- 週間ランキング
フォルクスワーゲン(VW)ビートルと言えば、単一車種累計生産台数2152万9464台という世界一の記録を保持する名車。ところがその流れを受け継ぐザ・ビートルが後継車を迎えないまま販売終了となり、長い系譜に終止符を打つことになった。
ザ・ビートルはなぜ幕引きせざるを得なかったのか。同じようにかつてのベーシックカーをリバイバルさせ成功に結びつけたミニやフィアット500と比較すると分かりやすい。
ミニはBMWのもとで生まれ変わった。BMWはミニをプレミアムブランドと位置づけ、BMWの中の1車種とはせず独自のブランドとした。おかげでクラブマンやクロスオーバーなど幅広いバリエーションを持つに至った。500はフィアットブランドのままだったが、こちらもプレミアム性を持たせたうえで500Xなどを追加し、ブランドを象徴する存在に位置づけていった。
しかし1998年発表のビートルの復活版ニュービートルは、メキシコ製ということが関係してかプレミアムモデルとはならず、日本ではむしろ同じエンジンを積むVWの基幹車種ゴルフより安いぐらいだった。しかも独立したブランドを与えられたミニ、フィアットの中心車種に位置付けられた500とは対照的に、VWの基幹車種はゴルフのままで、主役の座は与えられなかった。
ゆえにバリエーションは、2011年に登場した現行型ザ・ビートルを含めて、ベースモデル以外はコンバーチブルだけ。ミニや500にはある5ドアのクロスオーバータイプなどは生まれなかった。
世界的に2ドア/3ドア離れが進んでおり、VWで言えば日本でも一時期販売していたシロッコは今はなく、スポーツカーのアウディTTやメルセデス・ベンツSLCは販売終了を発表した。2台のライバルであるBMW Z4は、トヨタ・スープラとの共同開発がなければ存続は厳しかったという。そんなご時世に2/3ドアだけというのは無理があったと言えるだろう。
現にミニや500は3ドアが小さかったこともあり、ひとまわり大きな5ドアのクロスオーバーや500Xなどを次々に用意し、販売台数が少ない3ドアをアイコンとして存続させることができている。
しかもミニや500を含めて、クルマの立ち位置は実用車だったクラシック時代とは違い、「愛されキャラ」である。ビートルの復活版も、ニュービートルは愛されキャラを目指していた。ところがザ・ビートルはその立ち位置にふさわしいクルマとは言えなかった。
ザ・ビートル日本発表時のプレスリリースを見ると、ニュービートルの後継車という表現はなく、クルマがもたらす楽しい生活を提供するとしつつ、そのためにVWの最新テクノロジーを満載したと記してある。
試乗すると、それはビートルの形をしたゴルフに感じた。ミニが上下動の目立つ乗り心地をゴーカートフィールという言葉で許容したり、500が滑らかさとは対極にあるツインエアエンジンを投入したりして、ドライバーに刺激を届けてくれるのに対し、ザ・ビートルのエンジニアリングはゴルフ同様、ひたすらいいクルマを目指しているという印象を抱いた。
ニュービートルでは奥行きの長いインパネと対照的に狭い後席など、パッケージングに不満が上がった。ザ・ビートルではその点がしっかり改善されていたけれど、多少の突っ込みどころがあるほうが愛されキャラとしては大事ではないかという気がする。
ただこれでビートルの復活の道までが閉ざされてしまったわけではない。VWは電気自動車(EV)の新車種について、タイプ2やデューンバギーなど、クラシックビートルと同じ空冷時代の車種のモチーフを活用しようとしているからだ。ビートルの優しい顔つきやフォルムはEVに合っていると思うので、ぜひこの路線に混ぜてほしい。もちろん今度は愛されキャラ全開で。