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本連載では、ささやきレポーターの貴重なレポートをヒントにタツノコプロの歴史をひも解いていく。今回語られているのは『マッハGoGoGo』や『科学忍者隊ガッチャマン』といったリアル路線と並びタツノコプロの得意とした、本格ギャグ路線の第1作『おらぁグズラだど』だ。しかし、ここにもアニメ草創期ならではのいくつもの事件とドラマがあった。さっそく、ささやきレポーターの報告を聞いてみよう。
タツノコプロのリアル路線が走り出してから6ケ月後、今度は、本格ギャグ路線が放送された。
S監督が漫画家時代に週刊雑誌に掲載した「オンボロ怪獣クズラ」のアニメ化だ。放送されるまで、他社に知られないようにと秘密で制作していたのだ。
そのため社内では「クズラ」ではなく「グズラ」という偽名タイトルを付けていた。この作戦は、あくまでも放送が決まるまでの筈だったが、「グズラ、グズラ」と話しているうちに、「クズラ」より「グズラ」の方が親しみが有り、言いやすいということに成ってしまった。
放送時の正式タイトルは「おらぁグズラだど」と、なったのだ。
予想どうり、他社からも同時期にギャグものの怪獣アニメが発表されて、某新聞には、グズラの写真に他社の怪獣の名前で発表されていた。偶然のミスだと思われるが、秘密の作戦はあんまり役にはたたなかった訳だ。
声優には、外画テレビ「スーパーマン」役の美声で人気のあった、故・大平透さんに「グズラ」を演じてもらい、ギャグ怪獣に相応しいキャラクターが完成した。
大平透さんには、その後のタツノコアニメに多く関わって(ハクション大魔王や、ガッチャマンの南部博士等)もらったが、どんなキャラクターにでも、挑戦してくださる姿には、タツノコのスタッフ一同、声優魂の凄さに感動した。
「ええっ?、グズラの声と南部博士の声って同じ声優さん?」・・って驚く人も多く、これって「まさか?」の話の一つかも。
文・イラスト:ささやきレポーター(笹川ひろし)
1963年1月、本格的なテレビアニメシリーズ『鉄腕アトム』の放送がスタートした。制作スタジオは虫プロだ。63年秋には早くも東映動画(現東映アニメーション)が『狼少年ケン』でテレビアニメに参戦、さらにTCJ(現エイケン)もこの時期に『鉄人28号』『エイトマン』を制作している。1964年には現在のトムス・エンタテイメントにつながる東京ムービーがテレビアニメ『ビッグX』を制作。短期間で主力スタジオが次々に立ち上がった。
第1作の『宇宙エース』が1965年とやや遅れたが、その独創性を武器に人気作品を生みだすスタジオのひとつとなったのがタツノコプロである。
当時は漫画が大人気。そして「漫画だけでなく、絵をテレビでアニメで動かしたい」と、多くの才能が夢を実現しようとした。急速に普及したテレビの視聴者もエンタテイメントいっぱいのアニメを望んだのだ。
テレビアニメの作品数は63年には6本だったが、64年には9本、65年には19本とあっという間に増え、『おらぁグズラだど』が放送された67年には早くも27本に達する。(日本動画協会「アニメ産業レポート」より)
当時も放送局同士の視聴率競争は激烈だ。各局から看板番組として期待されるアニメは、人気獲得を目指してしのぎを削る。タツノコプロが『おらぁグズラだど』の企画・制作を極秘にした理由である。
アニメを創りだす重要な役割に声優がある。しかし1960年代、テレビアニメが始まったばかりの頃には、そもそもアニメ声優の職業は確立していなかった。俳優や洋画吹き替え、アナウンサーで活躍していた才能が、アニメの声を担当することになる。声優の仕事はかくして開拓されていった。
テレビアニメ草創期の声優を代表する存在が、『おらぁグズラだど』でグズラ役を演じた大平透だ。 大平も当初はアナウンサーとして活躍し、当時の声の代表的な仕事は『スーパーマン』の主役と恰好のいいキャラクターだった。コミカルなグズラ役のキャスティングを承諾したのは、本人にとって大胆な決断だったに違いない。
大平透さんには、その後のタツノコアニメに多く関わって(ハクション大魔王や、ガッチャマンの南部博士等)もらったが、どんなキャラクターにでも、挑戦してくださる姿には、タツノコのスタッフ一同、声優魂の凄さに感動した
大平は2016年に惜しくも世を去った。その間、ささやきレポーターが綴ったように、どんなキャラクターにも挑戦し多才な芸歴を残した。『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造役はあまりにも有名。アニメ以外でも「スター・ウォーズ」シリーズのダース・ベイダー役、宇宙刑事シリーズのナレーターなどがある。
まさに南部博士とハクション大魔王をともに演じたところに芸の広さが現れている。大平透の幅の広さと、タツノコプロ作品の幅の広さが、絶妙に噛み合ったとも言えそうだ。
実際にタツノコプロの作品の幅は広い。『宇宙エース』でSF、『マッハGoGoGo』でカーアクション、第3作では『おらぁグズラだど』でギャグ路線に転じる。その後も『紅三四郎』では格闘技、『昆虫物語 みなしごハッチ』では親子の愛情を描く。
なかでもスタジオのクリエイティブにフィットしたSFアクション路線とギャグ路線のふたつが、タツノコのカラーになっていく。シリアス路線には『新造人間キャシャーン』といった硬派なSFストーリーも登場。かたやギャグ路線では『いなかっぺ大将』が大ヒットする。
一見異なるシリアスとギャグは裏表、そのメリハリがクリエイティブを豊かにしたのだ。さらにそれは、タイムボカンシリーズや『未来警察ウラシマン』のように、ひとつの作品のなかに流れこみ、シリアスとギャグを兼ね備えた傑作も生まれた。
そしてシリアス路線、ギャグ路線ともに共通するのが、やはり原作から開発するスタジオのオリジナルが中心だったことだ。前回の連載で紹介したように、練りに練った企画、そして視聴者に支持を受けた作品は、普遍的な力を持ち続ける。
早い段階からシリーズ化された『科学忍者隊ガッチャマン』『タイムボカン』だけでなく、『マッハGoGoGo』『昆虫物語 みなしごハッチ』『新造人間キャシャーン』『宇宙の騎士テッカマン』、中心となるコンセプトを受け継ぎつつ新しいかたちで世に送り出された作品は枚挙にいとまがない。
今回はギャグアニメ第1作の『おらぁグズラだど』を紹介したが、次回はギャグ路線を引き継いださらなるタツノコ作品が登場予定。どんなレポートが登場するのか。お楽しみに。
つづく
第二回:ついにアニメ制作。それは冷房もない社屋で始まった(1965年)
第三回:泊まり込み! 合宿形式の企画会議を敢行(1966年)
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