■夫の荷物に見つけた「過去の宝物」



 



40代になって、夢のマイホームを購入したジュンコさん(42歳)。同い年の夫と結婚して12年、ふたりで子育てをしながら一生懸命、働いて、ようやく家を手にした。





「引っ越ししても、夫はなかなか荷物を片づけなくて。少し時間があったから、せめてダンボールから出しておこうと夫の荷物に手をつけたんです」





そこで見つけたのが、小さめのダンボール箱に入った「思い出」の数々だった。子どもの頃の卒業アルバムや文集などはまったくないのに、遠足のときに拾ってきた石や、自分が描いた家族の絵などがあり、形にとらわれない夫らしいと彼女はほほえましく思ったという。





「その中に、さらに小さな箱がひとつあって……。いけないような気はしたんですが、開けてみたんです。独身時代の恋人との思い出でした。彼女の写真、彼女からもらったらしいライターやペンなどがきちんと整理されていました。この人だけは特別だったんだなということがわかるような感じ」





独身時代の夫の恋については、結婚するとき少しだけ聞いたことがある。だが夫は、「普通の男と同じだよ。20代に2,3人とつきあったけど、結局、うまくいかなかった。だから君とこうなったんだろ」と笑ったという。そこに隠しごとがあるようには思えなかった。





「ただ、その宝箱の彼女とは、相当に深い関係だったんだろうなと思えて。一緒に旅行したときの航空券の半券もあった。決定的だったのは、半紙の中に一束の髪の毛が大事に包まれていたこと。そんな大量ではありません。お守りのように持っていたものではないかと思うんですが、恋人の髪の毛を持ち歩き、あげく今も保管してるってどういうことかな、と」





ちょっと気持ちが悪かったとジュンコさんは言う。



 



 



■問いただすことができなくて



 



男性に髪の毛を切って渡したことのある女性はどのくらいいるのだろうか。少なくとも身の回りではあまり聞かない。気持ちが悪かったという彼女の言葉も納得できる。





「箱に入れたまま忘れていたのかもしれないし、ときおり眺めていたのかもしれない。夫とはずっとうまくいっていると思っていたけど、私の知らない夫がその箱の中にいた。そんな気持ちでした。もちろん私と知り合う前の話だから、何も言いようがないんですが」





それでも、気にはなる。聞いてみようと思いながら、箱を見たことへの後ろめたさもあって、彼女は引っ越して半年たつ今も言えずにいる。





「気にしなければいいんだと自分に言い聞かせているけれど、言い聞かせている時点で気にしているということなんですよね」





それとなく聞いてみる話でもない。そのダンボールは夫婦が寝室にしている部屋の物入れいちばん奥深くにしまい込んだ。夫は「あのダンボール、どうした?」とも聞かないそうだ。夫自身がもう忘れているものなのかもしれない。





「今の生活が大事だから、もう10年以上一緒に生活しているのだから、彼は過去に縛られてはいない。そう信じたいと思っています」





それでも時折、物入れの奥が心にひっかかる。夫にとっても自分と同じように、家族の存在が重くて大切なものであると願いながら。





ジュンコさん自身、独身時代につきあっていた人との思い出の品などはまったく持っていないという。だからこそ、そういうものを詰めた箱があること自体、「私の知らない夫がいる」と思ってしまうのだろう。個人差なのか性差なのかはわからないけれど。


情報提供元: citrus
記事名:「 「なぜ夫は昔の女との思い出の品をもっているのか?」問いただすことはできない妻の心情