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■ある日、突然、「離婚したい」と言われて
「妻は若いころから変わった人でした。でもここまで変わっているとは思わなかった」
苦笑しながらそう言うのは、タカトシさん(45歳)だ。学生時代からつきあっていた妻とは26歳で結婚した。
「結婚はもうちょっと経ってからでもいいかと思っていたんですが、子どもができたのですぐに婚姻届を出しました。結婚するなら彼女しかいないと思っていたので」
彼女は美術大学を出て、絵やイラストを描いたり、ヨガのインストラクターをしたりしていた。ひとつのことをじっくりやるタイプではなかったという。
「妊娠してから、急にスナックで働き始めたこともありました。変わった女性だけど、そこが魅力でもあったんです」
長男が産まれてからは、急に「いいお母さん」になった。子育てが楽しくてしかたがないと、子どもが小学校に入るまではほとんど仕事をしなかった。
「僕が一応、安定した会社員なので、裕福ではないけど何とか暮らしていました。彼女は毎日、喜々として息子の成長を話してくれるんです。本当に子どもといるのが楽しいんだなと思って、僕もまだ男の育休なんて言われてない時代に、1ヶ月だけ育休をとったんですよ。会社が始まって以来だと言われました。確かに子どもと一緒の毎日は楽しかったですね」
子どもが学校にあがってから、妻は猛烈に働き始めた。息子に対しては完全に「ひとりの人間」として扱っていたという。
「自主性を育てるとよく言ってました。それが原因なのか、息子は高校時代にアメリカに行っちゃって、大学も向こうでと言っています」
そんな中、この春、妻がいきなり離婚を切り出してきたのだ。ある日突然のできことだった。
■理由がわからず、とまどうばかり…
まさに青天の霹靂だった。息子がいなくなってからは、夫婦で仲良くやってきたからだ。
「僕は妻のやることには干渉しないし、彼女は自由に好きなことをやっている。彼女の奔放さが好きなんですよ、僕。それなのに離婚ってなんだよと思いました」
理由を尋ねた彼に、妻は言った。
「飽きちゃったの」
飽きちゃったってどういうことなのかと彼は尋ねた。
「すると妻は、うーんとしばらく考えてから、『あなたに飽きた、人生にも飽きた』って。精神状態が不安定なのかなと思ったんですが、どうもそうではないらしい。『考えてみてよ、同じ暮らしを20年も続けているのよ、飽きて当然でしょう』と言われてもぴんと来ない。だってそれが生活というものでしょ。でもどうやら彼女は、生活すべてを心機一転したいらしい。別人の人生を歩みたいって」
彼は頑として離婚には応じないと言った。なぜなら妻を愛しているから。それを聞いて、妻は荷物をまとめて出て行った。
「ときどき連絡はとりあっています。でも彼女がどこにいるのか何をしているのかはまったくわからない。聞いても話してくれません。いつか戻る気があるのかどうかもわからない。息子には連絡しているようですね。息子が『あの人は何をするかわからないから』と笑っていました。まあ、僕も気長に待っていようと思っています。それしか方法がないから」
結婚生活を脱して、たったひとりで生きてみたい。その気持ちをわかる女性はいるかもしれない。だが実行に移すのは勇気がいる。ただ、残されたタカトシさんも、焦らず怒らずなのだから、案外、変わった人なのかもしれない。