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スズキから「スペーシアベース」なる新モデルが発売された。一見すると、スズキの軽自動車でもっとも売れているスーパーハイトワゴン「スペーシア」に追加された新グレードのように見えるが、スズキの中での立ち位置はまったく異なるブランニューモデルとなっている。はたして「スペーシアベース」とは、どういった背景から生まれたのだろうか。車両の詳細とともにお伝えしよう。
スズキといえば、言わずと知れた軽自動車のビッグブランドだ。実際問題、軽トラからスーパーハイトワゴン、さらにはSUVまでフルラインナップしている軽自動車メーカーはスズキとダイハツくらいしかない。本格オフローダーである「ジムニー」を用意している点において、スズキの軽ラインナップはもっとも充実しているといっても過言ではないだろう。
スズキの軽自動車のタイプ別構成比は次のようになっている(2021年1月~12月)
スーパーハイトワゴン:25.3% バン・トラック(商用車):24.7% SUV:24.0% ハイトワゴン:13.5% セダン:12.5%
数字からも明らかなように、実は商用車というのはスズキの軽自動車にとって重要なカテゴリーとなっているのだった。
しかして、スズキの軽商用車といえば1BOXの「エブリイ」とトラックの「キャリイ」という2車種によって構成されている(かつて用意されていたアルトのバンタイプは現行型で消滅している)。はたしてダイバーシティ(多様性)が進み、コロナ禍によって新しい生活スタイルも広がっている昨今において2車種でカバーしきれているのかは疑問だ。特に軽バンについては純粋な仕事クルマとしてではなく、車中泊などパーソナルユースでの使われ方が加速しているという実状もある。
そうした背景もあって、エブリイとキャリイですべての商用ニーズを満たすのは難しいであろうとスズキは考えた。
そこで3年ほど前に「商用プロジェクト」として6名の若手設計者が集められた。その活動は、実際に軽商用車ユーザーの困り事を解決するパーツの試作や車両の改良を行うという実験的なものだったという。そこで得られた知見や、スズキとしての軽商用車ラインナップのすき間を埋めるという視点から『ヒト・モノの両方を重視した軽バンがない』という結論に達したという。逆に言えば、パーソナルユース・多目的利用に対応した軽バンには商機があるといえる。
そうして生まれたのが、まったく新しい軽バン「スペーシア ベース」である。
外観や名前から、ユーザーにとってはスーパーハイトワゴン「スペーシア」の新グレードという風に見える。
しかし、スペーシアベースのチーフエンジニアを務めた伊藤二三男さんは、キャリイやエブリイも担当しているという。つまりスペーシアの派生モデルではなく、既存車種のリソースを利用して軽商用チームが生み出したニューモデルというわけなのだ。
ハードウェアについては、見ての通り基本的にスペーシアのボディをそのまま使っている。外観はスペーシアカスタムに近いもので、フロントグリルやドアミラーなどをブラックアウトしているのが違いだ。単純なブラックではなく、ブラックパールとしているのも見逃せない。リヤのクオーターウインドウはパネルでふさぐことでバンならではの道具感を強調している。このクオーターパネルに3本のビードを入れているのはスペーシアがもともと持っているモチーフを使ったもので、違和感なく商用仕様を表現しているポイントだ。
パワートレインについては、実績あるR06A型エンジンとCVTを組み合わせたもので、MT仕様は用意されない。
駆動方式はFFと4WDを設定、WLTCモードの燃費性能はFFが21.2km/L、4WDは19.9km/L。軽商用車で20km/Lを超える燃費性能を実現したのはスペーシアベースが初めてだ。なお、乗用モデルのスペーシアについては基本的にマイルドハイブリッド仕様となっているが、スペーシアベースはアイドリングストップ機構は持つものの、マイルドハイブリッドは廃した仕様となっている。
それにしても乗り込む瞬間からFFベースのプラットフォームになっているメリットを実感できる。
キャリイやエブリイは縦置きエンジンの上に運転席を置くキャブオーバースタイルと呼ばれるパッケージで、3.4mという軽自動車の限られた全長の中で荷室長を稼ぐには有利だが、座面が高いために乗降性に優れているとはいいがたい。しかしスペーシアベースはドアを開けて、そのまま腰を下ろすといった乗用車的な乗降性になっている。またテールゲートの開口地上高も510mmと低く、キャブオーバーの軽バンに比べて荷物が積みやすいのもメリットだ(エブリイのラゲッジ地上高は650mm)。
逆にデメリットとしては荷室が短くなってしまうこと。リヤシートを格納した2名乗車時での荷室長はエブリイバンであれば1910mmもあるが、スペーシアベースの荷室長は1250mmしかない。ただし、スペーシアベースについては後席をバン仕様の簡素なものとしているので、フラットで高さに余裕のある荷室としている。スペーシアベースの荷室高は1220mmで、これはエブリイバンの1240mmと大差ない。
