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小林さんの愛車は、自身と同い年であるという日産の「スカイライン」、通称ケンメリ。製造から50年の月日が経っているのに、いまだにピカピカだ。デフォルトカラーはシルバーなのだけど、鮮やかなオレンジに3代前のオーナーがオールペンしたらしい。
現在、日本で登録されているのは10台未満という超レアカー。それもあって、街で少しでも停車したものなら、クルマ好きたちが続々と声をかけてくる。
「本当に、めちゃくちゃ話しかけられますね(笑)。そしてこのクルマは、小さい頃にプラモデルを作ってたくらい好きだったんです。いつか欲しいと思っていて、いまから5年前くらいにやっと見つかって。当時乗っていたクルマも大好きだったんですけど、いま買わなきゃ買えなくなると思って購入したんです」
ケンメリは小林さんの人生で8台目となるクルマ。これまで乗ってきたのはホンダの「N360」「S600」、日産「ブルーバード」のワゴンなどなど。そのラインナップは、どれも旧車ばかり。
「旧車って操ってる感があるし、走っているときに本当にいい音がするんですよ」
高速道路でエンジンを回せば、車内はキャブレターが空気を吸うブオーンという轟音に包まれて、後部座席の声なんて聞こえない。マニュアルだから手足はいつだって忙しい。不便に思う人もいるかもしれないけれど、旧車好きにとってはそれがたまらないのだ。
「あとね、普通は家族を持ったら便利なクルマに乗り換える人が多いと思うんですけど、うちは娘も妻も、旧車が好きなんです。だから乗れてるっていうのもあるんですよね。あと、ここまでずっと旧車に乗ってきたから、意地みたいなものもあるかもしれない(笑)」
小林さんの愛車は、半世紀も昔のクルマなのに故障はほぼない。5年間乗っていて、レッカー車を呼んだのは一度だけ。丁寧なメンテナンスの賜物なのだけど「電子制御された現代のクルマに対して旧車は作りがシンプルだから、壊れたところは一瞬でわかるんです」という。
それでは早速、街行く人の視線を浴びながら、小林さんの愛車に乗っていざ出発!
「昨日も娘から『父ちゃん、運転だけは上手いね』って褒められました(笑)」
その言葉通り、クセのある旧車を難なく乗りこなす小林さん。都内の渋滞を抜けたなら高速に乗り、長いストレートになった途端にギアを3速、4速とあげていく。この時点でもう、車内の会話は成立しないほどエンジンは爆音に。「この音を聞くとデトックスされるんですよ!」と車内で声を張り上げる。
そうこうしているうちに、最初のポイントへとピットイン。ここは小林さんが免許を取った10代の頃から通っている、アメリカのオートパーツ屋「ムーンアイズ」。駐車場には、ブリンブリンのアメ車が並ぶ。
小林さんの車内も「ムーンアイズ」のグッズで彩られている。ミラーも、フロアマットも、フットペダルも、シフトレバーの持ち手も「ムーンアイズ」のオリジナル。20年以上も前から使っているものも多数。
店内はというと、1階が雑貨やアパレル、2階がオートパーツ売り場になっていて、そのどこを見渡してもアメリカ!
「ムーンアイズ」は1950年の南カリフォルニアで創業し、日本にやってきたのは1986年。1991年から、ここ横浜市本牧で営業をスタート。戦後の本牧地区はアメリカ軍の居住地として存在し、ムーンアイズの店舗が建っている場所はかつて「Area-1」と呼ばれていた。そのため店名が「MOONEYES Area-1」となっているのだとか。そんな背景もあり、いまなお本牧はアメリカの香りが街に漂っている。
ちなみに、直営店はアメリカと同店のみなんだって。
「昔はココナッツ大好きだったな」と小林さんが手にとったのは紙製のエアーフレッシュナー。いまは、いろんなところで見かけるエアーフレッシュナーだけど、紙製のエアーフレッシュナーを日本国内で最初に取り扱ったのは、なにを隠そう「ムーンアイズ」! スタッフいわく、アメリカのクルマの匂いを連想させるのはバブルガムの香りとのこと。
オートパーツは汎用性の高いものが多く、国産、輸入車問わず、いろんな車体にフィットするものが並ぶ。アメリカから渡ってきた珍しいものも多いので要チェック。
この日、小林さんが購入したのは、クルマのアンテナにつけるボールと、アメリカのホームセンター「The Home Depot」のバケツの2点。「普通に買い物しちゃってすんません。いいもの見つかりました!」
やっぱり、40代以上はアメリカへの憧憬の念が強い。小林さんも例に漏れず、昔からアメリカに憧れ、通ってきたカルチャーもアメリカだらけ。音楽も、服も、クルマも、食べ物も。
ここは、本牧にあるダイナー「BOOGIE CAFE」。テキサスあたりのロードサイドにありそうな佇まいで、最高にかっこいい! 夜になるとネオンが輝き、一層素敵な雰囲気になる。提供されるメニューも、ザ・アメリカン。小林さんはこの辺に用事があるときは、よくランチで訪れる。
この日注文したのは、チョコレートシェイクにダブルチーズバーガー。店外に見えるクルマを眺めながら頬張っていく。
ほかのメニューも充実していて、ピザもめちゃくちゃおいしいし、ハワイ風に味付けされたチャウメン(焼きそば)はクセになる味。常連さんの中には、チャウメンしか食べない人もいるくらい。
サクッとランチを済ませたら、次はノスタルジックなあの場所へ!
