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「バンドじゃなくてもいいんだ。一人でも。ギター持って大声で歌いたい!」(「たそがれたかこ」入江喜和著/講談社刊より)※1
ままならぬ日々を生きる45歳の主人公・たかこのセリフである。娘の不登校に悩み、年下の少年への恋に揺れ、いっぱいいっぱいだった彼女を救ったのは、あるロックバンドとの出会いだった。ギター持って大声で歌いたい!
でも実際、“いい大人”がロックに手を伸ばしたら、「年がいもなく」と笑われてしまうのではないか……?
■生徒の大半は30代以上!?
「そんなことはありません。僕らの教室には50代の方もいれば、30~40代の方もいます。“ロックを習うのは10~20代の若者”というイメージがあるかもしれませんが、教室全体では半数が30代以上の方です」
こう語るのは、音楽スクール「オトノミチシルベ」で講師を務めるベーシストの金沢祐介さんとギタリストの村木数典さんだ。現役のプロミュージシャンでもある彼らに、昨今の“大人のロック習いごと事情”を伺った。
■先生に借りた楽器に胸ときめく!!
――先生のステージを見て、「この人に習いたい!」というのはアリですか?
「はい(笑)講師の演奏動画をご覧になって、“この人に習いたい!”とリクエストされる方もいますよ」(金沢)
――“たかこ”のように、「何もわからないけど、やってみたい!」でも大丈夫?
「大丈夫です。本当にざっくりと、普段よく聴く曲や、ジャンルのお話などをしながら、“これから好きなものを見つけていきましょう”と提案させていただいたりしています」(村木)
――好きな先生と個人レッスンなんて、それだけでアガります! 最初は手ぶらでもOK?
「すでに楽器をお持ちの方にはご持参いただきますが、お持ちでない場合はスタジオでレンタルします。ただ、レンタル品はあまり整備されていないことも多いので、生徒さんには講師の楽器をお貸しします」(金沢)
――えっ! 先生のを貸してくださるんですか!? なんか、憧れの先輩の楽器を借りるようなときめきが……。
■マッチングバンドという運命
――ところで、個人レッスンだと他の生徒さんと交流はないですか?
「ありますよ! さまざまなイベントがあるんですが、たとえば参加者を一同に集めてマッチングし、即席のバンドを組んでもらうこともあります。年齢関係なくごちゃまぜになるので新鮮な出会いがありますし、“あぶれる”こともありません」(村木)
「みんなで2~3ヵ月一緒に練習して、基本的にはそこで終わりなんですが、“なんか、このバンドいいね! このままやろう!”となる方たちもいます」(金沢)
――素敵な先生にときめいた上、マッチングバンドで運命の出会いがあるかもしれない!
「そうですね。バンドを集めるのは僕たちでも大変なので、いい機会だと思います」(金沢)
――がぜんヤル気に! では、はじめての楽器選びはどうしたらいいですか?
「長く続けるつもりなら、予算ぎりぎりか少しオーバーするくらいのものを勧めます。3万円くらいの“入門セット”を買うならもう少し出して、自分に合ったセッティングができるものにしたほうがいいですよ」(金沢)
「僕は完全に“見た目で選ぶ派”です。楽器屋さんに行ってばーっと見て、“コレ!”と目にとまったものを買う。そういうほうが絶対いいんです!」(村木)
■私は先生を困らせているかもしれない……
――楽器も買ったし、いざレッスン! でも大人が挫折しそうなことってありますか?
「やっぱり仕事との兼ね合いや、練習時間がとれないことでしょうか。それを気にされて“先生を困らせてるんじゃ……”と思われる方もいますね。でも、こちらから見ると全然そんなことないですから」(村木)
「仕事の悩みも聞きますし、生徒さんに“ライブ動画を観ましょう!”と誘われたら一緒に観ます。1時間まるまる音楽談義をしたり、楽器選びにもお付き合いしますよ」※2(金沢)
――いたれりつくせり! “技術を習得する場”としてだけでなく、“安らぎの空間”として見てもいいんですね。
「そう思います。たとえば美容室で髪を切るだけでなく、悩みを吐きだしてスッキリすることってありますよね。ああいうふうに、“好きにおしゃべりして楽器も習える場”くらいに思ってもらえたらいいなと」(金沢)
――ハキハキと導いてくれる金沢先生と、おだやかに包み込んでくれる村木先生ですが、お二人は旧知の友人どうしで、バンド仲間でもあるとか。
「僕はCharさんが好きで、〝この人になりたい〟と思ってギターを始めました。最初は、バンドをやろうとは考えていなかったんですよ」(村木)
「僕は“バンドやったらモテるかな?”って(笑)。出会ったころの村木は“ジェフ・ベックが好きー!”って言ってて、でも僕は“Janne Da Arcが好きー!”って。全然タイプが違いましたね」(金沢)
「僕からしたら、“Janne Da Arcって何それ?”みたいな(笑)」(村木)
「そんな二人がだんだん重なっていって、こうなった感じです(笑)」(金沢)
〝たかこ〟がそうだったように、ステージでのお二人に魅せられて楽器を手にする人も多そう。しゃかりきにカリキュラムをこなすのでなく、思いがけない出会いを楽しんだり、レッスンで癒やされながらキレイになる――。
そんな“良いゆるさ”こそ、現代の“習いごと”に求められる妙味なのかもしれない。
※1)「たそがれたかこ」は、「このマンガがすごい!2018」オンナ編4位入選作。
※2)レッスン内容は、生徒の希望によって柔軟に構成する。