ5日間となりました。


技術がどれほど進歩しても、それを生かすのは人です。異なる文化や価値観を理解し、相手の立場に立って課題を考える力は、これからの社会でますます重要になっていくでしょう。国立高等専門学校機構が進めるこうした実践的な国際教育は、日本のものづくりを世界へとつなぐ人材を育てるうえでも、大きな意味を持つ取り組みといえそうです。


今回の経験を通じて得た知識や出会いが、学生たちのこれからの挑戦にどう生かされていくのか。日本の技術と若い世代の可能性が、世界のさまざまな場所で新たな価値を生み出していくことに期待が膨らみます。




独立行政法人国立高等専門学校機構 概要


独立行政法人国立高等専門学校機構は、全国51の国立高等専門学校を設置・運営し、社会や産業の発展を支える実践的な技術者の育成に取り組む組織です。中学校卒業後から5年間の一貫した専門教育を行い、実験や実習を重視したカリキュラムを通じて、高度な知識と技術を備えた人材を育成しています。日本のものづくりを支えるとともに、国際的な視野を持つ技術者の育成にも力を注いでいます。


公式サイト:https://www.kosen-k.go.jp/



情報提供元: ナイスコレクション
記事名:「 国立高等専門学校機構が育む世界への挑戦 日本の技術で社会課題に挑んだ高専生たちの5日間 」