途中、横浜の岸壁沿いも流しながら、そこから1時間弱クルマを走らせる。どんどん、田舎の雰囲気になっていく。
その先に現れたのが「中古タイヤ市場 相模原店」。目的はなにもタイヤではなく、そこに併設されている自販機コーナーだ。
「YouTubeか何かでみたことあって、ずっと来てみたかったんですよ。にしても、人がすごいですね!」
平日の、それも昼過ぎだというのに、近郊からやってきた人のクルマで駐車場はいっぱい。みんなのお目当ては、いまは滅多にお目にかかることのない、レトロな自販機の数々。「こんなの、あったよねー!」なんて声がそこかしこから聞こえてくる。たしかに、めちゃくちゃ懐かしい!
とりあえずコーラを買って(¥100)、ランチを食べたばかりだけど、試しにラーメンでも食べてみよう。お金を入れて1分待てば、熱々のラーメンができあがり。価格は驚きの300円。
「期待はしていなかったですけど、なかなかいけますね。特にスープは、本格的な出汁感もあるし。にしても、レトロですね〜」と小林さんも感慨深げ。
もともとは、タイヤ交換中のお客に暇をさせないよう設置された自販機たち。いまでは自販機目当てにやってくる人が多くなり、相模原の観光名所になっている。ラーメン以外にも、ハンバーガーだったり、サンドイッチがあったりと、ラインナップも豊富。近くを通った際はぜひ立ち寄りを。
最後の終着点は、映像作品のロケ地でも使われることがある純喫茶「カフェ・アンドリュース」。
「都内では見かけることがほとんどなくなりましたけど、地方にはまだまだ残っていますよね。私も家族旅行をしたときなんかに、妻とよく訪れるんです。内装なんかもいまでは考えられないほど豪華だったりして、それを見ているだけでも楽しいいんです」
ここも、古材がふんだんに使われていて、店にある調度品も目を見張るものばかり。壁や床も年季が入っていて味わい深い。コーヒーは、これまためずらしいサイフォンで淹れてくれる。
30年以上の歴史がある「カフェ・アンドリュース」。訪ねたときはちょうど、元気な御婦人や、コーヒーをすすりながら新聞を眺める紳士たちが席を埋める。地元の人たちにも愛されているお店なのだ。なんとも居心地がいい場所だった。
おいしいコーヒーを飲み終えたら、ワンデイドライブもこれにて終了。全工程の所要時間はおよそ7時間。小林さん、本日はいかがでしたか?
「改めて思ったんですけど、都内だと渋滞があったり信号も多くて気持ち良く走れないけど、神奈川に来るだけ本当にストレスない道が多くて、運転のしがいがあるなと感じましたね。そして海に街に工場も、いろんな景色があって飽きないんですよね。予想以上に楽しかったです」
「ルートもよかったから、リアルにドライブコースとして全然ありだなと。デートで使うのにもいい気がしますよね。いろいろと濃いスポットを巡って、最後に純喫茶で一息ついて『さぁ、帰ろうか』なんていいじゃないですか。ただ、さすがにおっさんがひとりで自販機のラーメン食べて、シェイクを飲むのは、寂しかったですけどね(笑)」
そうして分厚い雲を横目に、東名を爆音で走っていく。雷が光りはじめていたから雷鳴も轟いていたんだろうけど、ケンメリのエンジン音でまったく聞こえず。すべてをかき消すケンメリ、恐るべしです。
The post あの人と、あの愛車で行く、横浜&相模原ツアー【ワンデイドライブ #3】 first appeared on GO OUT.