お正月の楽しみといえばお雑煮。いつも食べているお雑煮の餅の形は丸餅? 切り餅?? 具材は何が入っていますか。関東と関西でお雑煮に違いがあることは有名ですが、実はもっと細かく分かれているのだとか。地域によって内容が全く異なるお雑煮。その理由や代表的なお雑煮について、株式会社お雑煮やさん代表・粕谷浩子さんに教えてもらいます。


お雑煮は地域によって内容が違う

毎年お正月に食べるお雑煮は、どの地域に住んでいる人にも定番の味があるはず。ですが、自分の地域の"定番"は他の地域の人からすれば"非定番"であることも。著書「お雑煮マニアックス」にてその内容を紹介している粕谷さんは、「一般的にはお雑煮の違いを関東・関西で大きく区分けして説明しがちですが、本当は各地域によってバラバラ。47都道府県ごとに違い、また各都道府県内でも地域や家庭によって異なるお雑煮を食べています」と言います。

お雑煮の歴史

お雑煮はもともと公家料理

お正月に食べられているお雑煮ですが、その歴史はご存知でしょうか。お雑煮の発祥は公家文化に由来すると言われており、餅つきをした後に餅を丸めて食べていたことから、元々は丸餅が主流でした。当時のお雑煮は公家が食べる高級料理で、みそ仕立て。これが関西のお雑煮の元となります。

室町時代に入ると、このお雑煮を武家も食べるようになりました。武家では宴席料理の一つとして扱われ、他の惣菜とともに食べる汁物として広まっていきます。お正月に食べられるようになったのは江戸時代のこと。庶民が食べるようになったのもこの頃です。当時は年貢制度ができ、年貢として納めるための米作りが広まった時期でもありました。このことで、餅の原料となる餅米も全国的に作られるようになったと言われています。

当時、餅は供え物などとして利用される特別な存在でした。お雑煮がお正月に食べられる料理となったのはこれが理由。おめでたい料理(宴席料理)であるお雑煮(餅)を庶民が食べられるのは、お正月のめでたい時期のみだったからです。

餅の形が分かれるのは"関ケ原"

お雑煮の餅の形は、主に西日本では丸餅が、東日本では四角い切り餅が使用されます。この形の分かれ目は関ケ原なのだそう。もともとは公家文化の中で丸餅を使用していましたが、江戸時代には東日本で切り餅が主流となっていきます。

その理由は、当時は武士の人数が増えたため、餅を大勢で分けなければならなかったことにあります。また「敵をのす」(=倒す)との語呂合わせで縁起を担ぎ、餅を伸ばして「のしもち」にしたといいます。平たく伸ばした餅を切り分けて食べることで、効率的にたくさんの餅を作ったのです。このようにして江戸時代に切り餅が広まりましたが、この文化は関ヶ原を越えることはなく、西日本には切り餅が伝わらなかったようです。

関東のお雑煮


東京の代表的なお雑煮

上述の通り関東では切り餅を使用し、汁はすまし汁仕立てにします。同じ関東圏でも入れる具材は異なりますが、例えば東京では主に菜っ葉と鶏肉を使う「なとり雑煮」が食べられます。これは「名をとる」(=偉くなる)の語呂合わせで縁起を担いだことから。菜っ葉には主に小松菜が使用されますが、これは東京都江戸川区の小松川付近で採れる小松菜が東京の地域野菜であるためです。

ただし、東京はいろいろな地域の文化が集まっている場所なので、東京都内でも異なる内容のお雑煮を食べている地域もあります。例えば品川区・太田区界隈では、お雑煮の上に海苔を1枚のせて食べますが、その理由は同地域が海苔の産地だったことにあります。

また同じ関東でも埼玉県戸田市では、関東風のお雑煮の上にきんぴらごぼうがのっており、千葉県の九十九久里浜沿岸地域では「幅を利かせられるように」と、のりの1種である「はばのり」を使ったお雑煮が食べられています。


はばのりを使った千葉県九十九久里浜沿岸地域のお雑煮

関西のお雑煮


京都のお雑煮

一方、丸餅を使う関西では、汁は甘い白みそ仕立てです。また丸いのは餅だけでなく、大根や人参などの具材も、全て角を取って丸型にします。これは「角が立たない」「円満である」ことを願うため。

寺の多い京都では、お雑煮は精進料理風となり鶏肉は入れません。奈良でも同じように肉・魚類は入れず、さらにだしもカツオを使わず昆布だしのみ。動物性食品を使わない淡白な味付けの代わりに、奈良のお雑煮にはきなこが別皿に添えられます。奈良ではお雑煮の具材と一緒に餅を食べるのではなく、汁椀から取り出してきなこ餅にして食べるといいます。


奈良のお雑煮

大阪のお雑煮は、元日と2日目以降で内容が変わるのが特徴。「あきない雑煮」と呼ばれ、商売の"商い"と、"飽きない"をかけた名前がつけられています。その内容は、元日が白みそ、2日目がすまし汁のさっぱりタイプ。関西内でも内容が全く異なり、面白いですね。

その他特徴的なお雑煮

愛知県


名古屋のお雑煮

愛知県名古屋市は関ケ原より東にあり、切り餅をお雑煮に入れて食べるエリア。一般的に関東風のお雑煮は切り餅を焼いてから汁に入れますが、ここでは「白い餅=城」に見立てるため、「城は焼かない」という理由から焼きません。

また、具材は菜っ葉のみ。これは「名をあげる」(=有名になる)ことに由来します。さらに同地域は普段の食生活では赤みそを使用する文化圏ですが、お正月だけは「みそをつけてはいけない」(=失敗してはならない)ため、すまし汁を使用します。

鹿児島県


鹿児島のお雑煮

鹿児島県のお雑煮は、焼きエビでだしをとるという特徴が。汁からはえびの香りがただよう贅沢なお雑煮です。味付けには地元独特の甘口醤油を使います。中に入れる具材は豆もやしや白菜、鶏肉など。ちなみに、豆もやしを入れるのは「まめまめしく」1年を過ごせるように、エビを使うのはエビのように腰が曲がるまで長寿であるようにと、それぞれ縁起をかついでいます。なお鹿児島は本来なら西日本なので丸餅文化圏ですが、藩を治めていた藩主が東京に長くいたため、江戸文化を持ち帰って広めたことから、切り餅を焼いて使用します。

それぞれの地域のお雑煮について調べてみると、地域のルーツや名産品が分かってとても面白いですね。今年のお正月は改めて自分の家のお雑煮について、その歴史を調べてみてはいかがでしょうか。


情報提供元: トクバイニュース
記事名:「 お雑煮の不思議--西の丸餅みそ仕立て・東の切り餅すまし汁の理由は?