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■温かい家庭を作り直せるかも
「僕は母ひとり子ひとりで育ったんです。母は必死で働いてくれたけど、男出入りも激しい人でね。今になると笑って話せますけど、10代のころはそんな母を嫌悪していました」
タクトさん(48歳)は、そんなふうに振り返る。高校を卒業して就職、その後、大学の二部に通って大卒扱いとなった苦労人だ。
「その大学で同級生だった彼女と結婚したのが26歳のとき。とにかく温かい自分の家庭を作りたかった」
ふたりの子にも恵まれたが、妻はどんどん強くなっていった。というより、もともと気性の激しい女性だったのが、タクトさんが見抜けなかったようだ。
「実は僕、つきあったのは妻が初めてなんです。だから他に恋愛経験もなく、母のようなタイプでなければいいという感じでした」
妻はしっかり者で、家事も育児も妻の言うとおりに動いた。それでもときに罵倒されもしたという。
「まったく、あんたはいつまでたっても掃除がヘタね、と言われたりして。子どもの前でオレをバカにしないでほしいと訴えてきたけど、妻は僕も子どもも、自分の思い通りにならないと気がすまないんですよね」
今年、上の子が成人式を迎えた。現在は大学生だ。下の子も来年は大学生になる。これで自分の親としての責任もほぼ果たしたかもしれないと一息ついたとき、仕事関係で離婚経験のある同年代の女性と知り合った。
「そして初めて、恋をしてしまったんです」
■日々、感情が乱れて
この春知り合い、夏頃からふたりで会うようになった。彼女のことを思うと胸がしぼられるように痛くてたまらず、病気を疑って検査してもらったこともあるそうだ。
「恋愛感情から来る痛みだったんですね。自分の気持ちをどうしたらいいかわからなくて。この年で恋をして胸が痛いなんて恥ずかしいんですが」
タクトさんは人のよさそうな笑みを浮かべた。今は彼女を失いたくない、彼女と自分のすべてをさらしたつきあいをしたいと思い、自分の人生を彼女に語った。
「そんなに何もかも正直に言ってくれるなんて、と彼女は泣いてくれました。僕は妻を悪く言うつもりはないし、妻がいたからなんとかやってこられたとも思っています。だけど結婚して20年を超えて、この先を考えたとき、妻とふたりきりでは自分が自分らしくいられない。そう思うようになったんです。彼女となんとか人生をやり直せないか。そればかり考えています」
彼女は彼が離婚することには賛成も反対もしていないという。子どもがふたりとも大学を出たら、そのとき考えようとも言ってくれている。
「人生をやり直したい。とにかく今はそう願っています。ただ、一方で妻を裏切っていることはわかっている。せめて彼女との関係がバレないように慎重にするしかないんですが」
幸い、彼女は離婚したときにもらったマンションがある。彼が財産分与でたくさんのものを失っても「身ひとつで来てもいい」と言ってくれているそうだ。人生をやり直す基盤はできている。
「あとは妻が離婚に応じてくれるのか。僕自身が、離婚という重荷に耐えられるのか。そのあたりがネックになりそうです。この年で人生をやり直したいと思うのが間違っているのかなと不安になることもあって」