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三菱自動車工業のミニバン「デリカD:5(ディーファイブ)」が、マイナーチェンジでクロームメッキを多用した巨大なグリルを掲げて話題になっている。ただ日本のミニバンのフロントマスクを見ると、上はトヨタ自動車の「アルファード」「ヴェルファイア」から下は軽自動車ハイトワゴンのカスタムシリーズまで、ギラギラした顔つきのクルマが多い。
なぜ日本のミニバンはこのようなフロントマスクが多くなったのか。個人的には長い歴史の中でこうなったと考えている。
その昔、ギラギラ系の顔は米国車の得意技だった。特に第2次世界大戦直後のゼネラルモーターズ(GM)の上級ブランド、ビュイックは、太いクロームメッキの格子を歯のように縦に並べており、欧州のクルマ好きからは「ドルの笑い」と揶揄されていた。
その後も米国車は車体後部に飛行機の羽根のようなテールフィンを生やすなど、さまざまな装飾を取り入れており、1970年代のオイルショックを契機に小型化が進むまでは派手な演出が主流だった。
日本車もかつては米国車の影響を強く受けただけあって、似たようなデザインを取り入れることが多かった。特にトヨタの「クラウン」に代表される高級車はその傾向が強く、クロームメッキを多用した大きなグリルを据えるのが慣例になっていた。
■日本独自のミニバンには“お手本”がなかった
しかし21世紀に入ると、世界のクルマづくりのベンチマークはドイツ車になる。GMのキャデラックすらメルセデス・ベンツやBMW、アウディなどを参考に装飾を抑え目にするほど。クラウンに代表される日本の高級車もきらびやかさを抑え、スポーティさを強調しつつある。
そんな頃に人気を高めていったのがミニバンだった。日本のミニバンは当初は商用車のワンボックスカーがルーツで、安全性能や走行性能の追求から運転席下に置いていたエンジンを前に出し、エンジンを横置きした前輪駆動ベースとすることで居住性能も高めていった。
これが多くのファミリー層に受け入れられ現在に至っているわけだが、アルファードやヴェルファイアに代表される大型の車種が登場すると、政治家や芸能人が乗り降りのしやすさや室内空間の広さからセダン代わりに乗るようになった。それが一般ユーザーにも広まるにつれ、豪華な見た目を欲する人が多くなる。
この大きくて四角いミニバンは日本独自のカテゴリーだった。欧州車ではメルセデスやフォルクスワーゲン(VW)などが似たような車種を持っているが、主に送迎用であり、マイカーとしての需要はほとんどない。だから商用車のように機能重視のシンプルな造形に仕立てている。
ミニバンの生みの親である米国には、かつてはスマートなスタイリングをまとう乗用車的なミニバンが存在したが、21世紀に入るとSUV人気に押され、ほとんど消滅してしまい、欧州同様送迎用などに使う箱型のみが残った。
欧米にお手本があれば、セダンのようにそれに準じたかもしれない。しかしミニバンにはお手本がなかった。ゆえに高級セダンに負けない華やかな見た目を与えるという、独自の進化を果たしていったのではないかと思っている。
さらに言えば、多くの日本人はこのカテゴリーを自動車というより、屋敷や御殿と考えているのではないかという気がしている。もともと走りについては多くを望まないこともあるが、世界遺産や国宝などに指定されている城や寺院の華やかさに通じる雰囲気を感じるからだ。
これは日本人独自のものではなく、アジアに共通する価値観ではないかと思っている。そう思う根拠として、アジアではアルファード/ヴェルファイアは人気があり、日本よりはるかに高価であるにもかかわらず、引く手あまたの状態だという。
それに欧州車でも、最近は大きなグリルを据えた車種がある。代表例がBMWが発表した大型SUVのX7と大型セダン7シリーズのマイナーチェンジモデルだろう。どちらも北米やアジアをメインマーケットとしているようで、7シリーズはグリルを旧型より40%も拡大しており、欧州びいきのジャーナリストもホメるのに困っているようだ。