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客と客との間で会話が発生するように仕向けると、従業員(=店員)の評価がアップする立ち飲みチェーンがあるという。そんなことが「企業戦略に特化したビジネス情報サイト」を謳う『ITmediaビジネスONLINE』に書いてあった。
冒頭の人事評価制度を導入しているのは、『光フードサービス』(愛知県名古屋市)が展開している立ち飲み型の居酒屋チェーン『立呑み焼きとん大黒』。こうして客と店員との強固なコミュニティーをつくりあげた結果、既存店売上高は60ヶ月連続で伸び続けている……らしい。そのコミュニケーション術の一例は、以下のとおり。
店員「これ、今月の新メニューですが、いかがですか? そういえば、お隣にいるAさんはすでに召し上がりましたよね。お味はどうでしたか?」
客A「結構、いけましたよ」
客B「そうなんですね。じゃあ、私も注文してみようかな」(と、見知らぬ同士の客Aと客Bとの会話が成立する)
まさにユーザー側にとっては、至れり尽くせりの素晴らしい接客スタイルではないか。ただ、いっぽうで、独りぽつんとカウンター席で焼きとりだか焼きとんだかの串をくわえ、店内に設置されたテレビで流れている巨人戦を眺めながら静かに飲んでいるお客さんが、店員さんからあーだこーだ言われたり、挙げ句の果てには隣の知らない人とのマッチングまでされてしまった日には、どうなんだろう? ありがた迷惑でしかないのでは……なんて懸念もなくはない。
昨今、恵比寿だとか中目黒だとか六本木だとかのお洒落スポットですら、いわゆる横丁系立ち飲みタイプのお店は続々とオープンしている。もはや説明するまでもなく、「リーズナブルな価格」「雑然としたレトロな雰囲気」……などに加え、なによりも「客同士(=酔っ払い同士)がすぐに仲良くなれる」のが、その人気の秘密ではあるのだけれど、たとえば、せっかくチームメイトとサシで野球談義に花を咲かせたかったのに、となりのオッサンや店員さんが、ズカズカと入ってきて話のコシを折られるのがうっとおしい場合も、稀にあったりする。メリットがそのままデメリットにも直結する典型的なパターンである。
「そーいうまったりトークモードのときは、そーいうお店には行きなさんな」と言われてしまえばそれまでなんだが、こーいうやさぐれた空気に包まれてこそ、こーいうトークが盛り上がるのも、また事実──やはり、店側と客、それに客と客とのふれ合いまでをマニュアル化してしまう、まるでAIロボットのような接客は「親切すぎ」「おせっかいすぎ」だと、私には思えてしまう。
私は立ち飲みしたいなら、「立ち飲み“風”にアレンジしたイマドキっぽいお店」ではなく「昔からあったガチの立ち飲み屋」に足を運ぶ。大将も店員も無愛想。何度も通わなければ、そう簡単に話しかけてきてもくれない。客同士仲良くするなら勝手にどうぞ……。しかし、サービス精神が徹底的に欠如した、その「ほったらかし」状態が、逆に心地良い。小粋なバーは、客が“ボッチ飲み”したいときはそっとしてくれ、男女の客がおたがい淋しそうに飲んでいたら、さり気なくカップリングを図ってくれる……。そのタイミングは、老舗ならではの経験から得た直感によってさじ加減される。「放置」もまた、高度なテクニックを要する、立派な接客のスタイルなのだ。