こうして、商用仕様に造り込まれたラゲッジスペースを活かすのが、スペーシアベースに与えられた「マルチボード」だ。荷室を前後に区切る壁として立てて使えるほか、ラゲッジ壁面の凹みを利用することで上中下の3段階にセットすることができる。
上段にセットしたときはラゲッジ床面から430mmの高さとなるが、この状態は机のような使い方を想定している。後席の背もたれを畳むと、ちょうど椅子として使えるようにしているのと相まって、モバイルオフィスとして使いやすそうだ。アウトドアスポットでテレワークをするケースや、建築現場などでの打ち合わせとして活用することなどを想定したモードといえる。
ラゲッジ床面から290mmの高さとなる中段モードで想定されているのは移動販売のようなシーン。フロアにあぐらをかいた状態であればデスクとしても使いやすい高さなので、仕事や食事といった使い方も想像できる。なお、上段・中段にマルチボードをセットした際の耐荷重は12kgまでの設定となっている。
下段にセットすると、ラゲッジ床面とのすき間は165mm。これはラゲッジを上下に分割して利用することを想定したモードだが、停車時にフロントシートをフラットにすると車中泊モードを作り込むベースとしての活用も想定している。そのため、停車時にセットする専用の位置にラゲッジボードを合わせると最大荷重160kgまで耐えられるようになるという。
また前後分割モードでは、荷室を前805mm:後545mmにわけることができる。ビジネスシーンでも使いやすいが、805mmの方を犬などのペットスペースとして活用、545mmのほうにスーツケースを載せるなどして、ペットを連れてパートナーと旅行にいくようなシチュエーションでの使い勝手も良さそうだ。
まとめると、スペーシアベースは、スーパーハイトワゴンのパッケージを基本としつつ、多様性を考慮したラゲッジの使い勝手を実現した、新しいタイプの軽バンといえる。
乗用ベースということで、ルーフレールやプレミアムUV&IRカットガラス、キーレスプッシュスタートシステム、後席右側パワースライドドア、フルオートエアコン、チルトステアリング&運転席シートリフター、全車速対応アダプティブクルーズコントロールといったスズキの軽商用車としては初めてとなる機能を満載しているのも特徴だ。
さらにサイドエアバッグや運転席&助手席シートヒーター、スライドドアのロールサンシェードといった装備は、軽商用車全体で見ても初採用となる装備となる。
軽自動車税が乗用車の1万800円に対して、商用では5000円とリーズナブルなことから、パーソナルユースとして軽バンを考えているユーザーの中には、快適装備や先進運転支援システムなどの面で乗用系モデルに対して軽バンは見劣りするということをネガに感じて避けてきた向きにとって、スペーシアベースという選択肢は非常にバランスが取れたものといえるだろう。
そうした乗用ライクな部分というのはボディカラーの設定にも現われている。スペーシアベースに用意されるのは、デニムブルーメタリック、ピュアホワイトパール、ブルーイッシュブラックパール、アクティブイエロー、モスグレーメタリック(新色)の全5色。ホワイトやブラックがバンにありがちなソリッドではなくパール系となっているあたり、パーソナルユースを意識していることが明白だ。
誤解してほしくないのは、スペーシアベースは、従来のエブリイバンに変わるものではないということだ。
モノを運ぶというビジネスにおいて主流となるのはキャブオーバーの軽バンであることは大前提で、ヒト・モノの両方を重視した新しいスタイルの軽バンとして生まれたニューモデルである。
事実、スペーシアベースの販売目標は年間1万台となっている。エブリイシリーズの年間販売目標が8.4万台であることを考えると、ある意味ニッチ向けの商品企画といえる。とはいえ、スズキの軽ラインナップにおけるスキを埋めるモデルであることは疑う余地はなく、スズキの豊富な軽ラインナップがますます充実することはユーザーの選択肢が増えるという点において大いにメリットといえるだろう。
価格は139万4800〜166万7600円となっている。
スペーシアベースXF(自然吸気/2WD) 車両価格:154万7700円 全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm ホイールベース:2460mm 車両重量:870kg 排気量:658cc エンジン:直列3気筒DOHC 最高出力:52ps/6500rpm 最大トルク:60Nm/4000rpm 駆動方式:FF トランスミッション:CVT 燃料タンク容量:27L(レギュラー) WLTCモード燃費:21.2km/L タイヤサイズ:155/65R14 乗車定員:4名
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REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya) PHOTO:/中野幸次(NAKANO Koji)
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